小林よしのり×八木秀次 天皇退位賛成派と反対派が激突

1月6日(金)7時0分 NEWSポストセブン

小林よしのり氏は退位賛成派

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 天皇陛下の生前退位について、賛成、反対両陣営の“筆頭”である小林よしのり氏と八木秀次氏の2人が150分の激論を交わした。


 * * *

小林:八木さんは生前退位に反対なんだよね。認めると皇位が不安定化するとか言ってるけど、まったく理解できん。


八木:これまで天皇の退位が認められなかったのは、まず政治利用の問題(*)があるからです。その弊害が大きいので、明治に皇室典範を整備する際、当事者の意思が介在しない形で制度設計を行った。誰かの意思で退位や即位ができると、皇位が安定しない。


【*過去、上皇や法皇が政治的影響力を行使したり、時の権力者が天皇を退位させたりする例があった。明治の皇室典範制定時の議論で、伊藤博文は代表例として南北朝の争乱を挙げた】


小林:昔は権力が天皇を利用することがあり得たけど、今の天皇は権力と結びついていない。権力者は選挙で決まるんだから、天皇の権威には左右されないでしょ。


 わしは承詔必謹の立場だから、天皇の願いを100パーセント叶えるべきだと思う。天皇の立場を経験した人間は他にいないのだから、そのあり方について一番わかっているのは天皇陛下。その陛下が「伝統とは何か」「象徴天皇はどうあるべきか」を考えられた結果が8月8日のお言葉ですよ。


 譲位によって皇位が不安定になるというけど、これは逆でしょう。今の不安定要因は、高齢化。もし天皇が認知症になってしまった場合、摂政を置くと、20年も30年も天皇が世の中に姿を見せないことになるかもしれない。つまり、20歳や30歳になるまで天皇を知らずに過ごす国民が出てくるわけ。そのほうが皇位の安定性が失われるよ。


八木:日本は伝統的に、天皇個人の意思で国が動くシステムは採っていない。それが近代になって立憲君主制という形になった。ところが8月8日のお言葉は個人の意思を述べられ、そこで具体的な制度変更を希望されました。これは憲法に抵触するので、政府は動けない。天皇陛下がテーマ設定をされたこと自体が、問題解決を困難にしている面があるわけです。水面下でご意向を示されて、政府が独自の提案理由で立法する形ならば良かったのだが。


小林:わしもそれを政府がやるべきだったと思う。でも内々に伝えてきたのを政府が無視したんだから、国民の前で思いを述べられる以外にやりようがない。政府が動かないから、ああいう手段を採らざるを得なかったんだよ。


 そもそも、天皇陛下が自由意思で発言するのはおかしくも何ともない。


八木:いや、それはダメでしょう。


小林:なんで? 発言自体は問題ないでしょ。権力側がそれを聞くかどうかを決めればいいんだから。


八木:天皇が国民統合の象徴であるためには、国民の間で賛否のある論争の渦中に立ってはいけない。賛成派と反対派に二分されてしまう。


小林:もちろん、原発推進か反対かみたいな議論で個人的な意見を言っちゃダメ。でも天皇制をいかに維持するかという問題は、公的な発言でしょ。自分の経験に基づいて、国民に議論を喚起するために話された。それを受けた国民の90%が退位を希望しているのだから、それに見合う法律を作ることに何の問題もない。


八木:陛下のお気持ちは強いし、世論調査でも高い比率で支持されているので、政治的には退位を実現せざるを得ないと政府も考えている。ただ、法的な理屈が立たない。皇室典範改正であれ、一代限りの特別措置法であれ、政府としてそれを国会に提案する理由がどこにもない。天皇陛下のお言葉を受けてそのまま動けば、陛下が大事にされている憲法を否定してしまう。


小林:天皇陛下のお言葉ではなく、国民がそれを望んでいることを根拠にすればいいだけの話でしょ。


八木:国民の意思を把握するために、政府独自の世論調査も検討されている。


小林:別に政府がやんなくたって、テレビや新聞がさんざんやってんじゃない。


八木:しかし世論調査を根拠に法律を作ったことは過去に一度もない。だから政府は頭を抱えている。法律の最初に提示すべき「目的」を書くことができないんです。他の部分はほとんどできあがっているが、それが書けないと法律にならない。


小林:「皇位の安定性を維持するために」と書けば済むことじゃない。


八木:それは小林さんの意見であって、政府には「むしろ皇位の安定性を脅かす」という見方があるわけですから。そもそも憲法では、天皇が高齢になった場合の措置として「国事行為の臨時代行」と「摂政の設置」を規定している。政府としては、憲法のこの規定を採用せずに新たな法律を作る理由がありません。


小林:摂政はダメ。天皇が精神や身体に重大な疾患を抱えているなど、何もできない場合の制度なんだから。


八木:私自身、摂政には反対で、「国事行為の臨時代行」が落とし所だと考えている。現状をしのぐには、それが一番簡単な制度変更でしょう。昭和天皇の最晩年は、この制度でしのいだ。


小林:短期間なら「臨時代行」でしのげるだろうけど、皇太子殿下が臨時代行の状態を何十年も続けたら、それこそ権威が二分化するよ。


八木:それは退位でも同じでしょう。


小林:いや、退位して太上天皇になった場合、国事行為はやらないから。


八木:しかし今の天皇が退位した場合、おそらく完全に引退はなさらず、公的行為は続けられると思う。あちこちにお出かけになって国民と接するだろうし、外国訪問もするかもしれません。退位が実現しても、それによる権威の二分化には気をつけなければいけない。


小林:それは今の天皇陛下ご自身が細心の注意を払いますよ。太上天皇になられたら、今の皇后陛下が天皇陛下に頭を下げるのと同じように、新しい天皇陛下に頭を下げて敬意を示すでしょう。権威は断然そちらにあるわけだから、国内外から「来てほしい」という要望も、太上天皇より天皇陛下に集中すると思うね。だからこそ、臨時代行ではダメ。外国訪問でも、臨時代行では相手の王族などと対等のパートナーにならないから失礼になる。


【PROFILE】こばやし・よしのり/1953年生まれ。『おぼっちゃまくん』でギャグ漫画に新風を巻き起こす。現在、本誌にて『大東亜論 自由民権篇』を連載中。今年2月下旬に刊行予定の『天皇論 平成29年』を鋭意執筆中。


【PROFILE】やぎ・ひでつぐ/1962年生まれ。早稲田大学法学部・同大学大学院法学研究科修士課程を経て、同大学大学院政治学研究科博士課程を中退。専門は憲法学。昨年11月、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」で八木氏にヒアリングが行われた。


※構成/岡田仁志(フリーライター)


※SAPIO2017年2月号

NEWSポストセブン

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