「ダウントン・アビー5」4話「それは本心ですか?」は世界共通の愚問

1月15日(日)10時0分 エキサイトレビュー

『ダウントン・アビー』第5シーズン第4話がNHK総合で放送された。
今シーズンはヒロインの(もと)姑イザベル、母コーラ、祖母ヴァイオレットの、3人のおとなの女性たちに、ロマンスが降ってくる。孫がいても、ひ孫がいても、女たちにはロマンスが降りそそぐのだ。
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マートン卿、イザベルに求婚!


ついにマートン卿はイザベルに求愛、求婚する。この場面のマートン卿はめちゃくちゃカッコイイ。
〈本来ならひざまずくところだが、立ち上がれなくなると困る〉
と、自分の老体で上品に笑いを取るのがステキだ。

あくまで慎重なイザベルの返しも誠実で、かつ垢抜けている。ドラマや映画で僕が見たプロポーズの場面で、もっとも胸に響く場面にカウントされました。
イザベルはマートン卿に、心を動かされたのだ。それを聞いてヴァイオレットは驚く。身分違いの恋は成就するのだろうか?

シュリンピーと不気味な画商


前回伯爵夫人コーラに迫った美術史家ブリッカー氏が、またピエロ・デラ・フランチェスカの絵を見にまた訪問することになった。偶然だが、ローズの父(伯爵の従妹スーザンの夫)であるボンベイ総督シュリンピーと、同じ汽車でやってくるという。

ブリッカーを嫌っている伯爵は、妻コーラに、〈シュリンピーと不気味な画商はいつ着くんだ?〉と尋ねる。
「シュリンピーと不気味な画商」って、ファンタジー映画の題名みたいだ。
あとでは〈つまらん行商人〉呼ばわりまでしている。伯爵夫妻、今回もぎくしゃくしてます。

ブリッカーはもう一泊したいと言い出し、伯爵は不愉快を露わにする。
そしてブリッカーは展示室で伯爵夫人コーラに
〈この屋敷はすべてが美しい。奥さまも〉〈もうこれ以上抑えきれない!〉
と迫るが、
〈なにがだね?〉
と伯爵登場。この絶妙なタイミングに『うる星やつら』の錯乱坊を想起したオールドファンもいるのではないか。
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ブリッカー〈こう言ってたんです。貴重な絵に触れることができて、自分を抑えきれない、と(汗)〉
コーラ〈ブリッカーさんは見る目があるかたよ〉
伯爵〈そうだな。それにはだれも異論はないでしょう〉
出た! 『ダウントン・アビー』名物ダブルミーニング!

ブリッカーはこれにもめげず、晩餐のときにもコーラにコナをかけるのだから、たいしたタマです。

クラーギン公爵夫人の行方


伯爵の従妹の娘ローズは、ヨークで亡命ロシア貴族のためのボランティアをおこなっている。
難民たちのなかに、かつて若き日のレイディ・ヴァイオレット(伯爵の母)とかつて心を寄せ合ったクラーギン公爵がいた。
モスクワで、ふたりはあわやというところで駆け落ちしそうになるが、夫あるヴァイオレットは行動を慎んだのだった。

ヴァイオレットはイザベルとふたりで、ヨークのロシア貴族の避難所を訪れる。
落魄したクラーギン公爵の妻はロシア国外に追放されており、行方不明だ。

ヴァイオレットは姪の夫であるボンベイ総督シュリンピーに、クラーギン伯爵夫人がどうしているか探る方法はないかと尋ねる。シュリンピーは香港に大勢のロシア人がいたと述べる。
なぜそこまでするのか? ヴァイオレットはクラーギン伯爵夫人に負い目があるのだと言う。
19世紀のロマンスが再燃するのだろうか?

バロウは自分のセクシュアリティを「矯正」しようとする


父の具合が悪いと言って休暇を取った副執事トーマス・バロウ。あきらかに顔色が悪い。
彼がひそかに注射器を持っているのを、伯爵夫人の侍女バクスターが発見する。
病気なのか? バロウは自分で治療しているらしい。

今回、あのトーマス・バロウが女に涙を見せている。
バロウは雑誌の〈人生は選べる〉という広告を読んでいた。前回電話をかけていたのも、この広告主にだ。
この時代、同性愛は犯罪であり、また治療すべき「病」と見なされていた。性志向を「矯正」すると称するインチキ療法もさかんだっただろう。

