日大ブランドを向上させたきっかけは全共闘運動

1月11日(金)16時0分 NEWSポストセブン

評論家の呉智英氏

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 学校の格付けというのは、多くの人にとって興味を引くものらしい。だが、30年前には底辺校と言われていた学校が、現在は偏差値も上昇、高い評価を得ている例も少なくない。評論家の呉智英氏が、学歴や大学ランクの移ろいについて、考えた。


 * * *

 大学受験シーズンである。大学のランクや、その結果としての学歴ほど、ホンネとタテマエの乖離が甚しいものはない。普段タテマエの偽善的学歴論を掲載してきた大手新聞社も、例年二月には自社の週刊誌でホンネむき出しの高校別大学合格者ランキングを発表する。こちらの方がジャーナリズムの良心の現れとさえ言えよう。事実の客観的な報道だからである。


 とはいえ、学歴や大学ランクは、ホンネともタテマエとも違う様相を呈することがある。


 昨秋十一月二十六日付神戸新聞によると、神戸市は学歴詐称をしていた職員を懲戒免職にした。匿名の通報で発覚したものだ。


 というと、同僚たちに名門大学卒と信じられていたこの職員が、母校の著名な教授の名前を知らないなどの事実を不審がられ、誰かが匿名で通報した、と思うところだが、そうではない。この職員は「逆学歴詐称」をしていたのだ。大卒なのに、高卒以下の学歴者が応募できる試験に合格して採用されたのである。履歴書にも高卒と記されていたという。


 不正と言えば不正である。富裕層なのに、生活困窮者のみに認められる生活保護費を受給していたようなものだからだ。


 一九七〇年前後、学生運動で前科のついた友人が就職に困り、現業労働の零細企業に面接に行った話を思い出した。履歴書には、中卒、そして賞罰なし、と記入。社長は、履歴書と当人を見較べながら、中卒後のブランクを疑問視した。友人は観念して真実を話した。すると、社長は大喜びで即決採用。翌日の朝礼で、我が社にも大卒が入ったぞと自慢の訓示を垂れた。入社した彼は、アジとオルグの技術を生かし、会社の業績は向上。やがて東証二部上場を果たす。彼は二代目社長となった。



 学生運動といえば、この一月は東大安田講堂事件から五十年である。東大は入試が中止になったが、もう一つの戦場となった日大では厳戒の中入試は敢行された。ところが、日大の受験生は前年より増え、偏差値も急上昇した。


 それまで日大は中位校の中でもランクが高い方ではなかったが、全共闘運動で評価が変わったのである。学生たちは立看板を書きビラを配った。おお、日大生が漢字を書ける。学生たちは団交で理事を追いつめた。おお、日大生が理屈を言える。日大相撲部出身の力士が自分の名前以外の漢字を書けないと言われた時代だ。日大生は実は優秀だと、評価は一変し、ランクは一気に上昇した。皮肉なことに、大学に敵対した全共闘が日大ブランドを向上させたのである。


 ところで、平和になった昨今の日大はどうだろうか。


 昨年十二月十三日付朝日新聞は「日大と東京医大 志望者離れ」と報じている。東京医大は別に論じよう。日大はアメラグ部の悪質タックル事件、理事長・学長の不誠実な対応が影響していると、予備校関係者は分析している。


 学歴や大学ランクは、社会・歴史が複雑に反映されている。


●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。


※週刊ポスト2019年1月18・25日号

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