伊集院光が「空気を読み続ける」のに疲れちゃった人へ送る、「コロナうつ社会」からの逃げ方

1月11日(月)6時0分 週プレNEWS

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が1都3県に発令され、やっと戻り始めた日常がまた遠のいてしまった。

ちょっとご飯を食べに行くかどうか考えるときも、人と会う約束をしようとするときも、どこかで「世間の目」や「他人がどう考えるか」を常に意識してしまうストレスフルな日々がまだまだ続きそうだ。

解剖学者・養老孟司(ようろう・たけし)先生との対談を収めた新刊『世間とズレちゃうのはしょうがない』(PHP研究所)の中で、「子供の頃からずっと世間とのズレに怯(おび)えながら生きてきた」と語っている伊集院光(いじゅういん・ひかる)さんに、コロナ禍の「世間」との付き合い方、そのストレスからの逃げ方についてたっぷり聞きました!

(※このインタビューは、2020年12月14日発売『週刊プレイボーイ52号』に掲載されたものです)

* * *

■みんなが感じている"群れ"のストレス

伊集院 僕、コロナが落ち着いたらどこかで発表しようと思って、このコロナ禍で起きた「ちょっと面白い話」を集めてるんです。

例えば、ラジバンダリ西井くんがコロナにかかっちゃって、治った後にHIKAKIN(ヒカキン)さんとYouTubeで対談をやっていて。

自分はこれだけ大変だった、コロナは怖いっていう経験を話しているんですけど、HIKAKINさんが「やっぱり最初は普通に熱が出たり、喉が痛かったり、だけなんですか?」って聞くんです。平時ならそこは絶対「ラジバンダリ」チャンスなのに、西井くん、ちゃんと話さなきゃって思って一生懸命だから、「ラジバンダリ」って一切言わないんです(笑)。

——普段だったら最高のパスなのに!

伊集院 これ、どうやらHIKAKINさんも、振りじゃなく真剣に聞いてるみたいで、すごくシュールなんです。

ほかにも、WAHAHA本舗の梅垣義明さんがラジオ番組のゲストに来てくれたとき、鼻の穴にグリーンピースを詰めたところで「飛沫(ひまつ)が飛ぶので出さないでください!」ってディレクターに言われて、結局グリーンピースを詰めたまま普通に話をしたとか。

こういう話をまとめてできるチャンスをうかがってたんですけど、この第3波で遠のいちゃいましたね。今やっても笑ってもらえない気がする。

——最近、「マスク会食」を専門家が推奨するっていう話がありましたよね。食べる瞬間だけマスクをずらして、またすぐ着ける、という。あれも、たぶん1年前に見たら「コントじゃん!」ってみんな笑ってたと思うんです。

伊集院 ほんとにそうですよね。これも落ち着いてきたら笑えるはずなんです、みんなの共有体験だから。あのときやばかったよねとか、トンチンカンなことしたよねとか。だけど、今はたぶん怒られる。

——そういう「世間」に対するセンサーみたいなものが働くんですね。

伊集院 自分の中では、ひとりしゃべりのラジオで何が大切かって、自分の脳内にいる"架空の世間の集合体"みたいなやつと会話することだと思っていて。

例えば「今日さ、めちゃめちゃ寒いよね!」ってひとりでしゃべったときに、頭の中のやつが、【おまえくらい太ってても寒いのか?】って言い返してくれるかどうか。そうすると、「まあ、俺くらい太ってると寒くないって思われてるかもしれないけど、俺だって寒いよ、人間だから!」って言える。

で、向こうから【人間なの? 豚じゃねえのか?】って聞こえてきて、「言っとくけど豚ではねえからな」って続ける。このリズムが、基本的にひとりしゃべりの人の命なんです。

