韓国芸能界でまたもや自殺……ソルリを苦しめたのは「悪質リプライ」と「女性嫌悪」か——2019 BEST5

1月6日(月)11時0分 文春オンライン


2019年(1月〜11月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。国際部門の第2位は、こちら!(初公開日 2019年10月25日)。



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 10月14日、韓国の人気女性アイドルグループ「f(X)」の元メンバー、ソルリ(25)が自宅で亡くなっているのが発見された。当日は仕事が入っていたが、前日の夕方以降、連絡がとれないことを心配したマネジャーが自宅を訪ねて分かったという。


 ソルリの訃報後、韓国ではSNSユーザーによる「悪質リプライ(悪質な書き込み)」と「女性嫌悪(ミソジニー)」への怒りが広がっている。



©元f(x)のソルリ ©getty


韓国紙各紙が取り上げた「悪質リプライ」問題


 各紙も「悪質リプライに苦しんだソルリへの追悼文に……お前も死にたいか? また悪質リプライ」(朝鮮日報、10月16日)「ソルリ追悼文にも悪質な書き込み……悪質リプライは顔のない殺人者」(中央日報、同)などと取り上げた。


 ソルリは11歳だった2005年、大河ドラマ『薯童謡』でデビューした。09年には、大手プロダクション「SMエンタテインメント」から5人組の女性アイドルグループ「f(X)」でK-POP界へ登場。瞬く間にスターダムに駆け上った。しかし、14年には活動をいったん休止。15年に「f(X)」を脱退した後は、歌手兼俳優として活躍の場を広げていた。その矢先の悲報だった。エンタメ業界に詳しい韓国紙記者は言う。


「まさにアイドルといわれた愛くるしい容貌と天真爛漫なイメージで人気を得ましたが、その自由奔放さが時に誤解を受けて物議を醸し、悪質な書き込みに酷く悩まされていたと伝えられています。14年に活動をいったん休止したのも原因は悪質な書き込みといわれていて、その頃からかどうかはわかりませんが、最近はうつ病を患っていたともいわれていました」


年上ヒップホップ歌手との交際でバッシングの標的に


 活動を休止したきっかけは当時、浮上した熱愛説。交際を認める過程で、悪質な書き込みが乱舞した。相手は、14歳年上のヒップホップ歌手だったが、発覚当初、交際を否定したソルリの態度を咎めたり、14歳年上の男性との交際が適切ではないとあげつらったり、(ソルリと相手が)活動のジャンルが異なることを指摘するなど「あきれるほどいわれのない、口にするのもおぞましい誹謗中傷が殺到した」(前出記者)という。



 この時の心境をソルリは、「どこにでもカメラがついているみたいに感じられて、一時期は路地裏ばかりを歩いていた」と自身が司会を務めていたテレビ番組『悪質リプライの夜』(JTBC)で明かし、過去には対人恐怖症とパニック障害も患ったと告白していた。同番組はタイトルどおり、悪質なリプライを題材に、これとどう向き合うかについて考える内容だった。



「こんな番組が成り立つくらい韓国社会の悪質リプライ文化は危険な水準に達しているとみんな思っている。ソルリが司会を引き受けたのは自ら悪質リプライを克服しようとしていたからでしょう」(前出記者)。しかし、同番組にはソルリの死後、「ソルリを追い込んだ」として非難が殺到し、放送終了が発表された。


2度目のバッシングのきっかけはインスタ配信


 ソルリが再び、悪質リプライの標的になったのは今年4月。自身のインスタグラムでブラジャーをつけずに、酔った姿でライブ配信を行った際、胸元に言及する書き込みが集中した。それに対しソルリは「視線強姦(*)する人はもっと嫌だ」と言い、物議を醸した。


*……見られる側の意思に反し不快な視線を向けることを指す、韓国におけるネット用語


 前出の番組でとりあげられた際に「ブラジャー着用は必須ではなく選択であって、アクセサリー」と再度コメントすると、悪質な書き込みがさらに増殖。また、女性の堕胎を違法とする堕胎罪に違憲判決が下りた際には、「栄光の日ですね。すべての女性に選択権を」とコメントすると、これもバッシングの対象に。



