シューズで見る箱根駅伝 青学大の選手たちがアディダスからナイキに履きかえた驚き

1月6日(月)6時0分 文春オンライン

 区間記録が続々と更新された第96回箱根駅伝。記録とともに、選手が履くシューズにも注目が集まった。ナイキの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」が大会を席巻。出場10選手全員がこのシューズを履いて総合優勝を果たした青山学院大は、その象徴となった。


 毎年選手の足元をチェックしている駅伝マニア集団「EKIDEN News」( @EKIDEN_News ) は、今年も出場選手が履いたすべてのシューズを現地で徹底調査。大会前に「今大会は約8割の選手がナイキのヴェイパーフライを履く」と断言していた主宰の西本武司氏が「シューズで見る箱根駅伝」をマニアックに分析する。今年の箱根は、予想を上回る驚きの結果だった——。



復路のスタート直後。ほとんどの選手がナイキのヴェイパーフライを履いている ©文藝春秋


◆ ◆ ◆


 今年の箱根は予想以上に、たくさんの選手がナイキの「ヴェイパーフライ」(ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%)を履いていました。どれぐらい履かれていたのか、まずは昨年と比較してみましょう。


【2019年箱根駅伝のシューズ内訳】

・ナイキ 95人(ヴェイパーフライ87人+その他のナイキ8人)

・アシックス 51人

・ミズノ 24人

・アディダス 39人

・ニューバランス21人(ミムラボモデル15人+その他のニューバランス5人+三村モデル1人)


【2020年箱根駅伝のシューズ内訳】

・ナイキ 177人(ヴェイパーフライ ネクスト%)

・ミズノ 9人(プロトタイプ7人+その他のミズノ2人)

・ニューバランス 9人(プロトタイプ1人+フューエルセル7人+ミムラボモデル1人)

・アディダス 7人(プロトタイプ3人+その他のアディダス4人)

・アシックス 7人(プロトタイプ3人+ソーティ4人)

・デサント 1人


 なんと84.7%もの選手がナイキのヴェイパーフライを履いたのです。今年はナイキが席巻すると予想しましたが、まさかここまでとは……。


 ちなみに報道では「ピンクのナイキ」という呼び方が目立っていましたが、「ヴェイパーフライ ネクスト%」は3色あるので覚えておきましょう。2019年4月に発売された初代グリーン、9月にMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)に合わせて発売されたピンクブラスト、そして駅伝シーズンに向けて12月に発売された「EKDEN PACK」の左足がオレンジ×右足がグリーンのデザイン。これらは色違いというだけで、性能に差はありません。最新作の左右色違いはナイキから支給されたもの、グリーンとピンクは過去のモデルなので自前で購入した可能性が高いです(もちろん最新作を購入した選手もいたことでしょうし、履きなれたグリーンとピンクを履いてる場合もあります)。


 ともかく右を向いても左を向いてもヴェイパーフライだらけ。驚きの結果となりました。



“アディダススクール”の青学大がナイキに履きかえるきっかけは?


 なかでも一番驚いたのはアディダスがウェアなどをサポートする、いわゆる“アディダススクール”の青山学院大の選手が、全員ヴェイパーフライを履いていたこと。両者はこれまで様々なプロモーションを行なってきて、青学大=アディダスというイメージができあがっていたのですが……。当然、青学大はナイキのサポートを受けていませんから、選手たちは自腹でヴェイパーフライを購入しているはずです。そこまでしても、みんなナイキを履きたがったということでしょう。


 青学大の選手たちの間に、気兼ねせず、履きたいシューズを履くという空気が生まれたのは、2019年10月の出雲駅伝で5位に終わり、11月の全日本大学駅伝の最終区間で東海大にひっくり返され優勝を逃し、2位に甘んじた直後からです。



 全日本大学駅伝ではアンカーを走るも、トップを東海大の名取燎太選手にゆずり悔しいゴールをした飯田貴之選手。全日本大学駅伝の最長区間19.7kmを走った彼は、翌週11月10日に行われた世田谷246ハーフマラソンに自ら志願して出走しました。全日本ではアディダスだった足元が、このときからヴェイパーフライにチェンジ。飯田は世田谷246ハーフを1時間3分11秒で走り、優勝しました。



 飯田はその勢いにのって箱根駅伝本選では5区を走り、往路優勝のゴールテープをきります。思えば、全日本大学駅伝での敗戦が“青学ヴェイパーシフト”のスイッチでした。



 そこから選手たちはポイント練習や記録会でも、どんどんヴェイパーフライを履き始め、そして今回の箱根では出場選手全員がヴェイパーを履き、総合優勝を果たすのです。



青学大は「シューズの力で勝った」のか?


