愛された男・今浪隆博の「勝負強さ」を受け継ぐために必要なこと

1月11日(木)12時0分 文春オンライン

「代打の神」として浮かぶ名前は数あれど、直近の記憶は最も色濃く残っている。その名は今浪隆博。ヤクルトでの実働僅か4年弱とは思えない印象的な選手がユニフォームを脱いだ。「お立ち台での『すべり芸』」「守備のユーティリティ」とともに特筆すべき「勝負強さ」を持ち、ファンにこよなく愛された。甲状腺機能低下症という病気がなければ、チームには絶対必要とされたはずの選手だった。


 そもそも勝負強さとは何だろう。簡単な指標としては、打点や得点圏打率、代打成功率など、チャンスで打てるか、得点に繋げられるかという数字に表れる。2017年のヤクルトでは全くの弱点で、勝負強い選手がほぼ見当たらなかった。連打がない、タイムリーがない、満塁にしても点が入らない。「こんな時に今浪がいてくれたら……」と誰もが思ったことだろう。



昨季限りで現役引退した今浪隆博 ©時事通信社


切り札として期待したい二人の男


 歴史的な大敗から首脳陣も変わり、練習方法も方針も変わった。来季に向けて主力が戻れるか、力のある若手が伸びてくるかなど、ポイントは色々あるが、層の厚さやベンチに頼れる「控え」がいるかも重要になってくる。セ・リーグもDH制の導入が検討されているとはいえ、まだまだ代打は重要だ。特に切り札として力を発揮して欲しいのが「右の鵜久森」「左の大松」だ。


 ポジションの兼ね合いもあり、この二人は恐らく代打がメインになるだろう。右ならランナーなしで比屋根、ランナーがあれば鵜久森。左ではランナーなしで上田、ランナーありで大松など、ベンチ入り選手によっても変わるがパターンはある。チャンスで出てくる確率が高い代打はこの二人だ。


 鵜久森淳志の2017年シーズンは、華々しい幕開けだった。史上初、開幕シリーズでの代打満塁サヨナラ本塁打は、記録にも記憶にも残る1本となり、続くサヨナラヒットで「勝負強い」「サヨナラ男」と言われた。


 その時にはチームも俄然盛り上がったが、後が続かない。7月には二軍落ちとなり、チーム事情で若手の経験を優先させたこともあってか、一軍へ再び上がることはなかった。


 大松尚逸はサヨナラホームランを2回打ち、強烈な印象を残した。苦しい時の一発は暗黒のシーズンの救いでもあった。「右の鵜久森」「左の大松」二人で4本のサヨナラを演出したのだから、代打の二枚看板は一応機能したと言っていいのかもしれない。だが大松も打率は.162に留まり、鵜久森は後半戦をファームで過ごした。


 宮本ヘッドコーチは秋季キャンプで「体を大きくする」「ご飯三杯がノルマ」「筋量アップ」という指令を出したが、二人とも体格や筋量は充分だろう。現在は打席での対応力を上げる方法を模索している。鵜久森はミートしやすい短いバットを試し、大松はクローザーの速球に対抗すべく軽いバットを用意するという。練習熱心な努力家の二人に、+αで勝負強さが加われば、チームに欠かせない強力な切り札になれる。



勝負強さを作るために


 今浪隆博の生涯代打率は.316だ。2016シーズンの代打率は実に.382だった。この勝負強さの秘訣は何なのか。テレビ番組の中では、「作った勝負強さ」だったとも言っていた。


 以前、川端慎吾との対談で、今浪は「守備固めのしんどさが100なら代打は1くらいのもの」だと語った。守備の方が考えることが多い。代打はシンプルでただ打てばいいのだと。そのための準備はした上でだし、どんな投手でも打つための技術や読みが優れていることはもちろんだ。だが、気負わず集中することで敵の優位に立ち、勝負強さを「作った」のかもしれない。


 昨秋、チーム全体の勝負強さを作れそうな人物がスワローズにやってきた。広島を退団した石井琢朗打撃コーチだ。石井コーチはブログや記事で、広島打線を変えた改革を語っていた。その中では「意識」という言葉が頻繁に使われている。まず意識を変える。打率が3割なら、残りの7割は凡打だ。しかしその凡打も生かし、10割全部使って点を取るという考え方だ。そして凡打でも結果を評価して繋げていく。それを実践してきた。


 意識だけで貧打が変わるわけではない。だが、打てないチームは打てずに失敗すると、「打てなかった」「打たなければ」という意識がまたマイナスに働き、負のスパイラルに陥りやすい。厳しい練習で裏付けし、実戦での結果を評価することで成功体験を意識付け、自信と実績を積み上げていく。広島でのやり方そのままではないだろうが、ヤクルトも点を取りに行く姿勢は変わっていくはずだ。好機に強い打線作りを大いに期待したい。


 戦力外選手としては異例になるファン感謝デーでの挨拶で、今浪隆博は引退理由を「廣岡大志に押し出された形」と述べて笑わせた。今浪流の置き土産を、選手もファンも受け取った。


 そのプレイスタイルもキャラクターも独特過ぎて、彼に似た選手はまず現れそうにない。しかしこれからのシーズン、チャンスに強い打者が出てきたならば、その選手は「今浪のような」と形容されるだろう。そんな打者が何人も現れれば、チームは必ず上昇していくはずだ。


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(HISATO)

文春オンライン

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