武田 徹さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

1月6日(土)17時0分 文春オンライン


武田 徹/評論家・専修大学教授 ©文藝春秋


 才能溢れる人が早逝したり、重要な仕事を成し遂げた先達が逝去した年齢をあっけなく自分が越えてゆくたびに、私は長生きする才能だけには恵まれたのだと思う。そんな凡庸な自分であっても、もしも二十歳の頃に出会っていたら、少しは人生の角度が変わっていたかも、と思える三冊を選んでみた。


『大宅壮一のことば』 は「駅弁大学」「恐妻家」など数々の流行語を生みだしたマスコミ人のアンソロジー。実娘の愛情溢れる解説も手伝って、彼の賞味期限が今なお切れていないことが再確認できる。メディア界の寵児でありながら、常に世間に対して絶妙な批評的距離を保ち、電波芸人にも活字芸人にもならなかった仕事ぶりは、広く読まれ、深く考えさせる両立可能性を示す。若い頃、熱心な彼の読者になっていれば自分の中二病的マイナー趣味が多少は希釈されていたかもと思う。


『批判的主体の形成』 の著者は筆者が学んだ大学に起きた学生運動で学生側を支援した数少ない教員。筆者の入学時は既に大学を追われて久しい「伝説の人」であり、ずいぶん後になってから読んで強い感銘を受けた。神がいないと思わざるをえないほどひどい現実の中でこそ、救いのなさゆえに神に祈らざるをえない信仰の逆説を説いた巻頭の「存在しない神に祈る」は圧巻。若い頃は信じやすく、疑いやすい。そんな両極端を止揚する思索に出会う価値は時代と世代を越えて普遍的だろう。


『「普通の人」の哲学』 は数多の鶴見俊輔論の中でも思想の芯に直接触れる手応えを強く感じさせる逸品。頭の中で観念を弄ぶだけでは何もできない。何かしようと思ったら、それが「できる」身体を持たなければならない。著者が紹介する鶴見のプラグマティズムは魅力と説得力を兼ね備える。過去の自分への自戒も込め、頭でっかちになりがちな全ての二十歳に勧めたい一冊である。最近何かと話題の吉野源三郎『君たちはどう生きるか』への鶴見的言及の解説も一読の価値あり。


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『大宅壮一のことば』大宅壮一著・大宅映子編著/KADOKAWA



『批判的主体の形成』田川建三/洋泉社MC新書



『「普通の人」の哲学』上原 隆/毎日新聞社




(武田 徹)

文春オンライン

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