 ただ、この結果を見て、「シューズの力で勝った」と考えるのは早計です。青学大の選手たちにヴェイパーフライのポテンシャルを十分に生かせるだけの力があった、と捉えるほうが正しい。一時は不振も囁かれた青学大ですが、競技力は落ちていないことが、証明されたと言っていいでしょう。


 とはいえ、アディダスの心中は複雑でしょう。青学大が優勝したのは嬉しい。けれども大会中の写真をプロモーションに使おうとしても、ナイキの靴が写っているから使いにくい。相当なジレンマだと思います。


 ちなみにテレビには、走り終えた選手を迎える部員たちの足元や、優勝インタビューの時の足元も映っていたのですが、そこでは青学大の選手たちは、アディダスの黒いシューズを履いていました。走るのはナイキだけど、それ以外の場所で、カメラに映る時はきちんとアディダスを履く。大人の対応ですよね。そこまで徹底して使い分けるのが、今の大学駅伝の姿なのです。




そこまで速く走れない僕も「ヴェイパーフライ ネクスト%」を履く理由


 さて、なぜここまでヴェイパーフライが独占をしたのでしょう。もちろんタイムが出る、故障をしないというのも理由のひとつでしょう。けれども、僕は「走ることが楽しくなるシューズ」だから、というのも理由にあると思うのです。


 実は僕もナイキの「ヴェイパーフライ ネクスト%」に加え、ほぼ同じ履き心地の「ズームフライ3」2足を買いました。なぜならこの靴を履くと、気持ちよく走れるから。例えば前日飲みすぎた翌朝は足が重い。今日は走りたくないなと思う日もある。だけど、この靴を履いて、試しに1歩踏み出すとカーボンプレートの反発で足がポーンと出る。いつもなら10kmで終えていたけれど15km走ってみようとか、1km6分くらいのペースでゆっくり走っていたはずが、ついつい気持ちよくなって、1km5分を切るペースで走れちゃう。「今日は走りたくないなあ」という朝も、あのシューズなら走ってもいいかなという気持ちになれる。1歩を踏み出す決心を後押ししてくれるんです。


 ヴェイパーフライやズームフライといったナイキのカーボンプレートシューズは、ランナーの生活を変えるイノベーションだと思っています。ちょっと走ることに飽きてきた人も、箱根駅伝を目指す選手のように、毎日、走り続けなければならない人にとっても、「爽快に気持ちよく走る」という経験はたまらないものです。音楽を聴きながら走ることだって、iPodがなければ実現しなかった。革新的なイノベーションは、技術ではなく人の行動や気持ちを変えるものなのです。



 ヴェイパーフライを履くと足が弱くなるという人もいますが、そんなことはない。爽快感のある走りがあれば、毎日練習を積むことだって苦痛ではなくなるのです。これまでノルマをこなすように練習をしていたとしても、この靴なら前向きに走ることができる。その喜びはエリートランナーでも市民ランナーでも同じだと僕は思うのです。市民ランナーとして走りつづけてきて、ちょっとタイムも頭打ちになってきたな。そういう市民ランナーはぜひ、このシューズに足をいれてみるといい。これまでちょっと忘れていた「走る楽しさ」を思い出させてくれるはずです。そうして、こう思うでしょう。「また、記録狙ってみようかな」と。



 いつも明るく楽しそうな雰囲気の青学大の選手たちが、長く楽しく走れる靴を履いて箱根を制した。それが今年の箱根のシューズを象徴していると思っています。



区間賞の中でたった1人、ナイキ以外の選手がいた


 では、今大会で各選手が履いていたシューズの一覧も見てみましょう。区間賞をとった選手10人中、実に9人がヴェイパーフライを履いていました。






 80%以上の選手がヴェイパーフライを履いたのですから、区間賞を独占するのは当然の結果と言えます。けれども、ここに唯一切り込んだ靴があります。10区で区間新記録を出した創価大の嶋津雄大選手が履いていた、ミズノのプロトタイプモデルです。この靴はまだ市販されていないため、全容は分かりませんが、おそらくミズノが開発しているカーボンプレート入りのモデルでしょう。



 今回はミズノだけでなく、ニューバランス、アディダス、アシックスも、カーボンプレート入りと思われるプロトタイプを投入してきました。


 そんななか、今年新たに加わったのが、昨年11月にランニングシューズに本格参入したばかりのデサントの「GENTEN」です。これまで僕は、シューズ革命の争点は「厚底」vs「薄底」ではなく、「カーボンプレート」のありなしと言ってきましたが、この靴は薄底×カーボンプレートがキーワードになっています。今回の箱根では中央大で8区を走った矢野郁人選手が履きましたが、どんな広がり方をするか楽しみですね。


 他のメーカーが続々とカーボンプレートのシューズを開発していますが、ナイキには日本だけでなく、世界中のランナーから着用時のデータが集まってきますから、すぐに追いつくのはなかなか難しいでしょう。来年はヴェイパーフライがさらに着用率を伸ばすのか、それとも他メーカーの反撃が見られるのか。今から楽しみです。


構成/林田順子(モオ)




(EKIDEN News)

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