正統派俳優・中井貴一が明かす、俳優人生の中で思い出深い高倉健からの電話

1月7日(日)21時0分 週刊女性PRIME

中井貴一 撮影/佐藤靖彦

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「ホームドラマって、サスペンスなどと違い、わかりやすい起伏がないぶん、企画を出す側も演じる人間も難しいんです。テレビ東京だからこそ描ける作品になればいいですね」

 男手ひとつで育てた娘の結婚を前に、葛藤しながらも奮闘する父親を演じたスペシャルドラマ『娘の結婚』。自身には子どもがいないが、作品を通して、あらためて気づかされたことがあったという。

「父親(俳優の佐田啓二)が亡くなったのが38歳で、僕はまだ2歳半だったんです。だから自分自身が父親の年齢を越えるのが想像つかなかったし、子どもができて自分と同じ思いはさせたくなかったというのもあり、子どもをつくらなかった部分もあります。だから今回のお話を受けるときに、父親って何なんだろう? と……。

 周りに話を聞かせてもらったけど、子どもをもつ友人たちも“父親の存在意義って何だろう”って口をそろえるんです。やっぱり子どもにとって、母親が何よりも大きな存在なんだなって」

 昔と比べてライフスタイルも大きく変化したが、シングルファーザーが置かれた状況はまだまだ厳しい。

「主夫も増えましたけど、子ども側からみてもシングルファーザーで育てあげるのは、まだまだ大変な世の中だと思います。そんな中、やむをえず父親だけで育てないといけなくなったという主人公の立場には共感できた部分もありました」

 劇中では娘の結婚という大きな転機を迎えるが、自身の大きな転機は?

「単身中国で撮影した映画『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』(’04年)ですね。大学時代に『連合艦隊』で初めて映画の現場を経験したんですが、それから20年ぐらいたって、自分の進む道について悩んだときに自分をすごい困難に陥れて打開しないとダメなんじゃないかなって思ったんです。それで40歳の誕生日に、まだ経済発展中だった中国にひとりで行ったのですが、そこで人生観が大きく変わった気がします」

 スケジュールどおりに進まない撮影現場。水道からは砂まじりの水しか出ないホテル……など、日本とは勝手が違いすぎる環境に何度も心が折れそうになったという。そんなとき、あの大スターからの電話に救われたそう。

「よくわからないまま撮影も行われずに1週間も砂漠の真ん中にあるホテルで放置されたとき、さすがに我慢の限界に達して帰国しようと荷造りしたんです。そして今からホテルを出るぞというタイミングで、高倉健さんから電話があって。そのときの状況や不満を説明したら“つらいな。でも君はそこに何しに行っているの? 目的を果たさないのがいちばんカッコ悪い。ここで帰ってきたら負けだよな”と言われて、そこで自分が何のために行ったのかを思い出したんです」



■キャリアを積んでも初心は忘れない



 実は中国行きを決めた段階で、高倉さんに相談していたという中井。その際に“海外の映画を1本経験することは、国内の映画10本分の価値がある”とアドバイスされていたとか。

「その作品に関して言えば、国内の映画30本分ぐらいの経験になりましたけどね(笑)。役者という以前に、人間としての経験値が上がったというか。生きることってどういうことだろう? という考えまでたどり着きましたから。日本に帰ってきたときに、水道をひねればキレイな水が出てきてくれるので、“すごい……”と感動して水をしばらく見てしまったぐらい。中国で4本映画をやらせてもらいましたが、いかに日本が恵まれた環境なのかを身をもって感じられたことも含め、よい経験でしたね」

 今回、王道のホームドラマに挑戦しているが、“正統派”を貫くことが自身のテーマでもあるようだ。



「尊敬する小林桂樹さんに“アウトローが評価されやすい時代だけど、正統派でいてくれ”と言われたんです。だから正統派でいたいという思いは頑なかな。世の中で芸術家や自由業の人たちって多くても3割程度。残りの7割であるサラリーマンが日本を支えているからこそ、残り3割も活躍できるということを忘れちゃダメだと思うんです」

 わかりやすいヒーローや悪役が求められやすいドラマにおいて、つい陰になりがちな市井の人たち。

「俳優でもアウトロー役のほうが目立つけど、正統派がいないと作品は成り立たないんです。もちろん役者としていろんな役を演じたい気持ちはあるけど、核となる信念はその言葉で学びましたね。今回の作品もアウトローとは真逆の正統派なホームドラマですけど、共感してもらえる作品になればいいなと演じています」

 数多くの賞を受賞し、国内外で活躍するキャリアを積んだ俳優となった今でも、初心を忘れない。

「先日20代の記者に“夢を教えてください”って聞かれたんです(笑)。56歳になって20代に夢を聞かれるって普通ないから、とてもうれしかったですね。人間、いくつになっても夢って持ち続けていたいもの。特に役者という仕事は終わりがないものだから、70歳になっても夢を聞かれる存在でいたい。

 自分の生活や精神的なものを豊かにしていきたいし、そこに必要なものはどんどん取り入れたい。あとここからは恥をかいていこうかなって。恥をかくことが、挑戦につながると思うんです」

<出演情報>

新春ドラマスペシャル『娘の結婚』

1月8日(月・祝)夜8時〜、テレビ東京ほか。出演/中井貴一波瑠満島真之介、光石研、奥貫薫、キムラ緑子、段田安則、原田美枝子ほか

週刊女性PRIME

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