嵐・二宮を手に入れた匂わせ女性の”上昇婚”はなぜ嫌われたのか 家族社会学で分析

1月9日(木)11時0分 文春オンライン

 週刊文春デジタルでは、令和初の「 好きな夫婦 」「 嫌いな夫婦 」アンケートを募集。8月26日から11月8日の約10週間の募集期間中に、19歳から88歳までの男女(男女比は男性45:女性55)から総得票数9462票が集まった。


 このアンケート募集後にも、数多くの新しい有名人夫婦が誕生している。まず大きな話題となったのが、嵐の二宮和也と元フリーアナウンサーのA子さんだ。その後もタレントの壇蜜と漫画家の清野とおる氏、メイプル超合金安藤なつと介護職の一般男性、オードリーの若林正恭と看護師の一般女性、珍獣ハンターイモトアヤコと「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)の名物ディレクター、橋本マナミと医師の一般男性、バカリズムと元でんぱ組.incの夢眠ねむなど、おめでたいニュースが続出した。



壇蜜 ©文藝春秋



 夫婦の形は数あれど、支持される夫婦と支持されない夫婦の違いは一体なんなのだろうか。家族社会学が専門で、兵庫教育大学大学院学校教育研究科にて講師を務める永田夏来氏に、令和時代の夫婦について分析してもらった。



 思えば2019年の日本は、有名人の結婚が注目される一年だった。例えば6月に結婚を発表し、ある種の驚きをもって迎えられたのが南海キャンディーズの山里亮太さんと蒼井優さんだ。彼らの結婚会見にポジティブな印象を持ったという話をよく耳にしたし、「指輪はなくしてしまうからいらない」と発言したとされる蒼井優さんのナチュラルな姿勢も支持を集めたと聞く。




 8月に首相官邸で結婚を発表するという前代未聞の会見を行なった、自民党の小泉進次郎さんと滝川クリステルさんも「ビッグカップル」と呼ぶに相応しいものだった。ただしこちらはその後、どちらかといえば結婚して評判が落ちたようである。


 2019年の結婚で大きな反響があったのが、嵐の二宮和也さんと元フリーアナウンサーのA子さんの結婚だろう。もちろん祝福する声も多かったが、嵐のファンからの悲痛な叫びがあったのも確かである。一部のファンが反感を抱いた背景として、2014年頃からA子さんが、二宮さんの存在を“匂わせる”ブログを投稿していたことがあるようだ。このあたりは「 《二宮和也結婚》“炎上元アナ妻”A子さんの「暴力的な“匂わせ”行為」を社会人類学で分析 」という記事に大変興味深く描かれている。


 有名人の結婚は、よくも悪くも私たちの心をざわつかせる。「好きな夫婦」「嫌いな夫婦」アンケートにも、様々な声が寄せられていた。


 色々な夫婦の形があるが、彼らへの支持・不支持にはいくつかの分かれ道があるように思う。“公私の分離”、“フェアな関係”、“ロマンチックラブ・イデオロギー”だ。



プライベート売りはご法度


 まずは“公私の分離”について説明しよう。ランキングに登場する芸能人の中には、その人自身の人間性やライフスタイルを文字通り「売り」にしているケースも少なくない。そんな彼らが夫婦関係や育児といったプライベートについてメディアで語るのはある意味、当然のはずなのだが、こうした態度が「営業の道具である」「売り込みに使っている」とみなされるとてきめんに嫌われてしまう。その視点がよく表れているのが「嫌いな夫婦」6位の杉浦太陽さんと辻希美さんのコメントだろう。


《テレビでやたら幸せをアピール。子沢山でちゃんと育児をしているのだと思いますが、逆にちょっと過剰で営業上の姿と感じられるから》(37・男)


 プライベートを「売り」にすることに対する視聴者側のシビアな態度は、1位の木村拓哉さんと工藤静香さんに対する次のようなコメントにも顕著だ。


《娘の売り込みのためなら夫婦生活を表面化させる》(49・女)


