「西郷どん」に続け。大河ドラマ誘致の“成否”を分けるポイントは?

1月8日(月)7時0分 文春オンライン


 地方の自治体にとって大河ドラマの舞台となることは朗報だ。観光客を呼び込み関連の事業も活性化する。そのため誘致に必死になる……。大河呼び込み合戦を地方自治に詳しい北村純氏が報告する。(出典: 文藝春秋オピニオン 2018年の論点100 )



「西郷どん」に沸く鹿児島県


 第57作目になる大河ドラマ『西郷(せご)どん』(2018年)放送決定のニュースが伝えられると、西郷隆盛のご当地となる鹿児島は喜びに沸いた。「NHK大河ドラマを誘致する会」による官民連携の誘致活動が実ったと地元メディアは伝えている。​



ドラマは1年をかけて放送される。上野の西郷さんは? ©iStock.com


 一口に大河ドラマの誘致といってもその活動内容は様々だ。メディアを賑わすのは、大河ドラマの主人公(歴史人物)と舞台となる地域を提案する誘致活動である。また時代劇に欠かせない城や邸のセットや戦のシーンのためにロケ地・撮影場所などを提供する誘致活動もある。


「NHK広報部によると、『大河に取り上げて』と要望がある歴史人物は30人ほど」(朝日新聞[名古屋]2012年3月26日夕刊)——筆者も文献研究として誘致活動を調べてみたが、人物の数についてほぼNHK広報部・朝日新聞が伝える通りと見ている(ただし活動の推移によって若干の更新はある)。



鹿児島を象徴する桜島は観光客増加となるか ©橋本篤/文藝春秋


 誘致活動で提案される人物は多様だ。明智光秀(京都府福知山市など)、加藤清正(熊本県熊本市・愛知県名古屋市)、徳川光圀(茨城県水戸市)のように時代劇などでおなじみの人物、そして大友宗麟(大分県大分市)、伊能忠敬(千葉県香取市)、ジョン万次郎(高知県土佐清水市)など歴史教科書に登場するような人物ばかりではない。



【表】大河ドラマ誘致活動で取り上げられている歴史人物


 魅力的であるが、一般にはほとんど知られていない人物も多い。たとえば、幕末・備中松山藩(岡山県)の陽明学者・山田方谷(ほうこく)。農民出身で藩の重役となり財政整理・藩政改革に尽力した。誘致活動は地元出身の著名人・財界人からも支援を受け77万筆の署名を集めている。幕末の薩摩藩士・村橋久成は藩命で英国留学、戊辰戦争に参加。のち開拓使につとめ、麦酒醸造所を建設、軌道に乗せた。誘致活動は北海道を舞台とした大河ドラマの可能性を求め札幌市を拠点としている。また戦国期の北条五代(神奈川県小田原市)、朝倉五代(福井県福井市)、里見氏(千葉県館山市)のように一族をひとまとまりにした誘致活動もある。木曾義仲・巴御前(富山県小矢部市など6県41団体)や三浦按針(大分県臼杵市、静岡県伊東市、神奈川県横須賀市、長崎県平戸市によるANJINプロジェクト)など広域連携の誘致活動も進められている。


出典「文藝春秋オピニオン 2018年の論点100」

 誘致活動の内容は、知名度向上・啓発、署名活動、NHKへの陳情などが主なもので、地域の人々の郷土への思いや歴史人物への敬愛の念が活動の発端になっていることは間違いない。1990年代後半からの誘致活動が実った例として、『利家とまつ』(2002年)、『天地人』(2009年)がある。この2つが作品としても成功したことから、各地の誘致活動が活発化した。『江〜姫たちの戦国〜』(2011年)、『軍師官兵衛』(2014年)、『真田丸』(2016年)、今回の『西郷どん』の6作品が誘致活動の成功事例とメディアは伝える。



展示館からゆるキャラまで経済効果は100億円


 なぜ誘致活動は各地に広がり盛り上がっているのか。2000年代に入りNHKは大河ドラマの視聴者層を女性や若者へ拡大するため、時代劇・時代小説で親しまれてきた主役級の人物だけでなく、従来脇役とされてきた地方の有力な人物やその人物を支えていた女性たちなども有力候補として考慮するようになった。そのため地域の歴史人物をドラマの中心人物にする可能性が広がったのである。



ご当地キャラクター、いわゆる「ゆるキャラ」が便乗することも ©杉山拓也/文藝春秋


『大河ドラマの50年』(中央公論新社)の著者・鈴木嘉一氏は「文化的公共事業」「特需」というキーワードで近年の状況を経済効果・社会効果(経済・社会的要因)から説明している。〈1〉観光客の増加、〈2〉期間限定の大河ドラマ展示館による交流と集客、〈3〉大河ドラマ・グッズの数々の売上げ(〈2〉〈3〉はNHKエンタープライズが協力)。最近では放送に合わせて自治体や観光協会などがドラマ関連のゆるキャラを企画、大河ドラマ観光のアイコンとなり、ゆるキャラ・グッズが利益を生む。各日銀支店やシンクタンクが大河ドラマの経済効果を100億円規模と試算しており、ドラマの文化的公共事業としての波及効果は大きい。大河ドラマは、短期的・特需的であるが、経済効果(観光振興)から社会効果(人的交流や地域の知名度向上)に至るまで、地域に好循環を生み出す機会と期待されている。


 しかし、誘致活動だけでドラマ化が決定するわけではない。朝日新聞前掲記事によれば、NHK広報部は「採否を分けるのは1年間の放送に堪えるエピソードがあるか、その人生に現代と共通するテーマがあるか、の2点」として、「地元の声も参考意見にさせてもらう」と述べている。


NHKが採択するときのポイントは何か 


 2001年放送『北条時宗』から2019年放送予定の現代劇『いだてん』まで19作のうち、上述の六作品が誘致活動の影響を直接受けたとしても、採択された作品は3割余り。筆者は採択の可能性はそれほど高くないと考える。



NHK放送センター ©iStock.com


 大河ドラマの誘致活動の盛り上がりには政治的要因もある。大河ドラマの誘致は地域活性化の切り札のように扱われ、成功すれば多数の人々に相応の分配が期待できる。また誘致活動のなかで、首長・地方議員や自治体は諸団体のまとめ役・調整役となり必要な予算措置が求められることもある。誘致を志す各地の地方議会では大河ドラマ誘致の議員連盟が官民の誘致活動に先駆けて(併行して)つくられることが多い。福井県のように自治体首長が中心となり県を挙げて大河ドラマの誘致を宣言するケースも出てきた。こうして誘致活動は地方政治の利害関心の範囲に組み入れられつつある。誘致活動の成果を求めるあまり、誘致の提案が採択されないと「落選」と伝える地域メディアもやや過熱気味だ。


 誘致活動の原点は地域の歴史と文化を学び合い啓発することだ。誘致の成否はともかく、つねに原点に立ち返って活動に伴う学びと交流の機会を愉しむことが大切と考える。




(北村 純)

文春オンライン

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