致死率30%、人食いバクテリアからの生還体験告白

1月15日(日)7時0分 NEWSポストセブン

2016年は過去最多の感染が報告されている人食いバクテリア(イメージ写真/アフロ)

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 悪寒がすると思ったら、急な発熱。ふしぶしの痛みに、嘔吐、下痢…。2016年9月以降のインフルエンザ患者数は147万人。例年以上の猛威に、厚労省はさかんに注意を呼びかけている。でもその症状、もしかしたら違うものかもしれない…。


「1年前のお正月、1月3日のことでした。その日は翌日が仕事始めだったので、部屋を片づけたり家のことをしていました。それでちょっと疲れたなと思ってたら、突然倒れて動けなくなり、気づいたら救急車で病院に搬送されていました。


 下痢や嘔吐がすごくてお医者さんは、“急性胃腸炎でしょう”と言って、点滴を打ってくれました。そうしたら少し回復したのでそのまま帰宅。でも、次の日に39度の熱が出て、その日の午後から咳が止まらなくなって…」


 都内在住の会社員・川上暁子さん(仮名・37才)は、インフルエンザにかかったと思った。当時は長女を出産して7か月。子供を認可保育園に入れるため2015年12月に職場復帰したばかりだった。仕事と子育ての両立は大変だったが、周囲の働くママたちも当然のようにやっていたし、なによりかわいいわが子を見れば、そんな日々の疲労も吹き飛んだ。


「でも、体は正直。かなり疲れていたんだなぁ」


 突然倒れてしまったわが身を振り返って体調管理の甘さを反省した。しかし…。


「咳をするたびに心臓を中心に上半身がしびれる強烈な痛みを感じるようになったんです。いつもなら“寝ていれば治る”と思ったのかもしれませんが、子供も小さかったし、自分自身でも“これはちょっと違う”という感覚があった。それでもう一度、今度は自分で病院へ行って、“ちゃんと検査してほしい”と伝えたんです。でも、今思うとそれがよかった。だってあのとき、ただ寝ていたら、私は1週間も経たないで死んでいたと思う。今こうして娘を抱くこともなかったでしょうね…」(川上さん、以下「」内同)


 いうまでもないが病院には重症患者も多数いることから、川上さんのように「咳がつらいから」という理由だけでは入院にはならない。しかし川上さんには虫の知らせでもあったのか、「入院させてほしい」と懇願し、レントゲンをとったり、血液検査を行った。そして肺に水がたまっていることが判明、体内にひどい炎症反応が見られることもわかった。


 しかし、それでも何が原因なのかはまったくわからないことから、医師は川上さんに転院をすすめた。


 そこは日本の感染症のスペシャリストが集まる『国立国際医療研究センター病院』。川上さんに下された診断はインフルエンザではなく「菌血症」。これは本来無菌である血液に細菌がいる状態のこと。その細菌こそ、最近ニュースになっている、通称、「人食いバクテリア」だった。


 正式名称は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」。発症から3日以内に死亡することもあり、致死率は30%。2016年は過去最多の460人以上の感染が報告されている。


 川上さんは今は再び仕事復帰も果たし、元気な笑顔を見せているが、一時は手脚の切断や、多臓器不全が懸念されるほど危機的な状況にあった。


 人食いバクテリアの正体についてはほとんどわかっていない。わかっているのは、人から人へ感染することはないものの、「どこにでもいる菌」で、赤ちゃんはかかりにくいが、免疫力が落ちている高齢者や糖尿病患者がかかりやすいといわれていることだけ。それでも川上さんの生還劇にはいくつかのヒントがある。


◆“劇症化”の心当たりはあった



「いつ歯の治療をしましたか」、それが、前述の『国立国際〜』の医師に最初に聞かれたことだった。


「意識が朦朧としているなかで、下痢や嘔吐、激しい咳や、胸の痛みとはまったく関係ない歯のことを聞かれたので、ちょっと面食らってしまいました。私が歯医者にかかったのは、産後少し落ち着いた2015年秋くらいだったので、そう伝えると、先生は“それじゃないみたいね…”とおっしゃいました。なぜそんなことを聞くのか尋ねると、歯医者の治療で、歯茎とかが傷ついて血が出ることがあるけれど、その傷口から感染するのは、よくあるケースとおっしゃってました」