《工藤静香さんのイメージがよくないのでは?と思います。娘のKōki, さんの猛プッシュも凄まじい気がする》(34・女)


 もちろんこうしたコメントは受け手の印象であって、事実は別のところにあるのかもしれない。しかし仮にコメント通りの行動があったとしても、娘思いで微笑ましいのでは……とも言えそうな理由で嫌われている。


 なぜ結婚を道具として使うと嫌われるのか。まず踏まえておきたいのは「夫婦関係や親子関係などのプライベートと仕事や政治などのパブリックは区別されるべきである」という前提だろう。独身時代ならいざ知らず、結婚して子どもがいるのだから公私の線引きをしっかりして欲しい、という思いが視聴者側にある。それに加えて「パブリックとは男性の役割であり、プライベートとは女性の役割である」という性別役割分業も、保守層を中心に根強く残っていている。このため、家族を守るべき立場とされる既婚の女性芸能人に対する視聴者の評価はとりわけシビアなものとなり、少しでもバランスを崩すとあっという間に炎上するという展開になってしまうのだ。


 こうした前提に影響を受けている記述を、好意的なコメントにも見つけた。三浦友和さんと山口百恵さん夫婦への意見だ。


《百恵さんが夫を立てているように思う。復帰すればお金になると思うが、趣味のキルティングの本にだけ近影を載せているなど、大変に日本的夫婦》(49・男)



「控えめな女性が好ましい」という価値観の源にあるのは、「妻が表に出ない」ことが「2人の関係性について露出しない」ことにつながるという性別役割分業への意識だ。


 念のため申し添えておけば、こうした性別役割分業に即した夫婦が国内で広く普及したのは戦後のことであり、歴史的に考えれば彼らは別に「日本的」ではない。しかしながら、山口百恵さんのような大スターが「夫は外で働き、妻は家庭を守るなどしてそれを支える」という選択をあえて貫いているところが、公私をしっかり分けていると保守層を中心とした好評価につながっていると思われる。



夫婦がフェアでいることは難しい


 それにしても、三浦・山口夫妻への支持は圧倒的だ。類似のアンケートを見ても上位常連で、もはや「理想の夫婦」のカリスマといっても良いのではないか。この夫婦が卓越しているのは“公私の分離”ができていることに加えて、“フェアな関係”を成立させているところにある。


《仲がよさそう。お互いに敬意を持っている雰囲気が素敵》(50・女)


 三浦・山口夫妻のように性別役割分業を遂行している夫婦が「ともに暮らす仲間としてフェアであること」は、簡単なようで非常に微妙な人間関係だ。なぜならば、物事を決められる側の立場に立ったものは相手を見下し、優位になりたがるからである。「誰の収入で生活しているんだと夫が威張る」、「専業主婦の妻が家の中で我が物顔に振る舞っていて居場所がない」といった夫婦関係によくあるぼやきは、誰でも一度は聞いたことがあるだろう。権限の委譲は相手をコントロールすることにつながるものであり、こうした構造上の課題を個人の心がけのみで解決するのはかなり高いハードルだ。



 一生食べていけるほどの資産を得ていると思われる山口百恵さんは、家庭内で女王のように振る舞うことができたかもしれない。7歳年上である三浦友和さんは、年長の男性として威圧的に振る舞うことができたかもしれない。しかし、彼らはそのような形で相手をコントロールせず、「ともに暮らす仲間としてフェアであること」をさらりと成立させている。こうした夫婦のフェアな印象は「信頼感」や「尊重感」といった言葉で表現され、今日の評価につながっているのだろう。


ロマンチックラブが嫌う妊娠先行型結婚


 互いに別分野で活躍し、“フェア”な夫婦関係を形成できそうな小泉進次郎さんと滝川クリステルさんはなぜ「嫌いな夫婦」2位になってしまったのだろうか。いわゆる「政治家の妻」的な性別役割分業を遂行しない滝川さんが評価されにくいという点や、首相官邸での結婚会見にみられるプライベートとパブリックを混同した態度など、嫌われる要素は多分にあるが、彼らへの反感はそれだけではない。まず、コメントを見てみよう。


