文章がイラストを完全に食っている!? 人気シナリオライター初のラノベ『始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇』

1月6日(火)20時0分 おたぽる

『始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇』(集英社/王雀孫)。

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 2014年新創刊された集英社のライトノベル・レーベル「ダッシュエックス文庫」に鳴り物入りで登場したのが、王雀孫氏の『始まらない終末戦争(ラグナロク)と終わってる私(ウチ)らの青春活劇(ライブ)』です。イラストレーター・えれっと氏の表紙でもあり、ジャケ買い必至の作品でしょう。

 これまで『それは舞い散る桜のように』や『俺たちに翼はない』など、数々の名作エロゲーのシナリオで知られる王雀孫氏。今年3月発売予定の「みなとカーニバル」の作品『姉小路直子と銀色の死神』への参加も告知されていて、話題を集めています。そんな人気シナリオライターの初のラノベということで、期待は尽きません。

 さて、物語はいわゆる学園ものです。看板に偽りなく、終末戦争(ラグナロク)は始まりません。いや、てっきり終末戦争みたいなのが始まるSFかファンタジーになるんだろうと思ったら、思いっきりまっすぐな学園青春ものなんです。

 物語の舞台は埼玉県。主人公の有田雁弥は高校一年生。ちょっとギャル文化に目覚めつつある妹の鞠弥と一緒に電車に登校するのが日課です。そんな彼らが出会ったのが、二年生の新田菊華。彼女は雁弥に、こう問いかけます。

「貴官に問う。なにゆえ旧メモリーが残っているのか。すでに芽生えを果たしているのか」

 おっと、SF展開かと思いきや、違います。菊華は美人なのに、かな〜り重度な厨二病患者。しかも、毎日設定が変わります。

 そんな奇矯な菊華によって、雁弥はなぜか廃部にされた演劇部改め喜劇部(仮)に協力させられ、物語が進んでいくのです。

 なかなか重大な事件が起こらない学園の日常。なのにぐいぐいと読ませるのは、独特の文章のテンポと修辞、そして仕込まれるネタです。

 場面転換では
 
 第一部、第二章、第二幕。
 とき——前幕より継続。
 ところ——新校舎、廊下。

 といった風にシナリオ風味に書き、余計な描写を省きつつ読み手に情景を意識させるといった高度なテクニックも用いられております。

 そこに「キモ」とか「〜じゃん」とか微妙なギャル語を使う妹・鞠弥。

 モノローグ描写の後には「俺、こんな青春ロードムービーみたいな、前向きモノローグ入れた覚えないんですけど」とメタ発言を挿入したり「週刊少年ジャンプ」ネタを仕込んだりと、徹頭徹尾文章の面白さで読ませようという意志が見えるのです。

 本来ラノベとは、文章とイラストが調和して成り立っているものです。中には、イラストがよいけど物語がダメダメとか、イラストがコケてる作品もあります。ただ、大方の作品は文章とイラストの融合によって成立しているジャンルが、ラノベでしょう。ところが、この作品は文章が完全にイラストを食っているのです。イラストを気にせずとも、文章のテンポでサクサクと読めてしまうのです。その点で、これまでのラノベではなかった"映像化しにくいけど面白い作品"といえるでしょう。

 イラスト不要なレベルまで、独特の文体をくみ上げている王雀孫氏。この先、ラノベではどんな作品を書き上げていくのか期待がやみません。

 なお、完全に食われてると私が評した"えれっと"氏ですが、氏のイラストに力がないわけじゃありません。単に今回は文章がすご過ぎただけですから。氏のイラストの実力は、巻末あとがきイラストのヒップラインでよくわかります。お二人は仲良しだとの噂なので、今回の作品では、この力関係がベストという判断があったのかとも思いました。
(文/大居 候)

おたぽる

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