「わたしは貧困カープ女子」 チームが強くなるほど増える“夜の出勤”

1月12日(金)21時0分 文春オンライン

「わたしは本当に“広島東洋カープ”が好きなのだろうか……」


 2017年10月24日クライマックスシリーズ、対DeNA戦5回表、2アウト1塁。バッターは日本代表4番・筒香嘉智。マウンドには2013年のドラフト1位大瀬良、1年目の活躍、2年目からの苦悩、そして今年の復活——。我が子のように愛しき将来のエース候補だ。


 その初球。


 センターの頭上を越える打球を目で追いながら、彼女は思った。


「 “入れ”と……」


私の運命を変えた背番号22


 内藤美穂さん(仮名・37歳)、昼は都内で事務職として働き、アフター5は広島カープを熱心に応援する既婚女性だ。出身は神奈川県横浜市戸塚区で、広島には縁もゆかりもない。発端は11年前、虎党の旦那の付き添いだった。


「球場観戦中も関係のない小説を読む、ただの付き添いでした。一冊読み終えて暇を持て余し、何気なく手に取ったプロ野球選手名鑑が私の運命を変えました。背番号22・高橋建さん。同じ戸塚出身、ちょっとハンサムだな……そんな些細な始まりでした」


 現在のカープの快進撃をOBの小早川毅彦は「ブラウン監督が荒地を整備し、野村監督が種を蒔き、そして今年の緒方監督が花を咲かせた」とNHKの中継で例えたが、内藤さんは万年Bクラスから駆け上がる“第二次黄金期”の愉しさを味わったのだから、ハマるのも納得できる。


「最初は監督がホームベース投げてて、面白いな〜ぐらいの感じでした(苦笑)。でも、日に日に強くなっていくチームに目が離せなくなっていきました。広島市民球場・スタジアム広島までの遠征観戦も増えはじめ、09年緒方の引退試合、13年前田の引退試合のチケットはヤフーオークションで大枚叩いても購入しました(笑)。最近ではカープがドラフト1位指名した野間峻祥福井優也などの大学引退試合や、ウエスタン・リーグも観に行ってます」



観戦チケットにいくら注ぎ込んだのだろう ©カトウカジカ


 もはや“本格派”のカープ女子だ。しかし、カープに対する情熱が高まると同時に、もう一つ積み重なったものがある。


 それは、借金だ——。


「子どもいない夫婦だから無計画で……。新幹線代・ホテル代をリボ払いし、月10万円以上の返済はザラ。どうにか冬のボーナスで帳消しにしていました。でも、カープが強くなるほど見逃せない試合が増えてくる。渋々ながら週2回程度“熟女キャバクラ”で働き始めたんです……」



膨らんだ借金は132万円


 源氏名は緒方孝市の妻から取り、“かな子”だった。


 ホステスは政治・宗教、そして野球の話はご法度。かな子も潔くカープ愛をひた隠した。巨人ファンの客に愛想を振り撒き、DeNAファンの客と同伴出勤し、中日ファンの客とアフターし、ヤクルトファンの客にボトルをいれさせた。そんな秘密のアルバイトを阪神ファンの旦那には隠し続けた。


「一度、中日ファンのお客さんと連絡先を交換する時に、定期入れに挟んでいたカープファンクラブの会員証が落ちたんですよ。お客さん大激怒で『テメェとはやっぱり仲良くなれない!』と拒否されたことがありました(苦笑)」



ファンクラブの会員証が落ちたんですよ ©カトウカジカ


 ダブルワークの忙しい日々だったが、全てはカープのため、借金返済のため。しかし、事態はより深刻化する。2016年、25年ぶりのセ・リーグ優勝だ。


「人生で一番嬉しかった年だと思います。正直お金はキツかったけど、周囲から『25年ぶりだから』と後押しされました。無理してクライマックスシリーズ、日本シリーズも全部遠征して現地観戦しました。結果、減ったはずの借金の総額が増えてしまって……」


 リボ、リボ、リボ、リボ、リボは続くよ何処までも。2017年は熟女キャバクラの出勤数を週4回に増やし、借金返済に勤しんだ。順調に勝ち続けるカープの大進撃に喜びを感じると共に、年末に向けて不安も大きくなっていった。「また今年も日本シリーズに行くのか!?」と……。カープは143試合を終えて貯金37に対し、内藤さんは143試合を観終わって借金残額132万円だった。


「球場には“カープ女子”が当たり前になりました。可愛くユニフォームを着こなす彼女たちは、とっても華やか。でも私は……。ホームランの時に彼女たちにハイタッチを求められたとき、一瞬躊躇してしまう自分もいます。もしも2017年に日本一になっていたら、もしかしたらカープファンを卒業していたかもしれません」


「私は本当に“カープが好き”なのか!?」、オフシーズン中、毎日のように自問自答を続けていたが、習慣で選手情報を眺め、気がつけば2018年度のファンクラブも更新し、中村奨成を拝みに春季日南キャンプの旅行も計画していた。


「葛藤しながらも、カープ愛が勝ってしまう」


 2018年、内藤さんはカープ女子・かな子として生きていく。


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(カトウカジカ)

文春オンライン

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