未経験者の演劇プロデュースする西村雅彦 きっかけは母の言葉

1月17日(火)7時0分 NEWSポストセブン

演劇初心者が出演する舞台をプロデュースする西村雅彦

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 12月10日、富山市民プラザで開催された「西村雅彦コミュニケーションwith富山 芝居を創る4」。約1か月の練習を経て、小学生から80歳まで男女40人の市民が初舞台を踏んだ。


 総合プロデューサーを務めたのは西村雅彦(56)。舞台は満場の拍手に包まれ、幕を閉じた。


 西村は5年前から、石川、富山、千葉、福岡など、各地で初心者が参加する芝居やラジオドラマといったワークショップを開催している。西村はその目的を「特にシニア世代が、人と向き合い、繋がれる場を提供すること」だと語る。きっかけは母の言葉だった。


「もう80歳になりましたが、10年程前から『寂しくなった』と、よく口にするようになりました。『歳をとると、気を強く持っていても体が追い付かない。その辛さや寂しさが、いずれわかる』と言う。母は兄と住んでいますが、ひとり暮らしの高齢者も多い。彼らが元気になるよう僕にできることは、長年やってきた芝居しかないんです」


 富山で芝居を演出するのは、今回で4度目。10人ずつ4グループに分かれ、それぞれが20〜30分の劇に挑んだ。


 参加者のほとんどは演技経験がない。だが、一人ひとりが魂を込めて紡ぐ声にのり、伝えたい思いがダイレクトに客席に届く。西村が演じる上で重要視するのは“伝えること”だ。


「皆さん、つい早口で言葉を渡そうとします。でも、言葉を塊でポンと伝えてしまうと重すぎて、受け取った側が理解するのに時間がかかる。ましてや、舞台では客席を置いてきぼりにしてしまう。


 脚本家が言葉を丁寧に選び、セリフに落とし込んでくれているのに、申し訳ないですよね。日常でも同じことで、ゆっくりと、言葉を丁寧に伝えたほうが、誠実さや人の在り様が見えるんじゃないかな」


 ワークショップでは言葉の伝え方を中心に、具体的な呼吸や発声のテクニックを指導する。「言葉のアタマを意識する」「言葉のオシリには“ッ”をつける」──こうした極意を、DVDブック『西村雅彦の俳優入門 1カ月で効果が出るセリフのメソッド』にまとめた。


 出版の理由を、西村はこう語る。


「ワークショップに参加された方が、短期間に声が大きく出せるようになり、舞台でも笑顔で振る舞っている。その変化を目の当たりにして、より多くの人に共有してもらいたいと思うようになりました。こうして人に伝えることが、自分自身への戒めでもあるんです」


 回を重ね、参加者も増えた。西村一人では教えきれないため、実際の演技指導は専任講師が中心になって行なうが、西村も可能な限り、稽古に顔を出す。


「本番だけ顔を出すくらいなら、やらないほうがいいと思っています。舞台の場を借りて、世代間の縦の線が生まれるといい。他人同士が大家族になれるのが理想です」


 本番終了後は西村の言葉通り、孫を演じた少年が、舞台上と変わらぬ口調で、祖父を演じた男性に「おじいちゃん!」と呼んで駆け寄った。


●にしむら・まさひこ/1960年生まれ。富山県出身。1994年、三谷幸喜脚本のドラマ『古畑任三郎』シリーズ(フジテレビ系)で脚光を浴びる。1997年、映画『ラヂオの時間』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。同作と『マルタイの女』で、キネマ旬報賞助演男優賞、ブルーリボン賞助演男優賞、報知映画賞助演男優賞、日刊スポーツ映画大賞助演男優賞を受賞。2016年はNHK大河ドラマ『真田丸』ほか、映画『家族はつらいよ』『超高速!参勤交代リターンズ』等に出演。2012年から石川、富山、福岡、長野、山形、千葉などで演劇初心者向けのワークショップを開催。演劇で地域の活性化に取り組む。DVDブック『西村雅彦の俳優入門 1カ月で効果が出るセリフのメソッド』(飛鳥新社刊)も発売中。


■撮影/江森康之、取材・文/戸田梨恵


※週刊ポスト2017年1月27日号

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