橘 玲さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

1月6日(土)7時0分 文春オンライン


橘 玲/作家


 学生運動の元活動家でヘロイン中毒のオーストラリア人が、銀行強盗の罪で収監された重警備の刑務所から脱獄し、偽造パスポートでインドにたどり着く。国際指名手配犯となった男は、無国籍都市ムンバイのスラムに身を隠し、白人のボヘミアンたちと出会い、ムスリムマフィアの一員になり、ニセ医師としてスラムのひとたちの生命を救い、暗い秘密をもつ女に愛を捧げ、アフガニスタンの戦場で九死に一生を得る。四十二歳の時にヘロイン密輸容疑で逮捕・送還されると、男は獄中で自らの驚くべき体験を書きはじめた。こうして奇跡のような自伝小説 『シャンタラム』 が生まれた。


 知の世界ではいま、巨大なパラダイム転換が起きている。それを一言でいうなら、社会科学や人文科学が自然科学によって侵食され、統合されていく過程だ。地殻変動の中心は、進化心理学などの「現代の進化論」、脳科学や行動遺伝学、複雑系とビッグデータ(統計学)、行動経済学とゲーム理論、そしてなによりも急速に進歩するテクノロジーだ。「意識」はこれまで哲学が特権的に論じてきたが、いまでは脳のシナプスの画像解析によって解明されつつある。


 こうして人間観が根底から変わりつつあることを説いたのが 『人間の本性を考える』 。大学時代にこれを読めば、なにを学び、なにを学ぶべきでないかがわかるだろう。


 知識社会化が進むグローバル世界の象徴がシリコンバレー。 『20 under 20』 は、リバタリアンの著名投資家ピーター・ティールが、大学をドロップアウトすることを条件に、起業を目指す二十歳未満の二十人の若者に十万ドルの「奨学金」を与えるプログラムを題材に、それに応募した「天才」たちの悪戦苦闘を取材することで、「世界を変える」という夢にとりつかれた人々が集まるシリコンバレーの秘密に迫る。そこは、ハイテクと六〇年代のヒッピー文化が同居する奇妙な世界だった。二十歳の自分がこれを読んだら、どんな人生の選択をするのか知りたい。


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『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ/新潮文庫



『人間の本性を考える』スティーブン・ピンカー/NHK出版



『20 under 20』アレクサンドラ・ウルフ/日経BP社




(橘 玲)

文春オンライン

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