佐久間文子さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3」

1月11日(木)17時0分 文春オンライン




佐久間文子/文芸ジャーナリスト




 ヘミングウェイが二十代前半の二年間を過ごしたパリを回想する 『移動祝祭日』 の中には、若き日のスコット・フィッツジェラルドや、無名の通信社の記者だった彼自身、結局、別れてしまった最初の妻がいる。私が読んだのは三十代に入ってからだが、たえざる移動と、外部の視点を身に着けよと促すこの本を、二十歳で読んでいたら、と思う。


 のちに、本に登場するカフェ、クローズリー・デ・リラや、シェイクスピア・アンド・カンパニー書店の跡地を訪ねたこともある。二〇一五年の同時多発テロの後、百年近く前のパリを異邦人の目でとらえたこの本がフランスでベストセラーになったとニュースで知って、パリの輝かしさとかけがえのない日常を慈しむ、人々の祈りを聞く思いがした。


 イタリアで、書店を中心にした仲間たちと、理想の共同体づくりをめざした日々を回想した 『コルシア書店の仲間たち』 の、「人それぞれ自分自身の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらない」という一節を読んで、目をひらかれた。


 若いとき、「孤独になること」を何より恐れ、さまざまな選択をしてきた。年を重ねて、その怖さがまったく消えてなくなったわけではないが、孤独もまた大切なものであるとこの本に教えられた。自分と他人の中にある孤独のかたちを見きわめ、許容することではじめて、人どうしはつながることができる。


『森へ行きましょう』 は、パラレルワールドで暮らす女性二人の、生まれる前後から六十歳までを描く長篇小説である。高度経済成長からバブル崩壊、東日本大震災など、同じ時代を生きる二人は、似たような人々と出会いながら、まったく違った人生を生きていく。


 人生の岐路は、「あのとき、こうしていたら」とあとで振り返るような大きなことだけではなく、つねに目の前にある。気づかぬうちに私たちは、無数の選択を繰り返し、後戻りできない道を歩いているのだと、思いきった手法でリアルに示す。


◆ ◆ ◆


『移動祝祭日』E・ヘミングウェイ/新潮文庫



『コルシア書店の仲間たち』須賀敦子/文春文庫



『森へ行きましょう』川上弘美/日本経済新聞出版社




(佐久間 文子)

文春オンライン

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