バクスター〈もし私の想像どおりだとしたら、同情するわ〉
バロウ〈やめろ、余計なお世話だ。俺を憐れむんじゃない〉。
バロウはシリーズ中、ヒールとして立ち回ってきたが、自分がだれにも手助けされるはずがないと思っているこの局面では同情に値する。

アーチーの名を慰霊碑に刻むために


料理長パットモアは、敵前逃亡で戦死した甥の名が慰霊碑に刻まれないことに落ちこんでいる。
そして、助手デイジーが名誉革命のことを勉強しているせいで、台所仕事が進まず、パットモアはいらいら。

パットモアは伯爵に、甥アーチーにたいする思いをぶちまける。敵前逃亡は戦傷が原因のパニックだったのです……、徴兵を待たず志願兵として前線に赴いた愛国者だったのに……。

なにもしてあげられないが、伯爵はパットモアの気持ちをしっかりと受け止める。
デイジーは、パットモアに陸軍省に手紙を書くことを勧める。最近、いろんなことを勉強して、行動することを学んだのだ。知は力なり。

第一下僕はつらいよ


モウルズリーは「第一下僕」らしくあろうとする。
その気持ちを利用するかのように、執事カーソンも家政婦長ヒューズも、デイジーまでも、第一下僕なんだからこれお願いね、とモウルズリーを酷使する流れに。
モウルズリーはもう第一下僕なんてならなくていい!と思うようになり、その名称を遠慮したいとカーソンに申し出る。
今回数少ないコメディ場面です。

グリーン怪死事件、続報


長女メアリの侍女アンナは夫ベイツ(伯爵の従者)が警察に疑われているので心配している。警察はギリンガム卿トニーの従者グリーンを、ベイツが殺したのではないかと疑っているのだ。

メアリといっしょにロンドンに行ったアンナは、ギリンガム卿の家にメアリのメッセージカードを持って行き、帰りにグリーン変死の現場ピカディリーサーカスに寄る。
それを尾行する警察。アンナの立ち寄り先を抑えた巡査部長は、グリーン変死のさいのンナのアリバイを疑う。夫ベイツに続いて、今度はアンナが被疑者となるのだ。

モテオーラ全開のチャールズ再登場


メアリはロンドンで、ロザムンドおばさまとファッションショウを見に行く。このころからもうランウェイがあったんだね。
メアリは会場で、ロザムンドおばさまに、妹イーディスが小作人の継子の後見人になったことを話す。
ロザムンドはイーディスにスイスでその子をひそかに産ませた当人なので、メアリがどれくらい事情を知っているのかと探りを入れる。

メアリはその会場で偶然、前シーズン急接近されながら振ったチャールズと出会う。
チャールズはシリーズ随一のモテオーラ全開男だ。いざというときには男気のある
リッチな紳士で、性格の悪さもメアリとぴったり。
チャールズが連れていたのは、トニーが振ったもと婚約者レイン・フォックス嬢だった。

レイン・フォックス嬢が初対面のメアリを〈私からフィアンセを奪った女〉と呼び、敵意を剥き出すと、メアリもレイン・フォックス嬢をやんわりと侮蔑してみせるのだった。

メアリ、トニーを振る


チャールズとの夕食の席でメアリは、明日ケンジントン公園のピーター・パン像の前でトニーに別れを伝える、と漏らす。メアリはトニーが嫌いではないが、なにかが違うと思っているのだ。
その場所は〈別れ話には向かないと思うけど〉とチャールズ。「世界3大がっかり」のひとつなのだから、別れ話に向いてると思うが。

チャールズは言う。自分はメアリに振られたことを引きずっていない。トニーは明日ショックを受けるだろう。そのトニーのショックを和らげる方法ならある、と。
誘ってるのかな? でもメアリは気づかない。いや、気づかないふりをしている?

翌日、破談を受け入れられないトニーは、これはなにかの間違いだとキレる。別れる気がないのだ。
トニーの態度はストーカーになりそうな剣幕で感じ悪いが、しかし気持ちはよくわかる。
メアリはシーズン1、2、4後半でも、思わせぶりな態度で複数の男を手玉にとったり、いい男にお預けを食らわせたりしてきた。嫌われそうなヒロイン設定って、連ドラのフックとしては強いんですよね。

グレッグソンの落とし胤問題


次女イーディスの恋人マイケル・グレッグソンの、ドイツでの安否がわかるかもしれない、と、グレッグソンの会社からイーディスに連絡があった。
〈去年クーデターを企てた〉〈茶色の服を着て暴れている連中〉(1923年のミュンヘン一揆に参加したヒトラーらナチス党員)の裁判が始まり、グレッグソンが彼らに襲われたのではないか、という情報が出てきたのだ。