《できちゃった婚を平然としている厚顔無恥ぶりが嫌、元々インテリ性が全くない2人のハリボテぶりも嫌い》(71・男)


《議員という立場にありながら順序を守らず先に子供をつくり、首相官邸でドヤ顔した滝クリにイラッとさせられました》(46・女)



 かなりどぎついコメントで驚いたが、明らかに「妊娠先行型結婚(いわゆるできちゃった婚)」に対してネガティブな印象を持っている。そういえば、1位である木村拓哉さんと工藤静香さんも妊娠先行型結婚だ。


 妊娠先行型結婚が支持されない理由の根底にあるのが、結婚は「純粋な愛の帰結」であるとする恋愛結婚至上主義だ。「かけがえのない相手と永遠の愛を誓って法的に結びつき、その愛の結晶として子供を授かる」という流れが恋愛と結婚の本質であり、子供を持つことが結婚の手段になっている妊娠先行型結婚はそこからずれているというロジックである。性と愛と生殖は結婚を媒介として一体であるというこの考え方は、社会学では“ロマンチックラブ・イデオロギー”と呼ばれる。


“ロマンチックラブ・イデオロギー”は日本においては戦後の象徴であり、自由の象徴でもあった。日本における恋愛と結婚について考える際の基本的なデータとして、見合い結婚と恋愛結婚の推移をご紹介しておこう。



恋愛結婚は戦後日本の“正義”


 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、戦前は婚姻のうち7割程度を見合い結婚が占めていたが、戦後に減少しはじめ、1960年代後半に見合い結婚と恋愛結婚の逆転が生じた。その後は恋愛結婚が増え続けて、現在では全体の9割程度を恋愛結婚が占めている。見合い結婚から恋愛結婚への移行は、家長を中心とする封建的な「イエ」制度からの解放だった。結婚も出産も、当人へ決定権が移った証左として、しばしば引用されるデータなのだ。


 「妊娠したので結婚する」と報告を受けると、“ロマンチックラブ・イデオロギー”の王道から外れるため、その結婚が「純粋な愛の帰結」であるのかどうか確信が持てない。それゆえに愛情以外の他の要因、例えば相手の地位や名誉、人気などが目当てなのではないかといったネガティブな要素を探してしまうのだ。


 しかしながら、中村雅俊さん・五十嵐淳子さん夫妻や薬丸裕英さん・石川秀美さんなどは、妊娠が先行して結婚したにも関わらず肯定的に受け入れられているように思う。彼らは、「少し順番が違った」かもしれないがその後「しっかりとした家庭」を築いているという形で“ロマンチックラブ・イデオロギー”が完遂されたとみなされているのだろう。


できちゃった結婚がスタンダード化


 結婚前の妊娠による第一子の出生割合は、1980年に10.6%だったが2004年には26.7%まで上昇した。その後は、25.0%程度で横ばいが続いている。すなわち、現在4人に1人は、結婚する前に授かった子供だ。木村さんと工藤さんが結婚した頃ならいざしらず、妊娠先行型結婚は今日ではそれほど珍しくない結婚形態なのだ。


 細かく調べてみると、実は妊娠先行型結婚に関して、既婚者は「良いのではないか」と答えるのに対して未婚者は疑問を持つという意外な反応があることがわかっている。いろんな現実を見ている既婚者よりも、未婚者の方が「純粋な愛の帰結」としての結婚への憧れが強いのかもしれない。