 この頃から、ソルリに「奇行」「構ってちゃん」という修飾語がついて回るようになったが、彼女の言動は20〜30代の女性から少なくない共感も得ていた。別の韓国紙記者は、「ノーブラ騒動や堕胎罪違憲への意見については女性から支持を受けたのもまた事実。今(韓国)社会に広がる“女性嫌悪”(ミソジニー)がソルリを標的にし、苦しめたという声もあがっています」と話す。


海外で注目されたソルリのフェミニスト的一面


 日本の報道ではほとんど触れられていなかったが、ソルリの「フェミニズムのアイコン」としての側面に触れて報道した外信は少なくなかった。


 香港の『サウスチャイナモーニングポスト』は、ソルリを「フェミニストファイター」と称し、米国の芸能雑誌『ピープル』は、「スポットライトが当たっている間、自身のフェミニスズム的理想について話をしていたソルリは、保守的な韓国社会を生きる他の同世代と一線を画した」と報じた。同AP通信は、「ソルリはとても保守的な韓国社会でフェミニストとしての主張をし、それを気にすることもなく行動する数少ない女性エンタテイナーだった」と配信している。前出記者は言う。


「女性アイドルは美しく、かわいく、そしてなにより柔順でなければならないというイメージがついて回る。職業がアイドルですからやむを得ないのかもしれませんが、韓国社会が持つ女性のイメージからいったん外れたことをすると、ここぞとばかりに悪質リプライというSNS上での集団暴行が始まります。


 ソルリはまだ20代半ばでした。あれほどの悪質なリプライに向き合って耐えろというのは苛酷すぎる。精神が蝕まれてもおかしくありません」



 韓国日報は、「SNS上のセクシャルハラスメント、容貌への攻撃……毒キノコのように広がる”ジェンダー嫌悪”」(10月16日)と報じ、韓国の通信社「newsis」には、建国大学ユンキム・ジヨン教授のこんなインタビューが掲載された。


「ソルリに向けた悪質リプライの根源には社会が要求する女性性を規定し、これに合わない女性に向けて行う女性嫌悪があるのです。こうした観点からみれば、悪質なリプライは従順ではない若い女性をわたしたち社会が断罪していると分析することができる」(News1、10月17日)


「マーズ」騒ぎで韓国社会の「女性嫌悪」が議論されるように


 こうした批判が挙がる背景には韓国で数年前から深刻化している女性嫌悪問題がある。 


 その萌芽は軍服務が義務とされる男性に与えられていた「軍服務加算点制」(公務員試験などで加算点が与えられていた)が「女性や障害者などの権利を侵害する」として違憲となった1999年に遡る。これに男性からは「苦労して軍隊に行っているのに女性たちがそれを認めない」など声を上げ、大きな論争となり、その頃から「女性嫌悪」がむくむくと大きくなったといわれている。


 それ表面化したのは、2015年5月に起きたウイルス性の感染症「マーズ(MERS、中東呼吸器感染症)」騒ぎの際だった。



 中東から帰国した男性経由でマーズが韓国に持ち込まれたが、ネットでは、「香港に旅行した20代の女性が持ち込んだ」というフェイクニュースが流れ、拡散。当時、ネットには女性を嫌悪する書き込みがあふれた。


 これにフェミニズムに関心がなかった女性たちも大きく反応し、当時話を聞いた30代の女性は、「ネットの書き込みを見て、えっ、女性嫌悪って何? と思っていろいろ調べているうちにフェミニズムについて深く考えるようになりました」と話していた。今ある女性嫌悪と闘うことを標榜する社会運動団体などは、この頃に設立されている。


誹謗中傷を書き込んだ相手への訴訟を検討したことも


 警察は16日、ソルリの解剖結果を発表し、「他殺の嫌疑なし」とした。


「そこまで追い込まれる前に悪質リプライなら訴えればいいだろう」


 そんな声も数多く聞かれた。


 ソルリも生前、誹謗中傷を書き込んだ相手への訴訟を検討したことがあったという。しかし、その相手が自分と同年代だと知り、「同年代を前科者にするのは心苦しい」と取り下げたそうだ。 



(菅野 朋子)

文春オンライン

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