三田村邦彦が回顧する蜷川幸雄さんの言葉、「怒鳴れ!叫べ!」

1月10日(金)16時0分 NEWSポストセブン

三田村邦彦が蜷川幸雄の演出を語る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・三田村邦彦が、大人気となった『必殺』シリーズ(テレビ朝日系)の飾り職人の秀役、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)ジプシー刑事など、寝る時間が移動中だけだった時代を振り返り、蜷川幸雄の舞台に出演したり、コメディにも挑戦したころについて語った言葉をお届けする。


 * * *

 三田村邦彦は一九八二年から人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』に出演、通称「ジプシー」刑事を演じた。


「あの頃は『必殺』もやっていたので、台本を七冊くらい抱えていて。全て中途半端でした。


『必殺』でも出るシーンが秀の家で簪をコンコンしているのと全員が集まるのと、あと殺し。『太陽』でも七曲署内と聞き込み。もう芝居をやっている実感がなくなってきていました。


 それで『太陽』を降りようとプロデューサーに言ったら『うちはいつでも待ってるから』ということで殉職ではなく転属という扱いにしてもらいました」


 八五年、劇団青俳の先輩でもある蜷川幸雄が演出した舞台『恐怖時代』に出演した。


「そんな時に『お前さ、舞台やらないとダメだよ』って蜷川さんに言われたんです。そうなんですよね。俺、舞台が好きで劇団に入ったのに、舞台をやれてないんですよ。『必殺』を六年半でやめたのは、そういうことです。ここで舞台をやらないと、本当にダメになると思いました。


 台本を抱えて時間の余裕もなくて、寝る時間が新幹線の中──という時期がありましたから、『恐怖時代』をさせていただいた時は『ああ、これだ。帰ってきた』と思いましたね。とっても面白かった。


 蜷川さんは感情を前面に出すようにとよく言います。それが上手くできない時は『怒鳴れ!』と。たとえば悲しい感情を表現する時、セリフに感情が乗ってないと上辺だけになる。そんな時は『悲しいよ!』と怒鳴れ、と。そうすると、中途半端に言っているよりも何か届いたりするんですよね。ですから、いくら稽古しても上手くいかなくて本番に間に合わない時は、『もういい、怒鳴れ!』『叫べ!』って。それが蜷川さんの教え方でした。


 ですから、蜷川さんの芝居を見ていて怒鳴っている俳優さんを見ると『ああ、できなかったんだな──』って分かります」


 八七年にはテレビドラマ『ママはアイドル!』(TBS系)に出演、コメディにも挑戦している。


「俳優って《ないものねだり》をしたがるもので、いつも同じ役だとつまらなくなるんです。あれも、話が来た時は面白いと思ったんですが──ダメでした。


 役者は難しいと思いました。演じようとしちゃう。番組を見ていて、それが見えてしまう。コメディアンの人たちがコメディの芝居をすると、そこが凄く自然なんですよね。笑かそうとしていない。その腕がないと、笑かそうというのが見えちゃうんですよ。腕もそうですし、引き出しも、駆け引きも。経験を積んでないとダメなんだと『ママはアイドル!』のオンエアを見て感じましたね。


 それで、二年くらい休んで藤田まことさんの付き人をやろうか真剣に悩みました。あれだけ藤田さんと一緒にいたのに、何も見ていなかったんだなって。


 ですから、『ママはアイドル!』では、藤田さんだったらこのセリフはどう言うだろうかとか考えてやっていました。でも、できないんです。やろうとすればするほど、あざとく見えちゃう。芝居は実に難しい」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。


■撮影/黒石あみ


※週刊ポスト2020年1月17・24日号

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