伯爵にイーディスは言う。〈これ以上メアリに哀れな女と思われたくないの〉。
姉妹なのに……と僕なんかは思うが、同性の兄弟・姉妹というのはこういうこともあるんだろうね。
派手な恋が連続するメアリと男運の悪いイーディスは、シーズン1からずっといがみ合い、互いに心を開かず、弱みを絶対に見せようとせず、隙あらば相手の弱みにつけこもうとするのだ。恋愛以上に姉妹がドロドロの愛憎劇です。

イーディスは隠し子マリゴールドのことで胸を痛めるが、その子を育てているドリューの妻マージーは、イーディスの度重なる来訪を迷惑がっている。幼いマリゴールドが混乱するし、夫にも近づいてほしくない。
祖母ヴァイオレットはイーディスを励ます。
イーディスからすると、祖母は自分ではなく家のためを思っているだけに見える。ヴァイオレットにとってそれは同じことだったが、イーディスには違うのだ。

シュリンピーに離婚が迫る


シュリンピーは妻との不仲が深刻。伯爵にも、娘のローズにも、自分たち夫婦は離婚しそうだと告げる。
妻の財産を失い、ボンベイ総督の仕事が終わると、彼は破産状態に戻ってしまうのだが……。

両親の仲違いを見て育ったローズは、心から愛する人でないと結婚したくない、と父に言う。まだジャズマンとの恋を失ったことを引きずっているのだろうか。
ちなみに第3シーズンで見たように、シュリンピーの妻スーザン(ローズの母)は毒母です。カウンセリングか医療措置が必要な水準だ。

晩餐会でのデイジーの演説


イザベルやコーラが明日の晩餐会に、村の教師で社会主義者のバンティング先生を招こうと言い出す。毎回毎回なんでこの女を……?
今シーズン、先生は毎回晩餐かお茶に呼ばれ、無神経なことを毎回言うのだ。

料理人助手デイジーがバンティング先生の授業を受けているせいで業務に支障をきたしているのではないか、と伯爵が言った。今回先生はそこに噛みついた。あなたは使用人たちを縛りつけて自由を奪っている、と。
じゃあデイジーを呼んで確かめてみようじゃないか、ということになってしまうのだった。

このあとのデイジーの演説がなかなかに感動的。自分は勉強することで、世界を知った、感謝している……。
〈バンティングさんに勉強教わって、世界が広がりました。
私は一生料理人かもしれませんが、考えることを知り、好奇心や知識が広がりました。
それもすべてここにいるバンティングさんのおかげです〉

晩餐の場にいるひとりひとりの表情を、カット割りでみごとにすくい取っている。
演劇的な場面をTVならではの手法で見せるのだ。

言葉で本心を問うのは不可能だ


伯爵はデイジーとバンティング先生、そしてデイジーの直接の上役であるパットモアの全員の顔を立てるべく、
〈どうやらデイジーの授業は有益なようだな。私も嬉しいよ〉
と言うのだが、調子づいたバンティング先生は、
〈それは本心ですか?〉〈結局のところ伯爵は、庶民を縛りつけて、支配したいだけなのでは……?〉
あちゃー……。

同じ食卓を囲んでいる相手に、たとえ正論でも、このような喧嘩をふっかけるのはダサいし、ただ甘えているだけだ。
〈本心〉なんてことを言い出せば、飯も酒もまずくなる。言葉で本心など問うものではない。
もちろん、ここで伯爵がマジギレしたのは悪手だが……。

ヴァイオレットが話題を変えようとして、コラムニストとして活躍中のイーディスの新ネタに話を振ったらすごいオチがついた。イーディスの最近のコラムの主題はどれも同じ、〈世のなかの変化について〉!

領地開発の行方は?


領地の一部の住宅開発に伯爵は反対している。あれ? でも伯爵、以前は領地の一部を売ろうとしてなかったっけ?
とにかく前回のコーラとの喧嘩以来、今回の伯爵は少しご機嫌斜めだ。

業者が美しい景色の地に醜悪な家を建てるのではなく、まともな業者をさがして開発させ、美しい景観を壊さない住宅を建てさせるという案を伯爵は出す。そして宣言するのだ。
〈開発はする。利益も追及するが、みなが愛するこの美しい村も守る〉

思わず『アマルティア・セン講義 経済学と倫理学』を読み直したくなるような決め台詞で第4話を締めくくるのだった。
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(千野帽子)

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