箱根駅伝「シューズ」で見る勢力争い ナイキとNB躍進の理由

1月11日(木)11時0分 文春オンライン

 青山学院のV4で幕を閉じた第94回箱根駅伝。各校がしのぎを削るなか、水面下でもうひとつの熱い戦いが繰り広げられていた。それが各メーカーのシューズ戦争だ。テレビドラマ「陸王」がブームとなったこともあり、例年以上に各選手の足元に注目が集まった。駅伝好き集団「EKIDEN News」( @EKIDEN_News )の西本武司さんもそのひとり。今年のシューズ勢力図を、データとともに振り返ってもらった。


◆ ◆ ◆


 毎年、箱根駅伝終了後にはシューズファンによる「箱根駅伝出走者メーカーリスト」がネット上に流れてくるのが恒例行事。これまで、僕はこのリストにまったく興味がなかったんです。ですが、今回は、かなり注目して見る必要がありました。理由はナイキが「ヴェイパーフライ 4%」というまったく新しいシューズを投入してきたからです。


 それまで長距離走においては、靴底は薄いほうがスピードが出るというのが常識だったんですね。初心者から中級者、上級者となるに従い、ソールはどんどん薄くなっていった。それがヴェイパーフライはまさかの厚底! しかもこの靴を戦略的に取り入れている大学があったり、選手たちが積極的に履いていたりするのを見て、どのくらい箱根駅伝に対応できるのか気になっていました。



國學院1区浦野から2区向への「ナイキ ヴェイパーフライ」タスキリレー


シューズ職人・三村氏と契約したNB


 そこに、もう一社飛び込んできたメーカーがあります。1月1日、ニューイヤー駅伝とともに突然CMを打ち始めたニューバランスです(ちなみにニューバランスは箱根駅伝でも30秒CMを打ちました)。このCMで発表されたのが、現代の名工・シューズ職人の三村仁司さんとのグローバル・パートナーシップ契約です。


 三村さんは元々、アシックスでアスリートのためのシューズを作っていた方で、瀬古利彦有森裕子高橋尚子野口みずきも、信頼を寄せていた伝説的存在。「陸王」でカリスマシューフィッターとして登場した村野尊彦のモデルとも言われています。その三村さんがアシックスを定年退職して独立し、アディダスと専属契約を結んで生まれたのが、“アディゼロ タクミ”シリーズでした。


 このとき三村さんを頼ってきた選手たちは、こぞってアディダスへと靴を変えました。つまりメーカーではなく、三村さん個人についている選手がそれだけ多いということ。そして、ここにきて三村さんがニューバランスと契約したというCMが流れたわけです。いったい三村さんは、ニューバランスでどんなシューズを作るのか、と思っていたら、なんと1月1日のニューイヤー駅伝ですでにその靴が投入されていました。

旭化成の市田兄弟や“初代山の神”として知られるトヨタ自動車九州の今井正人も履いていたシューズがそれです。さらに翌日の箱根駅伝でも、思ったより多くの選手が三村さんがかかわったニューバランスのシューズを履いていました。



1月1日のニューイヤー駅伝で三村氏が作ったニューバランスが初登場。今井正人(左:トヨタ自動車九州)と神野大地(右:コニカミノルタ)、2人の“山の神”が揃って履いた


 これまではアシックス、ミズノがリードしてきた日本陸上界ですが、今年はその勢力図が変わるかもしれない——そんな思いで箱根駅伝ランナーたちのシューズに注目していたんです。


 お待たせしました。では、今年の箱根駅伝でどのメーカーのシューズが多かったのか、グラフで見てみましょう(いずれも「EKIDEN News」調べ)。



なんとナイキがシェア1位に!


 2018年、第94回箱根駅伝のシューズ割合はこうでした。



第94回箱根駅伝「メーカー別着用シューズ内訳」(「EKIDEN News」調べ) ※1/11 13:40アディダスの人数を35人に修正


【2018年箱根駅伝のシューズ内訳】


・ナイキ 58人

(ナイキV【ヴェイパーフライ、ズームフライ等の厚底タイプ】=39人 + ナイキ 【その他のナイキ】=19人)

・アシックス 54人

・ミズノ 37人

・アディダス 35人

・NB(ニューバランス) 23人

(NBML【NBの三村モデル】=18人 + NB【その他のニューバランス】=5人)

