小児がんと闘い抜いた我が子の短い生涯を父親になって追体験するゲームが話題に

1月7日(木)11時0分 おたぽる

『That Dragon, Cancer』公式サイトより。

写真を拡大

 映画と並び一大エンターテインメント産業のビデオゲームだが、昨今のクラウドファンディングの普及や、ゲーム制作を容易にする優れたゲームエンジンの登場もあってか、これまでなら商業的に難しいと思われる作品でも世に出やすくなってきているのは確かなようだ。クリエイターの“個人的体験”を押し出した作品も多く、その中でも心を痛めずにプレイできないゲームとして注目を集めているのが、我が子の小児がん闘病の日々をモチーフにしたアドベンチャー『That Dragon, Cancer』だ。


■最愛の息子のがん告知から闘病の日々をゲームを通じて追体験

 米・コロラド州ラブランドを拠点にするインディーズデベロッパー、Numinous Gamesが手がけ1月12日にSteamからリリースされるこの『That Dragon, Cancer』(PC版、Mac版、Ouya版)は、4年間の脳がん闘病の末に5歳の時に亡くなった男の子・ジョエル君の短い生涯をモチーフにしたハートブレイキングなアドベンチャーゲームである。

 ジョエル君の父親であるプログラマーのライアン・グリーン氏と、妻のエイミー・グリーン氏に加え、夫妻の友人でアーティストのジョシュ・ラーソン氏によって、約1年間を費やして完成にこぎつけたのがこの『That Dragon, Cancer』だ。プレイヤーの想像の余地を残すためにあえて荒いポリゴンで作り上げたビジュアルで、父親のグリーン氏の視点に立ち、最愛の息子のがん告知から闘病の日々をゲームを通じて追体験できる内容になっている。

 発売日の1月12日には、ジョエル君が大好きだったパンケーキで一緒にお祝いしてくださいという提案が『That Dragon, Cancer』公式サイトで呼びかけられている。もともと本作は、小児がんと闘うジョエル君への“応援歌”として企画されたものであったが、残念ながら4年間の闘病生活の後、2014年3月に5歳でその短すぎる生涯を閉じた。この時点で企画を“ボツ”にする選択もあったというが、多くの思い出を残してくれたジョエル君のため、そしてジョエル君を応援してくれた人々と、世界中で同じ境遇にいる親たちのために、趣旨を変更して開発は続行されることになり本作が生まれたのだ。

 当然のことながら心が痛むストーリーであり、マーケティング上は難しいといわざるを得ないのだが、クラウドファンディング時代の今、こうした作品の登場が不可能ではなくなってきている。はたして『That Dragon, Cancer』がどのようなゲーム体験をもたらしてくれるのか大いに気になるところだ。


■ジョエル君と両親の闘病の日々を綴ったドキュメンタリー映画が映画祭で上映

『That Dragon, Cancer』は世界最大のゲームイベントである「E3 2013」内の、独創的なインディーズゲームが並ぶ「IndieCade」でコンセプトが出展されて多くの注目を集め、開発計画が具体化することになった。そして2014年にクラウドファンディング「Kickstarter」のキャンペーンとして立ち上げられ、3687人の出資者から目標の8万5000ドルを上回る10万ドル以上の投資を集めて同年12月にファンディングは成功。2015年いっぱいを費やして制作されることになる。

 一方、ジョエル君とグリーン夫妻の闘病の日々とそれに続くゲーム制作というチャレンジングな奮闘が、ドキュメンタリー映画監督のデイビット・オシット氏の目に留まり、夫妻の体験とゲーム制作の模様を追ったドキュメンタリー映画『Thank You for Playing』の製作に至り、2015年4月に米・ニューヨークで開催されたトライベッカ映画祭で上映されたのである。ジョエル君が亡くなったわずか1カ月後のことであった。

 ジョエル君の父であり『That Dragon, Cancer』の作者であるライアン・グリーン氏によれば、このゲームはインタラクティブな“ポエム”であるという。

「このゲームを構想する前、ジョエルの看病をはじめた時からポエムは私の表現行為になり、息子の闘病中ずっと続きました」と、ライアン・グリーンはゲーム情報サイト「Engadget」で語っている。

「私にとってポエムは、最初の着想を得てそれに続く深い理解をもたらしてくれるもので、これはゲーム作りと同じなのです。…(中略)…深い悲しみはしばしば、その中でより多くのことを学ぼうという姿勢と、事態を客観的に見る目を同時に与えてくれます。本作の表情のないポリゴンの登場人物たちと共に、最も深い悲しみの中にあってもそこには単なる悲哀と悲痛な切望以上のものがあることを見出してほしいのです。暗黒の闇の中にあってもそこには楽しみと希望があり、それらの体験すべてをひっくるめたものが人生なのですから」(ライアン・グリーン氏)

 まさに“文芸ゲーム”とでも呼べそうな『That Dragon, Cancer』だが、クラウドファンディングが定着した今日のゲーム制作環境が、このような作品の登場を後押ししていることも確かだろう。ともあれこうしてゲーム表現の幅がどんどん広がってきていることは歓迎すべき事態だ。
(文/仲田しんじ)


【参考】
・Engadget
http://www.engadget.com/2015/12/22/that-dragon-cancer-release-date-pancakes/

おたぽる

この記事が気に入ったらいいね!しよう

小児がんをもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