推しと「24時間つながれる」時代の病 「匂わせ」炎上を私たちは克服できるのか

1月5日(日)11時0分 J-CASTニュース

匂わせによる「炎上」は、アイドルとファン双方に疲れをもたらしていないだろうか(画像はイメージ)

写真を拡大

芸能界で、最近「匂わせ」による炎上が話題を呼んでいる。

アイドルや俳優がネットに投稿した一見なんでもない写真が、実は他のタレントとの交際をほのめかすものだった——とされる事例である。識者にも取材を行い、「匂わせ」多発に関するアイドルとファンそれぞれの心理の推測を試みた。近年のネット特有の炎上事例「匂わせ」の背景には何があるのだろうか。




多発する「匂わせ」炎上...濡れ衣も



「匂わせ」というファン用語が一般にも知られるようになったのは、「嵐」の二宮和也さんがきっかけだろう。交際相手の女性のブログ投稿などが一部ファンの詮索を浴び、誹謗中傷めいたものも含め、ネット上に多くの情報が氾濫。2019年11月に結婚を発表すると、Googleでは「匂わせ」という言葉の検索数が、前後で30倍以上も増加した(Googleトレンドより)。


この事例の他にも「匂わせ」とみなされたタレントへの炎上は、近年相次いでいる。


11月にはなにわ男子の高橋恭平さんがコンサートで客席のファンに投げたサインボールと、AKB48の山根涼羽さんがツイッターにアップした自作のサインボールの文面が似ていたことから、やはり匂わせではないかと批判が生じ、山根さんが「自分自身でも驚いている状況です。事実とは異なる情報が流れて困惑していますが疑問に思われるようなことは一切ありません。そして絶対に何もありません」と、匂わせを全面否定するツイートを投稿するまでになった。


同じ11月には、女優の佐野ひなこさんがインスタグラムに投稿した食べ物の写真が、「Snow Man」の渡辺翔太さんが同日に有料ブログで公開したものと似ているとされ、佐野さんの記事に渡辺さんファンからのコメントが殺到、後日インスタグラムのストーリーズで交際を改めて否定した。


これらは氷山の一角だ。たまたま男女のタレントが同じファッションの写真を投稿しただけで匂わせと決めつけて騒いだり、ブログやインスタグラムへの投稿文を穿って解釈し、詮索をしたりするファンもいる。上記のケースのように、根拠不明の「濡れ衣」を着せられることも少なくない。




タレントとファン、心理のすれ違い



なぜ、アイドルのファンは匂わせを嫌うのか。そして、炎上のリスクがあっても交際をほのめかしたくなるタレントがいるとすれば、その心理は何か。心理学者の鈴木丈織氏やネット社会に詳しいITジャーナリストの井上トシユキ氏らに取材すると、アイドルとファンそれぞれの立場が浮かび上がる見解が得られた。


鈴木氏は匂わせ投稿をする心理を、「ファンや交際相手へのアピール」とともに、「ファン目線での妄想気分」があるのはないかと指摘する。交際相手にまつわるものを読者(ファン)に見せ、「遠回しに相手への告白や、自分の愛情の深さをファンにアピールすると同時に、不特定多数のファンと秘密を共有して興奮を得たいのではないか」というのだ。交際相手のファン同様、自分は相手のこんなところが好きで、秘密も知っている、とアピールし、ファンと同じ目線で交際相手を愛でたい、という心理があるようだ。このようにして「ただ自分の幸せをファンと分かち合い、同じ幸せを味わって幸福感を共有したい」と鈴木氏は分析する。


タレントの方には、ファンと同じ目線で(交際相手の)恋人気分でいたい心理があるようだが、匂わせに批判を浴びせるファンの反応とはずいぶん食い違いがあるようだ。ファン側の心理について鈴木氏は、「独占化と占有化」の心理を指摘した。



「タレントに対してファンは役柄やビジュアルイメージを勝手に設定し、イメージを固定化する傾向があります。『みんなのあなた』ではなく『わたしのあなた』という独占的なイメージを持つ可能性があるのです」(鈴木氏)