だから、商売柄、僕にとって「世間」の正体っていうのはそれです。たぶん今、僕がコロナのことを面白おかしくしゃべっても頭の中のあいつは笑わないだろうなっていう感覚を信じてやるしかないし、自分の行動にしても、【今この状況で「旅に行った話」をされて誰が笑うんだよ】って言われると思ったら、やっぱり旅行に行くのはやめておこうと思うし。

包み隠さず言いますけど、タレントである以上、「自分だけの確固たる判断基準」なんてものはないです。特にお笑いって、結局のところ絶対的な芸術じゃなくて、あくまでも人が笑ってくれて初めて成立すると思ってます。いつも世間のことを考えてるし、人の目を気にしてる。まして、僕はネタを披露するとかじゃない「しゃべり」をメインでやっているわけで。

——昨年の夏から秋にかけて、週プレでは何度か大規模なアンケートを取って、特集を組んだんです。「この夏、キャンプに行きましたか」とか、「旅行に行きましたか」とか。その記事の反響がすごく大きかったので、やっぱりみんな「世間」みたいなものに敏感になってるんだなという実感もあります。

伊集院 すごくよくわかります。僕の中で、人間という動物は社会的であるという絶対的な思いがあって。「孤独が好き」という人も、あくまでも社会的動物としての孤独。「この社会と関わりたくない」という人も、あくまでも社会がこういうものだとわかった上で、そこから少し距離を置きたいだけ。

「空気を読むのは悪いことだ」みたいなことを言う人ってたくさんいますけど、みんな本当は自分がいる"群れ"の周りの人がどう思っているのか、すごく気にしてると思う。「空気を読んでいる自分を周囲はどう思っているのか」って話です。

それで、今はその"群れ"の不穏な空気をみんな感じているような気がするんです。なんかストレスがすげえぞって。そういうときに「世間の空気」を読まないことは、動物として危険だと本能的に感じるんだと思うんです。

だから、自分が読んでる雑誌の読者がどう考えてるかというのは、すごく知りたいだろうと思います。週プレの読者なら、例えば『an・an』のアンケートとはズレてもいいけど、週プレのアンケートとズレるのは怖いとか。まさか、キャンプに行ってないの俺だけじゃないよね?って。

■社会の「うつ抜け」までなんとか逃げ切れ!

——でも、他人の目をすごく気にし続けたり、世間の空気を読み続けたりするのって、疲れちゃいますよね。

伊集院 疲れる。疲れますよ。それと、先日聞いた話なんですけど、人間ってパニックのときには「頑張ろう」っていうスイッチが入る。だけど、その「頑張ろう」が長くなりすぎると不安になって、やがて「うつ」に入っていくらしいんです。

それが社会にも当てはまるとすれば、今、これだけ自殺者が増えていることも考えると、「世間全体のうつ期」の入り口にいるんじゃないかと僕は思っていて。最初の「みんな頑張って乗り切ろう期」から、だんだん「ストレス期」になり、それから「うつ期」に入りつつある。これ、けっこうやばいぞと思ってます。

ラジオでも、今はあんまり陰々滅々(いんいんめつめつ)とした話をするのはやめようと本能的にブレーキをかけている自分がいます。

——その「コロナうつ社会」のような状態にこれから本格的に突入するとしたら、個人でできる防衛策って何かあるんでしょうか?

伊集院 「そういうことがあるんだ」という知識とか、心構えを持っておくことだと思います。例えば、今までそこまで考えることはなかったのに、なんか死にたいと思うくらい落ち込んじゃったとしますよね。

そんなときに「どうやらこれは"群れ"の習性の問題であって、俺個人の問題じゃないぞ」と思えたら、軽減できることもあると思う。「なるほど、これが伊集院が言ってたやつね」って、ある意味で他人ごととして置いておけるというか、体調のせいにできるというか。

個人的な話をすると、僕は昔から、けっこううつに入ることが多いです。それも、だんだん「例のやつまた来たね感」みたいなものを持てるようになって、前よりは落ち込みづらくなりました。

——自分に自分でツッコむというか、自分を見てるもうひとりの自分をつくるというか。

伊集院 今この状況で、落ち込み始めたときに自然に任せて蝕(むしば)まれていくのはちょっと危なすぎると思う。SNSとかでも、みんなすごくいら立ってますよね。だけど、待てよと。このいら立ちはなんのせいなんだっけ?みたいなことを、自覚的に切り分けて考えたほうがいいと思いますね。

——まだしばらくはコロナ禍が続きそうですが、この社会全体の「うつ期」が終わったら、どんな世の中が待っていると思いますか?