 ちなみに、妊娠先行型結婚だと子どもの数が増える可能性がある。20代、30代女性の「追加出産欲」のデータを見ると、「現在/理想の子ども数」は通常の結婚より妊娠先行型結婚のほうが高いのである。さらに古い「イエ」制度的な価値観から見るならば、跡取りを確保してから結婚したといっても良いだろう。少子化を「国難」だという自民党政権のポリシーからいえば、むしろ妊娠先行型結婚をした小泉進次郎さんは褒められてもいいくらいだ。人生の選択はもうちょっと多様かつ柔軟であっていいし、いくら保守の政治家だからといって、妊娠先行型結婚であることに対しては、もう少し寛大であっても良いのではないかしらと個人的には思う。



 それはさておき、このロマンチックラブ・イデオロギーは意外と強力で、「かけがえのない相手と永遠の愛を誓う」行為と反するようなことがあれば、すぐに攻撃の的となってしまうのだ。



夫婦関係を“利用”すると嫌われる


 総じて言うと、夫婦は利害のない関係でなくてはならない、と考える人が多いということだろう。「結婚が何かの手段ではなく純粋な愛の帰結であること」を至上とする“ロマンチックラブ・イデオロギー”のなせるわざだといっていい。J-POPにありがちな「世界全てが君の敵だとしても僕は君を守る」的なストーリーだ。「君を守る、僕もお得だから」では、現代日本でヒットしそうにない。


 “公私の分離”という面でも歓迎されない「プライベート売り」は“ロマンチックラブ・イデオロギー”的にもNGだ。純粋な愛の帰結である結婚を、金稼ぎや知名度アップのための手段にすることは言語道断だとみなされるのが令和の夫婦関係なのだ。


 二宮和也さんと元フリーアナウンサーのA子さんの結婚が支持されない理由はここにもあるだろう。A子さんは芸能人ではないが、二宮さんと結婚することで確実に世帯年収が増大する。「二宮さんの妻」という地位も手に入る。こうしたいわゆる「玉の輿」は上昇婚と呼ばれ、バブル期には憧れの的だった。女性は高学歴、高身長、高収入の「三高」を結婚の条件として挙げたとよく言われるが、これは女性の上昇婚志向を端的に示していると言えるだろう。



 バブル期の女性における上昇婚志向にはそれなりに理由があった。当時の女性は進学率が低く、雇用のほとんどが寿退社を前提としたものであり、育休や産休といった労働環境も現在ほど整備されていなかった。自力で生活する術を持たない女性たちは、夫を媒介にしてバブル経済の恩恵に与ろうとしたのだろう。


 しかしそれは今や古いといわざるをえない。女性が社会進出を果たしている現在では、好きな夫婦第2位の唐沢寿明さんと山口智子さんを筆頭に、ランクインした夫婦のほとんどが共働きであり、仕事の上でも対等なカップルが好かれている。こうした時代背景も手伝って、二宮和也さんと元フリーアナウンサーのA子さんはより支持しにくい夫婦になってしまったのだろう。




 一方で、ランキングには間に合わなかったが、壇蜜さんと漫画家の清野とおるさんや、イモトアヤコさんと番組担当ディレクターの石崎史郎さんの結婚はおそらく「好きな夫婦」としてかなり高得点を得られたのではないかと思われる。どちらの夫婦も、結婚会見以降2人で露出することもなく、フェアに暮らし、それぞれが活動しているように見える。そして何より、「結婚が(収入アップや権力の獲得などに)有利に働かなさそう」なところが、支持される理由となるであろう。



 こうした夫婦関係に対する新しい評価基準の誕生は、婚活などで重要視されてきた「結婚して何か得をする」「結婚することが人生で有利になる」という上昇婚的な価値観がいよいよ支持されなくなってきていることの表れだ。令和の結婚においては、「結婚が何かの手段ではなく純粋な愛の帰結であること」、「ともに暮らす仲間としてフェアであること」がますます重要になってくるだろう。好きな夫婦・嫌いな夫婦のランキングはありふれた企画かもしれないが、結婚への考え方の構造が明確にあらわれているのである。



(永田夏来/週刊文春デジタル)

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