「匂わせ」炎上に男女差はあるか



ここに、タレントとファンの食い違いが浮き彫りになっている。ファンと幸せを「共有」、あえて言うなら「おすそ分け」しようとするタレントに、ファンの側は推しを横取りされたかのような感覚を抱いてしまうのかもしれない。タレントにとっては「交際関係をアピールしたくなるくらい幸せ」と有頂天なのかもしれないが、ファンには推しと自分の関係に土足で踏み込まれたような抵抗を覚えるのだろう。匂わせ投稿が炎上するか否かは、鈴木氏は「表現の仕方がファンの価値観やイメージと合致するか次第」だと推測、危険な賭けでもあるとした。それまでファンが、匂わせたタレントに好感度を持っているか否かが左右するようだ。


ところで、匂わせが炎上に至るケースには、一定のパターンがみられる。男性アイドル(主にジャニーズ)の女性ファンが、交際相手とみなされた女性をバッシングする構図だ。逆はほとんど見られない。なぜ女性ファンばかりが「匂わせ」を嫌うのか。鈴木氏は女性の方が「自己防衛や守備力が強い」のではないかと推測している。自分を守りたく、タレントの側に攻撃的になってしまう傾向がうかがえる。


一方で井上トシユキ氏は、女性人気の高いジャニーズのファン界隈には、「オリキ」と呼ばれる古参のファンがその他を統制する傾向があるとし、その在り方を「アイドルへの過激な行為を集団で統制している」と分析する。対して匂わせるタレントは「芸能人の立場を利用して推しのアイドルに『抜け駆け』し勝手に近づいていると、嫉妬感を抱きやすいのでしょう」と語っている。


前出のように、ファンは自分と推しのアイドルの間に、一対一の擬似的な恋愛関係を見出す。となれば、突然の「恋敵」の出現に敏感になるファンが現れるのも無理はないのだろうか。




SNS社会にどう付き合うべき?



しかし、芸能人といえどもプライベートがあり、ある程度自身の趣味などをネットにつづる自由もあるのではないだろうか。たとえ実際は無関係でも恋愛を匂わせる要素は控えるというように、ファンが思う理想の姿を演じていなければならないのだろうか。これはネットでタレントのオフの様子も見られるようになり、ファンが24時間推しとつながっている擬似感覚を得られるようになったネット社会特有のジレンマかもしれない。


ネット史に詳しい井上氏は、こうした状況を背景に、ここ10年来の芸能人SNSのあり方が変わるかもしれないと推測する。芸能人ブログが始まったのは00年代中盤からだが、もととは「高嶺の花」のタレントに、身近で「等身大」的なイメージをもたらす効果もあった。しかしタレントを神聖視する一部の過激なファンは減るよりもむしろ行動が先鋭化しており、その一例が匂わせなのでは、とのことだ。


「『アイドル純潔主義』を捨てられず、恋愛要素に過敏になるファンは少なくないようです」と井上氏は指摘する。炎上を恐れてSNS・ブログでも日常の投稿を控えめにし、オフィシャルな情報発信にとどめるアカウントも既にあり、アイドルとネットの接し方が変わる可能性があるとしている。また井上氏は「匂わせ」のような炎上はファン側の問題でもあると指摘、「寛大」な態度も求めている。



「芸能人がファンに見せる投稿はすべてその人の素の姿ではなく、ある程度『やらせ』『プロレス』のような投稿をしています。一方でネットというバーチャルな空間ではファンは、与えられた情報から理想的なタレント像を妄想し、夢中になりやすい環境があります。妄想のタレント像が裏切られた!と思えば炎上が発生しますが、それよりもタレントの事情を理解し、彼らを受け入れようという姿勢の方が、ネット上でのストレスも減るのではないでしょうか」(井上氏)


(J-CASTニュース編集部 大宮高史)

J-CASTニュース

「炎上」をもっと詳しく

「炎上」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