大正大学 全裸教員出現の非常事態収束させた危機対応力分析

1月17日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 今月初め、都内の大学構内で男性教員が全裸になっている写真がネット上を賑わした。教員は処分されたが、大学当局の迅速な対応についてコラムニストのオバタカズユキ氏が賞賛を贈る。


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 マクドナルドが異物混入の件で緊急記者会見を開いて「なんだそのヒトゴトみたいな態度は」とヒンシュクを買っていた頃、東京・西巣鴨の大正大学が見事な不祥事対応を行っていたので書き残しておきたい。不祥事はテレビでも報道されていたが、注目すべきはそれに際しての大学の動きのほうだ。


 私がコトを知ったのは、1月8日の夕方。仕事の一服にツイッターを覗いてみると、両手で自分の陰部を申し訳なさそうに隠す中年男の全裸写真が出回っていた。現場は大正大学キャンパス。巣鴨の地蔵通りをずーっと歩いて行った先にある同キャンパスは、狭い敷地に高層の建物が密集している。


 写真の全裸男は建物と建物の間の通路上で、その場に駆けつけた大学教職員と思われるスーツ姿の男たちに取り囲まれていた。すぐ横にはケータイをかけながら足早に建物内へ向かう年輩男性の姿もあり、ただならぬ事態に緊迫する現場の空気がよく表れていた。


 いったい何がおきたのだろうと、ツイッター内検索の窓に「大正大学」と入れてみたら、同じ全裸写真が大量リツイートされていた。「露出狂現る!」「やばすぎ!」といった驚きの声に混じって、「全裸男は大正大学の教授か」「女子学生の命令で全裸土下座?」などの憶測も出てきている。


 この大学とは去年ゲスト講師でお邪魔した縁もあり、これからどうなることやらと気が揉めた。すると、夜の8時ごろに大学当局が公式HPで、<本学非常勤講師による不適切な行動について>と題するニュースを発信した。以下にその一部を引用する。


<本日午後3時ごろ、本学キャンパス内において、本学の非常勤講師(男性、55歳)による公序良俗に反し本学の秩序を著しく乱す不適切な行動がありました。>


<この件に関して、本学は厳正なる対処をすべく、直ちに本人から事情聴取を含む調査を開始しましたが、本人が深く反省し、責任を感じて退職願を提出してきましたので、本学は本日これを受理しました。>


 全裸の経緯や理由など具体的には記されていなかったが、コトがおきてからまだ5時間ほどしか経過していない。なのに、もう問題をおこした非常勤講師の退職願いが受理され、マスコミが騒ぎ始める前に大学発のニュースを流している。文末には学長の氏名をビシッと明記。すごい初動のスピードだ。大正大学のイメージは真面目でおっとりとした都会の仏教系大学というものだったが、その危機対応能力の高さにびっくりした。


 だが、大正大学のすばらしき対応能力は、その翌々日に<本学非常勤講師による不適切な行動について(報告)>と題するニュースが流されてより鮮明になる。浄土宗の僧侶でもある勝崎裕彦学長が直々に綴ったものだと思うが、およそ1300字の報告文が実に読ませるのである。<まず、今回の出来事に関する事実関係を記述いたします。>という書き出しで、騒動の流れを説明。一部引用しよう。


<当該講師は本学女子学生(21歳)と学内で出会い、話をしているうちに口論となり、「私に信じてほしいならば、ここで裸になってくれ」と要求されたということです。

 当該講師は独身で半年ほど前よりこの学生と親も同意の上で生活をともにしていました。

 この学生は日頃より情緒不安定な面があり、当該講師の言葉によると、感情が高まると突発的にどんな行動を取るか分からず、彼女の言う通りにしないと収まらないということを経験的に知っており、その言葉に従ってしまったということです。その際、衣服は学生が持ち去ってしまったので、当該講師はしばらくそのままの状態でおり、他の学生の目にするところとなりました。>


 そんなに長い報告文じゃないのに、えっそこまで詳細に明かしていいの?と思わされるほど情報が深い。<学生が落ち着いてからこの間の事情を聴取し調査をいたしましたが、事実関係についてはこの通りであることを確認いたしました。>と裏取りもしっかりしている。当該講師氏による大正大学の学生向けメッセージも掲載した上で、次のように見解を述べる。


<本学では今回の事案に関して、関係部署等で慎重な検討を行うことを指示し、当該講師の行為の動機に関しては同情すべき点があることを確認しました。しかしその動機のいかんにかかわらず、行為の結果に責任を取るということで当該講師と同意いたしましたので、辞表を受理いたしました。>


 さらに、学長は組織の指揮官として、こう念を押す。


<このような行為は、学内の諸規定に抵触するかを問う以前に、社会人としての良識が問われます。そのことも踏まえ、学生、教職員に本学の建学の精神にもとづく行動をあらためて要請いたします。

 なお今回の事案に関係した学生への指導に鑑み、当該学生の詳細な情報を秘匿し、保護することをご理解ください。>


 カンペキな説明責任の取り方と内部情報の管理だ。私はいい意味での家長権のようなものを感じたが、堂々とした対応の仕方に感銘を受けた人が大勢いて、ネット上では「大正大学ってとてもいい大学なのでは」といった評価がたくさんなされていた。


 この報告文は大正大学の公式HPに残されている。組織の長や広報に携わる人は、ぜひ参考にされたらいいと思う。ポイントは、対応の迅速性と明解なファクトの確認、そして職責に対するぶれない態度である。


 マクドナルドの場合は、社長が海外出張中とかで取締役2人が記者会見に応じていたが、「ヒトゴトみたい」と思われてしまったのは、彼らの表情がいかにもそんなふうだったからだ。本当はプレッシャーで顔が強張っていただけかもしれないが、世間はそんなに甘い見方をしてくれない。であれば、下手に顔出しなどしないで、大正大学の場合のようにビシッと文書で説明責任を果たすというやり方もあったのではないか。


 中年男の裸体という絵面にはかなりのインパクトがあったけれど、学長の文はそれを上回る力強さを読む者に伝えた。心を動かすビジネス文書のお手本を見せてくれた、とも言えるだろう。

NEWSポストセブン

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