伊集院 僕はけっこういい世の中が待ってる気がしてるんですよね。それは、僕の個としての「うつ抜け」がすごく気持ちいいから。僕、25年くらい前に史上最大のうつになったんです。毎日仕事に行くのがいやで、ラジオのブースの「タリー」っていう赤いランプがついたときしか口がきけなくなっちゃって。

でも、ある日それがすーっと抜けたときに、ものすごく気分がよくて。家の前の交差点の信号を見たときに、「青を進め、赤を止まれって考えたヤツは天才だな!」って大感動(笑)。「止まるよそりゃ、赤は!」「青はそりゃ行くよ、行こうよ!」みたいな。ほんとにすべてがキラキラして見えたんです。

僕はこの先、それが集団で起きるんじゃないかと思ってるんです。安全宣言みたいなものが出た瞬間、みんな猛烈なテンションになるような気がする。そうなったときに、例えば芸能とかエンタメみたいなものも、またとても大事にしてもらえたり、新たなやりがいが出てきたりするんじゃないかと思っていて。

——社会の「うつ抜け」までなんとか逃げ切ろうという考え方はすごく希望になります。

伊集院 今回出させてもらった対談本の中で、養老先生が人生には「二軸」を作るべきだという話をされているんです。そこで例に出されていたのは、都会と田舎の両方に拠点を持つみたいな話なんですけど、これは場所だけの話じゃなくて、「趣味と労働」とか、そういう軸の作り方もあると思っていて。

例えば今、コロナで仕事があまりうまくいかないとしたら、「でも趣味はうまくいってる」とか。ある程度ウソでもいいんですよ。自分に対するウソでも構わないから、「これはあくまでも片方の軸にすぎないんだ」と考えられる状況を、自覚的に作っていくのがいいと思います。ずっと積みっぱなしにしている本を読むとか、DVDを見るとか。

僕は最近、長年撮りっぱなしだったバッティングセンターの写真をひたすら整理してますし、片岡鶴太郎さんは5時間ヨガをやってるっていうし、谷村新司さんはずっとアニメを見ていて、やっと『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を見終わったそうです(笑)。今はきっと、「俺の好きなセクシー女優ベスト50」を真剣に考えたりして過ごすのがいいんです。

●伊集院光(いじゅういん・ひかる) 
1967年生まれ、東京都出身。TBSラジオの名物深夜番組『月曜JUNK 深夜の馬鹿力』(95年〜)、月〜木曜朝の帯番組『伊集院光とらじおと』(2016年〜)のパーソナリティを務める。レギュラー出演中のNHK Eテレ『100分de名著』ほか、博識を生かしてテレビのクイズ番組・教養番組などへの出演も多い。著書に『のはなし』シリーズ(宝島社)、『D.T.』(みうらじゅんとの共著、メディアファクトリー)など

■『世間とズレちゃうのはしょうがない』 
(養老孟司・伊集院光 著 PHP研究所 1450円+税) 
体が突出して大きかった子供の頃から、常に世間とのズレに怯えてきた理論派タレント・伊集院光と、「もともと世間から外れていた」「科学の理論は信用していない」という超越派の解剖学者・養老孟司が、「世間」との折り合いのつけ方を縦横無尽に語り合う。伊集院さんいわく「僕が一番好きなのは、養老先生が語る"シーラカンスの話"。あの言葉だけでもこの本を出せてよかったと思う」

撮影/髙橋定敬


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