その"完全燃焼"の少女は、二つの顔を持つ。BABYMETALの"メタルレジスタンス"を追う

1月14日(水)15時0分 おたぽる

(イラスト/竹内道宏)

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——アイドルにまるで興味なかった。なのにどうして今、トマトが気になるのか。なぜ、YUIMETALが「頑張った後はトマトを食べたい」と発言してから、頑張った後にトマトを食べようとしているのか。これは、BABYMETALに身を捧げた31才男の"メタルレジスタンス"参戦の記録である。

■少年よ、トマトを抱け。

 昨年末、ワン・ダイレクションのメンバー、ハリー・スタイルズがTwitterで「Baby metal.」とつぶやいた。

 たった一言で何気ないそのツイートは現時点、リツイート数が11万を超えた。レディー・ガガがアメリカツアーのオープニングアクトに呼んだだけでは飽き足らない。BABYMETALの知名度が、メタル界のみならずポップ界にすら及んでいる。

 私は「いや、Baby metalじゃなくてBabymetalですけど」とリプライを送りそうになったが、無事に踏みとどまった。その後、なぜか彼に倣って「Tomato.」と呟いてみた。リツイート数は0。私の中のYUIMETALの浸透度が、メタル界のみならず野菜界にまで及んでいた。


「おおおおーーーーー!!!うおおおおーーーーー!!!」
大丈夫、私は狂っていない。この絶叫はトマトのせいでもなく、そもそも私のものでもない。

 その声の主は、目の前に現れた少女3人のシルエットに向かって何度も叫ぶ。彼が持つカメラは揺れる。感情が映像に直結しているかの如く、1曲目が始まると天変地異でも起こったかのように上下左右に激震する。

 昨年11月、会場のニューヨーク・MANHATTAN CENTERは超満員で埋め尽くされた。あちこちから雄叫びが聞こえる。その先にBABYMETALが立っていた。叫んでいたのは、アメリカに住んでいる少年。金髪で整った顔立ちの彼は、フジテレビNY支社のBABYMETALに関するニュース映像の取材で「YouTubeで見てかっこいいと思ったんだ」と答えていた。その後、私は偶然彼のYouTubeアカウントを見つけ、そこにはBABYMETALについて熱く語っている動画と、彼が撮影したライブ動画があった。『BABYMETAL DEATH』で人々が一斉にフォックスサインを掲げ、腕をクロスする。その光景をすべてYouTubeで見たのだ。

 海外公演は多くの観客が勝手に撮影し、勝手にアップロードしている。それを遠く離れた日本で再生するという、現代的な事象が数多く起きている。それぞれのファンのフィルターを通した映像はその撮影者の想いも入り混じり、公式の映像では醸し出せない臨場感があるのだ。

「Next week, I'm going to NY to see BABYMETAL.」
ライブの数日前、少年は動画の中でうれしそうに語っていた。その目に"BABYMETAL"はどう映るんだろう。彼の部屋の壁に映画『キック・アス』のポスターが貼られている。少年にとってBABYMETALはこの映画のヒロイン・ヒットガールのようなものだろうか。炎の中を全速力で駆け抜ける。ジャンプキックをかます。世界を席巻する。まるでアクション映画のヒロインのような魅力をYUIMETALに感じている私としては、少年に多大なるシンパシーを覚える。

 ライブを撮りながら叫んでいる少年を見て、世界は繋がっている気がした。こんなに遠くの地に住む、歳の離れた少年と同じ気持ちになれるなんて。"メタルで世界を一つにする"というBABYMETALの目的は果たされつつある。たとえ歌が日本語でも、"BABYMETAL"という共通言語はパフォーマンスと演奏で伝わっていた。

 この少年がやがて動画の中でTomatoをかじり始めたら、もはや世界は完全に一つになる。しかし、そのためには"Sakura Gakuin"に行き着く必要がある。そこでオフィシャルブログ"Gakuin Nisshi"に触れなければ、YUIMETALの好きな食べ物がトマトであることを知る由もないだろう。

 少年が「Tomato.」と呟く日は、そう遠くない。私は日本に生まれてよかった。なぜなら、10時間以上飛行機に乗らなくてもBABYMETALの母体グループ・さくら学院のライブを観に行ける。そこでYUIMETALのもう一つの顔、"水野由結"を目撃することができるからだ。

■喋る水野由結×何も喋らないYUIMETAL

水野由結とYUIMETALのそれぞれの立ち位置を表す、二つの雑誌がある。

 昨年の夏、さくら学院の新曲MVの付録DVDのために少女コミック雑誌『ちゃお』を日本で、BABYMETALの付録ポスターのために海外のメタル専門誌『METAL HAMMER』をイギリスで買った。どちらもレジで勇気が必要だった。特に『ちゃお』の対象年齢を考えると、31才は程遠い。レジに向かう際、自分自身に言い聞かしていた。

「違う、これは娘がほしがってるんだ、うん、私には10才になる娘がいるから、うん、そうなんだ、雨が降ってるから、お父さんが代わりに買ってきてあげるよって言ったんだ、うん、家で帰りを待つ娘のために、これを買うんだ、うん」

 偽りの設定を呪文のようにブツブツと唱え、レジに向かった。これは抵抗でしかない。ある意味、メタル"レジ"スタンスだし、赤面で顔はトマトみたいになった。この二つの雑誌に同一人物が載っているなんて、誰が信じるだろう。その振り幅こそが水野由結/YUIMETALをあらわしているのだ。