 通常は感染しても喉の痛み程度で、大事に至らないことが多い。だが、「劇症化」すると菌が体内で急激に増殖し、全身に回ると手脚の壊死や多臓器不全を引き起こす。


「先生に関節すべてを『痛くない?』って調べられました。私は痛くなかったけれど、もし痛かったら、そこから先は切らなきゃいけない。痛くなったところから壊死するようです」


 川上さんは体内の菌を殺すため抗生剤の点滴を始めたが、その菌の死骸が心臓と胸骨の間に膿として大量にたまった「膿胸」という状態を引き起こしていた。そのためこの膿を取り除くための緊急手術を受けることになったという。しかも、それで終わりではなかった。手術後も1か月以上にわたって1日8本の抗生剤を3時間おきに点滴した。


 そうして徐々に回復していったが、結局最後まで、いつ、どうやって感染したのかは明らかにならなかった。しかし、「劇症化」の心当たりはあった。


「あの頃は子供がかわいくってハイテンションでした。疲れを感じなかった。でも、妊娠・出産直後の免疫が落ちた状態で、母乳を搾り出しているわけじゃないですか。そりゃあ当然、体力を持っていかれますよね。ハイテンションだけでは、乗り切れなかったんでしょうね」


◆経過観察は一生続く



 授乳、おむつ交換、抱っこ…昼夜関係ない育児は、想像以上にハード。疲労の蓄積や睡眠不足から、母体の免疫は低下しやすくなっている。それに加えて昨今は待機児童問題が深刻化しており、産後あっという間に復職しなければならない。


「うちは共働きで、私は会社を辞めるつもりがなかったので、子供を保育園に預けなければいけませんでした。認可保育園には4月段階で0才児じゃないと入れないから、まだ5か月の時に預けたんです。


 会社と保育園を行ったり来たりする生活は、今振り返ると無理していたなって思うんですけど、あの時は自分の体力が落ちていることにさえ気づいてなかった…。みんなやってることですし、私にできないことはないと思っていました。実際、あの日まではできていたんですから…」


 乳がん闘病中の小林麻央(34才)も、2児の母、梨園の妻として多忙な日々を過ごしていた。半年後に乳房の再検査を受けるはずが、忙しい日々のなか予約が遅れ、しこりが大きくなってしまったとブログで後悔している。ママたちは忙しいなか、つい自分以外のことを優先してしまう。


「誰もが認可保育園に入れて、待機児童の問題がなくなれば、私のように無理をしすぎて病気が悪化するということもなくなるんじゃないかなと、強く思います」


 入院から2か月後、川上さんは退院できるまでに回復。やっとすべてが終わった!と思ったが、退院前の心臓のエコー検査で異常が見つかった。


「抗生物質で殺した菌の死骸が、心臓の大動脈弁のところにたまっていると言われたんです。この死骸の塊は、一生悪さをしないかもしれないけど、もしかしたら血管内を飛んで脳卒中や心筋梗塞を引き起こす可能性があるそうです。


 手術をすると、またそこから感染症を引き起こすなど別のリスクが高まるというので、私は手術をしない選択をしました。私の場合一生経過観察して、何かあったときに対処するしか方法がないんです」


 人食いバクテリアの本当の恐怖は、致死率30%という命の危機から生還したらすべてが終わりというわけではないこと。手脚の切断がなくとも、川上さんのように死と隣り合わせの日常を強いられることも珍しくないのだから。それでも今年、川上さんは笑顔で新年を迎えた。


「精神的にへこむこともあるんですけど、なんだろう、子供をかわいがって毎日頑張れば大丈夫だと思うんです。だって、やっぱり、今こうして生きているのって奇跡。あのとき病院に駆け込んだのも、子供がいたからこそ。子供のためにも、私は生きないと」


※女性セブン2017年1月26日号

NEWSポストセブン

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