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エヴァ・キャシディが逝去した年にレコーディングしたライヴ盤『ライブ・アット・ブルース・アレイ』

OKMusic1月13日(金)18時0分
画像:『Live At Blues Alley』(’96)/Eva Cassidy (OKMusic)
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『Live At Blues Alley』(’96)/Eva Cassidy (OKMusic)
“夭折の天才歌手”という表現が大げさではないぐらい、彼女の歌は素晴らしい。ジャズ、ブルース、ロック、カントリー、ソウル、フォークなど、どんな音楽でも自分流にこなし、時には神がかっているほどの神聖さをも感じさせる彼女の歌唱力は並外れていた。1996年11月、悪性黒色腫(皮膚癌の一種)によって33歳の若さで亡くなってしまうが、死後にアメリカのテレビで取り上げられたことから大きな脚光を浴び、今でも未発表曲を収録したアルバムのリリースは続いている。今回は亡くなる10カ月前の1996年1月にライヴ録音され、生前最後にリリースされた傑作『ライブ・アット・ブルース・アレイ』を紹介する。

地元でしか知られていないマイナーシンガー

エヴァ・キャシディが亡くなった2年後の、98年にリリースされた『ソングバード』というアルバムがある。これは『エヴァ・バイ・ハート』(‘97)、『ライブ・アット・ブルース・アレイ』(’96)、『ジ・アザー・サイド』(‘92)の3枚のアルバムから選曲されたコンピレーション作品で、最初にリリースされた時はまったく売れなかった。ところが、2001年にアメリカのニュース番組が彼女の短いドキュメンタリーを放送し、イギリスのメディアでも彼女が取り上げられると事態は急変する。同年、『ソングバード』はイギリスとアメリカでチャートを駆け上がり1位を獲得、それを受けて、北欧やスイス、アイルランドでもビッグセールスとなったのである。

生前、彼女の存在は地元のワシントンDCでわずかに知られるのみであったにもかかわらず、皮肉なことに死後その存在が大きくなっていき、それは時間が経つとますます広がっていった。2005年にはアマゾン・ドット・コムの売り上げ上位ミュージシャンで、驚くことにビートルズ、U2、ノラ・ジョーンズ、ダイアナ・クラールに次ぐ5位になっているのだ。死後に頂点を極めるという、こんなシンガーが未だかつていただろうか。

アメリカーナ的な資質をもつ優れたシンガー

彼女は、ロック、ソウル、ジャズ、カントリー、フォーク、何を歌わせてもエヴァ・キャシディになるぐらい、素晴らしい表現力を持っている。単に上手いだけでなく、魂のこもったヴォーカルが人の心を打つのである。2002年のソルトレイクシティ冬季オリンピックの際、フィギュアスケートで銅メダルを獲得したミッシェル・クワンが、エヴァ・キャシディの歌う「フィールズ・オブ・ゴールド」(オリジナルはスティング)でエキシビションを披露し、これでまたキャシディのファンが大幅に増えた。実は知られていないだけで、彼女の音楽性はとっくに完成されていたのである。この「フィールズ・オブ・ゴールド」は彼女の代表曲のひとつだが、伸びやかに透き通るその歌声は、一度聴いただけで忘れられないぐらいの素晴らしさなのである。そんなわけで、クワンのエキシビションを体験した人は、キャシディのCDを探し回ることになり、結局「フィールズ・オブ・ゴールド」が収録された『ソングバード』が売れに売れたのである。

ドキュメンタリーとオリンピック

これは推測にすぎないが、おそらくクワンは先に述べたキャシディのニュース映像を観ていたのだと思う。その後アルバムを入手し、エキシビションの曲にキャシディの歌う「フィールズ・オブ・ゴールド」を選んだのだろう。テレビで取り上げられたのが2001年5月、オリンピックが2002年2月なので、時間的にもあり得る話だろう。

