「キネ旬ベスト・テン」映画にみるキーワードは「逆境」

1月15日(日)16時0分 NEWSポストセブン

キネ旬日本映画1位の『この世界の片隅に』(公式HPより)

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 コラムニストでデイトレーダーの木村和久氏が、近頃気になるニュースをピックアップし独自の視点で読み解きます。今回は昨年の映画で気になった作品にクローズアップ。


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 2016年のキネマ旬報ベスト・テン&個人賞が発表されたので、そのデータをもとに、個人的に好きな3本を紹介したいと思います。ベスト・テン、個人賞、外国映画賞のラインナップから、導き出されるキーワードは「逆境」です。人間いろんな困難な状況に陥り、そこからいかに這い上がるかということはすごく大事です。どの作品も観たら「頑張ろう!」という気持ちが、むくむく湧いてくるはずです。


◆日本映画ベスト・テン1位『この世界の片隅に』


 よくぞやってくれましたと、拍手喝さいです。多くの映画賞は、アニメーション部門を分けて受賞対象にしますが、キネ旬は全部ひっくるめてのベスト・テンですから、重みが違います。


 逆境的には、まず制作側の資金難があり、クラウドファンディングでお金を集めました。エンドロールには、お金を出してくれたたくさんの方の名前が延々とアップされます。全く知らない人々の名前の羅列だけで、なぜか目がしらが熱くなってきました。封切りは63館から。ローバジェットの日本映画、まだ捨てたもんじゃないですね。


 そしてもうひとつの逆境は「のん」の活躍です。契約等の問題で、本名すら名乗れなくなり、仕事激減の「のん」がチャレンジしたのは、ナレーションです。主人公のすず役の声を天衣無縫に演じ、実にハマっておりました。こちらにも、何度泣かされたことやらです。


 映画の内容はいまさら言うまでもないですが、驚くべきは、戦前からの話なのに観ているのは圧倒的に若い人々です。昭和34年生まれの私は、親や親せきから戦争の苦労話を、たくさん聞かされました。それが今、世代が代わって、伝えるべき語り部がいない。もちろん『火垂るの墓』や『はだしのゲン』などの素晴らしい作品もありますが、個性がやや強い。今の若者は、おじいさんやおばあさん世代の日常を淡々と見たかったのではないでしょうか。そういうマーケティングに、図らずもマッチしたのかなと。後世に残る名作ですね。


◆助演男優賞 竹原ピストル


 竹原ピストルは、元々はライブ中心のミュージシャンですが、松本人志監督の映画『さや侍』で托鉢僧役で出て、パワフルな歌唱力を披露し存在感を示しました。歌の方は住友生命の1UPのCM挿入歌『よ〜、そこの若いの』がヒットし、松本人志は「紅白に出てもおかしくない」と言っています。ほかにも『LIVE IN 和歌山』や『ドサ回り数え歌』など、心温まる名曲を多数生み出しています。


 そんな彼が西川美和監督の『永い言い訳』で、本木雅弘と共演します。映画は交通事故で妻を失った家族の再生物語で、売れっ子作家役が本木雅弘、対照的なトラック運転手に竹原ピストルです。本木と竹原は、バスツアーで同時に妻を失います。そこでふたりは、家庭を失った喪失感をカバーするために交流が始まり、絆を深め合うのです。


 劇中での竹原の存在感は圧倒的です。西川監督も「演技をしていることに、気づかない」と語っています。最初から妻を失ったトラック運転手が、そこにいたのです。今まで積み重ねて来た映画の役作りを、根底からくつがえす存在感に驚愕し、本木雅弘は竹原ピストルの熱心なファンとなります。



 竹原ピストルの原点は、年間200本以上のライブ活動を7年間やったことです。そのライブ活動で、出会った人々や体験がすべて曲に活かされ、強烈なメッセージになっています。「誰かを俺を見つけてくれ」と、いつも心の中で叫んでいたそうです。そんな逆境から脱却し、見事に開花した竹原ピストル。歌と俳優、今後どっちで頭角を現すか、大いに注目です。とりあえず、2017年の紅白歌合戦には出てもらわないとですね。


◆外国映画ベスト・テン4位『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』


 これは、名作『ローマの休日』の脚本家だったダルトン・トランボの自伝的映画です。『ローマの休日』(1953年)が封切りされたころ、原案・脚本の欄には別の名前がクレジットされていました。つまりトランボは友人の脚本家の名前を使って作品を提供し、アカデミー原案賞を受賞したのです。


 なんでトランボは、偽名で書いたのか? それはトランボが、共産主義者に加担している嫌疑で投獄されたからです。そんな弾圧を受けたトランボが、いかにして名誉を回復したかが、この映画のテーマです。


 1950年代、アメリカに吹き荒れた「マッカーシズム」は、共産主義者やその賛同者に対して、ヒステリックに攻撃し、失職させ、果ては投獄に追い込んだのです。


 時代の雰囲気を感じた巨匠ウィリアム・ワイラーは、海外ロケをして自由な気風で『ローマの休日』を作ろうと試みます。トランボは原作から参加しますが、封切り時には赤狩りにあい、偽名での参加に。


 トランボは、議会の公聴会で宣誓拒否をして投獄されますが、どうやって名誉を回復したか? それは生きるため、家族を養うために、B級映画の脚本を、安いギャランティーで、しかも偽名で書きまくったのです。トランボの書いたB級映画のなかで『黒い牡牛』が、アカデミー原案賞を受賞。人生2度目の、偽名でオスカーを得ることとなります。


 偽名でも才能は溢れ出ます。評判を呼び、カーク・ダグラスが、映画『スパルタカス』に主演するとき、脚本をトランボに、実名クレジットの条件で依頼します。その後、反対勢力とバトルもありますが、次第に赤狩りの勢いも下火になり、ようやくトランボは名誉を回復できたのです。


 トランボが言いたかったことは「人生を絶対に諦めないこと」、これに尽きます。


 いろいろと、やる気を起こさせてくれる映画って、人生の応援歌みたいなものです、実に素晴らしいですね。

NEWSポストセブン

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