・ML(三村モデル)【NBと契約する前に三村さんが「ミムラボ」で作ったシューズ】=3人


 ちなみに昨年2017年のシューズ内訳はこうでした(箱根駅伝録画映像から)。


【2017年箱根駅伝のシューズ内訳】


・アシックス 67人

・ミズノ 54人

・アディダス 49人

・ナイキ 36人

・ニューバランス 4人


 これは衝撃の結果です。今まで長らく第一党だったシューズ界の自民党、アシックスが、とうとうナイキにその座を明け渡したのです。日本独自の文化と言われる駅伝においては、“黒船襲来”といっても過言ではありません。


 ニューバランスに至っては、昨年は4人しか履いてなかった。思い浮かぶ選手といったら昨年まで廃番になったRC1300をずっと履き続けていたことでおなじみの拓殖大のワークナー・デレセ・タソぐらいです(ちなみに、ワークナー・デレセ・タソは拓殖大主将に就任!)。



2区で8人抜きの快走を見せた拓殖大のデレセ・タソはNB着用


ふたつのメーカーに共通した“戦略”


 ナイキとニューバランス、2つのメーカーの大躍進は、業界関係者を震撼させました。これまでは、中学・高校から履き慣れたミズノやアシックスを大学、社会人と履き続けるというランナーが多かった。それくらい、馴染んだ履き味は大事だったわけです。ナイキやアディダスなど、海外から色々なブランドが入ってきても、“かっこいいけど、やっぱり走るにはイマイチだよね”、“外国人に合わせて作ってるもんね”、“やっぱり日本人の足には日本製のシューズだよね”という意見が大半でしたから。


 ニューバランスとナイキの2社に共通している戦略は、通常ランニングがシーズンインする秋に大型の新作を発表するものなのに、箱根駅伝を軸にキャンペーンを打ったというところです。箱根駅伝の公式スポンサーはミズノなので“箱根駅伝”というフレーズを使ったプロモーションはできない。じゃあどうしたらいいかさんざん考えた成果が、今回の結果に表れたんだと思います。


 またナイキは、えげつないほどの販売戦略をしかけています。1月3日に箱根駅伝が終わり、ヴェイパーフライに注目を集めたところで1月4日から新色の店頭、Web発売が同時スタート。朝9時からのWeb販売には多くのランナーがPC前で待機・販売開始と共にアクセスするも1分後にはすべてのサイズが完売したんです。ちなみに店頭には転売狙いの業者も並び、ヤフオクやメルカリでは数多くの転売品が出品されるという、ナイキのイノベーションに水を差す「なんだかなぁ」という現象も。ただ、今回は東洋大学が往路優勝したことで、ナイキのヴェイパーフライは使えるということが分かった。中高生の若いランナーは、お年玉を握りしめてショップに向かったことでしょう。これは最大のキャンペーンになったと思います。



健闘した東海大、6区中島から7区國行も「ナイキ ヴェイパーフライ」タスキリレー



選手別の使用シューズにも注目


 また、箱根駅伝で各選手が履いていたシューズメーカー一覧も見てみましょう。


 東洋大学はサポートを受けているナイキ、三村さんがいたころからサポートを受けている青学はもちろんアディダスですが、下田裕太はニューバランスの三村シューズを履いています。また、上武大学にいたってはほとんどの選手がニューバランス製の三村シューズを履いていた、などなどいろいろなことがわかります。



第94回箱根駅伝「選手別着用シューズ内訳_総合1位〜10位_往路」(「EKIDEN News」調べ)※順位は総合順位



第94回箱根駅伝「選手別着用シューズ内訳_総合1位〜10位_復路」(「EKIDEN News」調べ)※順位は総合順位



第94回箱根駅伝「選手別着用シューズ内訳_総合11位〜20位_往路」(「EKIDEN News」調べ)※順位は総合順位



第94回箱根駅伝「選手別着用シューズ内訳_総合11位〜20位_復路」(「EKIDEN News」調べ)※順位は総合順位



ミズノを履いた6区鴨川以外、NBの三村シューズを履いた上武大(右は7区の関)


 来年は各社がいかに箱根駅伝を見据えた戦略を練ってくるのか。選手たちは何を履くのか、そしてこの勢力図はどう変動するのか。箱根駅伝の楽しみがまたひとつ増えましたね。


写真/西本武司( @setagaya_1971 ) 協力/カオリタスキ( @KaORi_tasuki )、ポール( @m_paul_paul )、駅伝マニア( @ekiden_mania ) 構成/モオ



(「文春オンライン」編集部)

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