1年弱の間にテレビとオリンピックの両方でエヴァ・キャシディという、無名ではあるが本当に素晴らしい歌手が取り上げられたのだから、100万枚単位で売れたのも不思議なことではないと僕は思うのだ。

本作『ライブ・アット・ブルース・アレイ』について

本作は現時点では彼女のアルバムでもっとも売れた作品のひとつである。彼女のアルバムは、現在までに13〜4枚がリリースされている。ただ、急に脚光を浴びたために、慌てて寄せ集めた(もちろん寄せ集めでも個々のヴォーカルが素晴らしいのは間違いないが…)と思われるコンピレーションのような作品が多いのも事実である。その点、本作はライヴ盤であり、彼女はそもそもライヴで本領を発揮するタイプなので、最初から最後まで乗りに乗った演奏と歌が聴けるのだ。

この夜は風邪っぽい症状に悩まされていたようで、すでに癌が影響していたことは間違いなく、キャシディ自身はこの日のパフォーマンスが気に入らず、CD化することを拒んでいたそうだ。しかし、他のメンバーやプロデューサーは何が気に入らないのか分からず、アルバムの最後にスタジオ録音の彼女の自信を持てる1曲を追加するということで再説得し、ようやくリリースの了承を得ることができたそうである。

アルバムは全13曲収録。13曲目の「Oh, Had I a Golden Thread」はスタジオ録音で、あとはワシントンDCにあるジャズクラブ『ブルース・アレイ』でのライヴレコーディング。1996年の1月2日と3日の2日間にわたるパフォーマンスからセレクトされた傑作ばかりだ。もちろん、前述の「フィールズ・オブ・ゴールド」も収録(そもそも『ソングバード』に収録されていたのは本作のバージョンである)されている。

収録曲の内訳はジャズもしくはジャズ風の曲が6曲、ブルースが1曲、フォークが2曲、ソウルが2曲、ポップスが2曲というセレクトで、全てがカバー曲。どの曲もキャシディの歌が際立って素晴らしいが、ジャズを歌わせればブルージーでありながら軽快、ブルースとソウル(僕は彼女が一番輝いているのがソウルを歌う時だと思っている)では、アレサ・フランクリンかジャニス・ジョプリンみたいな驚くべきシャウトが聴ける。フォークやポップスナンバーを歌う時には、透き通るような声で神聖さすら感じるぐらいの美しさがある。スティングの「フィールド・オブ・ゴールド」とサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」はポップス史に残る名演だと思う。カーティス・メイフィールドの名作「ピープル・ゲット・レディ」の解釈も文句なしだし、ほんとに全曲が素晴らしくて、生きてて良かったって思えるぐらいのアルバムである。

細かく聴けば、確かに声が震えたり(喉の調子が思わしくない感じ)する部分もあるのだが、良いところが軽くピーク超えしてるので、全然気にならないどころか、彼女のピュアで魂のこもったヴォーカルに癒やされるのだ。バックを務めるミュージシャンたちも(ベース、ドラム、ギター、キーボード)実に達者な演奏で、複数ジャンルの音楽を難なく巧みにこなすので気持ちが良い。

これからエヴァ・キャシディを聴いてみようという人に打って付けのアルバムが本作で、エヴァ・キャシディを聴き続けてきた人にとっても本作が最高だと思う。要するに、エヴァ・キャシディのアルバムをどれか1枚となった時には、間違いなく本作がベストなのである。

おまけ

2015年の暮れにすごいアルバムがリリースされているので追記しときます。この名盤『ライブ・アット・ブルース・アレイ』の完全版。1996年1月3日に行なわれたパフォーマンスの全てが収録されている。なお、この完全版は2種類出ていて、CD2枚組のものと、CD2枚組+DVD1枚の3枚組とがリリースされているので、お金に余裕のある人はこちらをどうぞ♪ アルバムタイトルは『ナイトバード(Nightbird)』。CD2枚組は33曲収録されており、DVDは全12曲(1時間弱)のライヴが収録されている。
OKMusic

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