 12月7日、さくら学院の単独ライブ『さくら学院☆2014 Celebration in December』はKAAT 神奈川芸術劇場で開催された。『ちゃお』の側面・水野由結はここで"完全燃焼"する。

 会場内は着席スタイルで、サークルモッシュやウォール・オブ・デスが発生するBABYMETALのライブとはまるで違う。ファンは"父兄"と呼ばれ、まるで授業参観・文化祭・体育祭を観に来た親御さんのような紳士的眼差しでステージの女の子たちを見つめる。そして、私もその中の一人となる。結果、誰もが父兄にならざるをえなかった。

「夢見るこの想いは 輝くパズルのPIECE!」
『Hello!IVY』『Hana*Hana』『ハートの地球(ほし)』と、次々と夢・希望に満ち溢れた世界が描かれる。この世界にそんなものはまだ残ってるのだろうか、と俯く間もない。メンバーの煌めきが目に飛び込んでくると、その輝きを決して否定できない。一言で言いあらわすと「かわいい」が、そのかわいさの成分は「かっこいい」から出来ている。目頭が熱くなる。こんなに複雑で華麗なパフォーマンスのために、どれほどトレーニングに日数を重ねたのか。しかも日本と世界を行き来するBABYMETALと同時進行だなんて、スーパー中学生でしかない。完成されたステージが繰り広げられていく。

 それでも、水野由結は『未完成シルエット』の後、「まだこの『未完成シルエット』は未完成だと思うんですよ。だから3月までにもっともっと絆を深めて、"完成"した『未完成シルエット』の2014年度バージョンを届けられるように"顔笑る"ので、楽しみにしてください!」と語った。胸が熱くなる。正統派アイドルとして、誠実な姿勢でさらなる高みへ上りつめていく。その姿に一瞬、YUIMETALを忘れた。

 水野由結は、ここでは水野由結でしかないのだ。そのギャップがまたBABYMETALに戻ると、あの激しい音楽が鳴り響く中で踊る姿がかっこよく感じられる。当然、「YUIMETALが喋ってる!」という感動も隠せない。BABYMETALのライブはMCがなく、YUIMETALが今何を考えているのか、どう思っているのか想像に任せるしか術がない。

 事実、もう一方の『METAL HAMMER』の側面・YUIMETALは喋らない。昨年12月20日のBABYMETALの約3ヶ月ぶりの日本公演『APOCRYPHA - S』で当然の如く、一言も喋らなかった。唯一挙げるとしたら、終盤の『ギミチョコ!!』で「もっともっとー!」と煽ったくらいで、言葉がない代わりにやはり"完全燃焼"のパフォーマンスで魅了した。

 日本で初披露となった2曲の新曲は、今後のBABYMETALの大きな武器としか思えない完成度。痺れるくらいかっこいい。YUIMETALとMOAMETALが腕で円を作りながら「あわ〜♪あわ〜♪」と歌い、SU-METALがサビで「チュッチュッチュインガーム♪」と歌う。チョコの次はガムだった。耳の残るポップなメロディが途端に重厚なサウンドに変化し、来年、これを引っ提げて世界を回るとしたらまた大きな反響がありそうだ。

 アメリカの少年が動画を撮りながら叫び、多くの人々が熱狂するように、何も喋らなくてもBABYMETALには"共通言語"がある。さくら学院の『未完成シルエット』の歌詞を拝借するならば、「何も言わなくても なぜか伝わるんだ 喜怒哀楽も このキンチョーも」。その通り、世界中に虹色と赤と黒のハーモニーを作っている。「キミの所為でしょ!?」という歌詞をそっくりそのまま返したい。

 きっと、どちらも想いに溢れているに違いない。さくら学院でその一端をうかがい、BABYMETALで想像する。絶対に交わらないはずの『ちゃお』と『METAL HAMMER』が一堂に会する「水野由結/YUIMETAL」。両極端であり、かつ一心同体の関係性がより一層その魅力に拍車をかける。

 これこそが、去年に放送されたNHKの特番のタイトルにちなんで言いあらわすと『YUIMETAL現象〜私が熱狂する理由〜』である。"メタルレジスタンス"を追いかけるために、どちらも一瞬たりとも見逃せない。もちろん、"レジ"スタンスも含めて。

 さくら学院の水野由結としての『学院日誌』を読めるのも、あと3ヶ月。2015年3月に卒業を控えている。それ以降は、先にさくら学院を卒業したSU-METALのように謎めいた神秘的存在になるのだろうか。いつか、ワン・ダイレクションのメンバーが「Yui Mizuno.」とつぶやく日が来たら、世界は一つになる。きっと輝くパズルのPIECEが集まり、ハートの地球(ほし)になるのだろう。『未完成シルエット』が"完成"されるその日が来るまで、頑張った後はトマトを食べ続けていきたい。
(文/竹内道宏)

竹内 道宏(a.k.a. たけうちんぐ)ライター/映像作家
様々な媒体で音楽系、映画系、体験系の記事を執筆中。
映像作家として神聖かまってちゃん等のライブ映像を撮影し、YouTubeにアップロードする活動を行っている。
また、映画監督として映画『世界の終わりのいずこねこ』を監督・脚本・編集。2015年3月7日(土)より3週間、新宿K's Cinemaで上映、全国順次予定。
現在はBABYMETALに身を投じ、命ある限り限界知らずで追いかけるつもりです。
たけうちんぐダイアリー(ブログ)http://takeuching.blogspot.jp/

おたぽる

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