木村拓哉は『教場』で「ヒーロー・キムタク」を葬れたかも

1月8日(水)16時0分 NEWSポストセブン

番組公式HPより

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 木村拓哉は日本においてその作品動向が最も注目される俳優のひとりであると同時に、常に失敗が許されない立場を求められる。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。


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 年末、電車の中でもテレビ画面でも、妙に頬がこけ白髪で濃いサングラス姿の中年男性の不気味な顔が目に飛び込んできた。これがキムタク? 警察学校の鬼教官をキムタクが演じるという衝撃的なSPドラマ『教場』(フジテレビ系)の番宣でした。


 年末年始といえばまさに「キムタク祭り」の様相で、天才シェフ・尾花夏樹役が話題となったドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)は29日の最終回の視聴率が16.4%。まずは成功と言える着地ぶりで、続編を期待する声も聞かれました。


 続けて、年が開けると3日に映画『マスカレード・ホテル』の地上波放送。フジテレビとしてはその勢いを保ったまま、視聴者に『教場』へとなだれこんで来てほしい、という願望ありあり。そんな「キムタク祭り」の作戦にのって騒ぐのには多少抵抗感があった人もいたはずです。


 という状況下、1月4日、5日2夜連続で放送されたスペシャルドラマ『教場』。木村さんは適正の無い人間を容赦なくふるい落とす鬼教官・風間公親として、異形の風貌で登場してきました。


 案の定、登場してしばらくの間は、何とも居心地の悪い浮遊感が漂っていた。「鬼」と呼ぶにはドス黒い迫力が欠けている印象か。セリフにキムタク節の抑揚やクセもちらり感じられたりして、鬼教官よりも「木村拓哉」が前面に出てくるのかどうか、視聴者としてはとまどいつつ見ていました。


 しかし。物語が展開していくにつれて、「鬼教官」としてのキャラクターがしっかりと立ち上がってきたのです。


 静かで落ち着きのある怖さ、何を考えているのかわからない不気味さ、メガネの奥にのぞく瞳の不自然さ、ピクリとも動かない顔の筋肉。鬼教官・風間の暗さと凄まじい集中力とが、見ている人をぐいぐいと惹き付けて最後まで離しませんでした。


 もうこの人を、「キムタク」とか軽々しく呼んではいけないのかもしれない。「何をやってもキムタク」という言葉を封印すべき時がきたのかと感じさせるほど、役者としての決意が伝わってきたのです。


 世の中、ファンと同じくらい突っ込みを入れようと待ち受けている辛口視聴者がたくさんいます。そうした人々を前にして、演技で説得しねじ伏せるのは、並大抵のことではない。その意味で正統派役者・木村拓哉の誕生の夜、だったのではないでしょうか。


 もう一つ、このドラマで指摘したいのは役者陣の素晴らしさでした。


 警察官になる夢を叶えるべく入校してきた生徒たち──宮坂定に工藤阿須加、落ちこぼれの平田和道に林遣都、元インテリアコーディネーター楠本しのぶに大島優子、自信過剰な菱沼羽津希を川口春奈、仲間と馴染まない都築耀太を味方良介。


 一人一人が役者として人物を造形する力を発揮し、目の前にいる「木村拓哉」の重さに動じず、同じ比重で立ち向かっていこうとする姿勢が印象的でした。


 例えば工藤さん演じる宮坂が、風間教官を前に一対一で「補習」されるシーン。教官の指示に素早く反応し、警察官としての所作を一つ一つこなしていく。敬礼をする。手錠を出す。的確にぴたりと動作をし、また元に収める。二人は演技でしっかりと対峙し、拮抗しているように見えました。


 これまで多くの場合、ヒーローとしての役を固定され、結果としてヨイショされてきた木村さん。本人が望むか望まないかに関わらず、一人だけ高い位置に立つ構造も多かった。


 しかし、このドラマは役者たちの頑張りもあって、水平的な位置取りで鬼教官と生徒が向かい合った。他の役者と水平的な関係になった時、「木村拓哉」はまた違う味わいを見せることができる。それがはっきり伝わってきたのです。その意味で、このドラマは「ヒーローとしてのキムタク」を葬ることができた作品かもしれません。


 唯一、残念だった点があります。それは、短い時間の中にいろいろと多彩な生徒たちのエピソードを凝縮して詰め込みすぎた点。これならスペシャルではなくて、むしろ連続ドラマで見たかった。


 学校という場所の特徴は多くの生徒がいること。だから、一人一人育った環境、抱えている問題も違い各人の個性から家庭、過去までをバリエーション豊かに描き出すことが可能です。今回の役者たちが優れていた分、一人一人の人間性をもっと味わいたかった……と感じさせるくらい、『教場』は興味深い仕上がりだった、ということでしょう。


 気になるのは最後にさらっと映ったシーン。風間が次に担当する教室の中に、なぜか佐久間結衣、上白石萌歌、伊藤健太郎、三浦貴大らが座っていた。ということはすでに続編が仕込まれている兆しなのか。制作陣の手の内に、まんまとはめられてしまうのもまた、ドラマ好きの至福かもしれません。

NEWSポストセブン

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