俳優・堤真一が描く夢は「60過ぎたら演出家」

1月17日(水)16時0分 NEWSポストセブン

堤真一と宮沢りえが出演する舞台『近松心中物語』より(撮影:宮川舞子)

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「人前で台詞を言うのが恥ずかしくって、役者になりたいとは思っていなかった」


 取材中、堤真一(53)は思いも寄らない言葉を口にした。


 いまや舞台にテレビ、映画にナレーションと多方面で活躍する堤だが、自らの原点は舞台だと断言する。1月10日には、堤と宮沢りえが主演する舞台『近松心中物語』が初日公演を迎え、会場となった新国立劇場中劇場は大きな拍手に包まれたばかりだ。


 物語の舞台は元禄時代、大坂の遊郭。堤が演じる飛脚屋の養子・忠兵衛は、遊郭とは縁遠い生活を送っていたが、偶然見かけた遊女の梅川(宮沢)と許されない恋に落ちていく。


 1か月前、張りつめた空気が漂う稽古場には、鋭い眼光で芝居と向き合う堤の姿があった。「ここで腰をかけたほうがいいかな?」などと演出家と話し合いながら、共演者と一緒に立ち位置や身のこなし方、台詞のタイミングを幾度も確認する。


「高校生の頃なんて、将来何をやりたいかすらよくわからなかった。体を動かすのが好きだったからアクションをやりたいと上京したけど、東京にずっといたいという思いもなかった。ある程度お金を蓄えたら地元の兵庫・西宮に帰って、料理が好きなおふくろとちょっとした小料理屋をやれたらいいかな、くらいに考えていました」


 アクションの道を目指した堤だったが、演劇の世界に魅せられたきっかけは、1985年に手伝った坂東玉三郎主演の『天守物語』だった。姫路城の天守閣に住む妖怪の姫と、人間の男が恋に落ちるという泉鏡花の戯曲が、舞台の上で幻想的に表現されるのを目の当たりにして衝撃を受けたという。


「衣装を纏った役者さんと、照明が当たった舞台があまりにも美しくて。映像でなく、生で具現化できる世界があったのかと、感動しました。僕は獅子舞の前足を動かす黒子にすぎなかったけれど、何らかの形で舞台に関わっていきたいと決めたんです」



 このとき、すでに堤の才能を見出していた玉三郎の熱心な勧めもあり、堤は舞台役者の道を歩み出す。だが、下積み時代の8年間は、4畳半の風呂なしアパートで極貧生活を送った。


「仕事で遅くなって銭湯に行けない夜もあったけれど、ガスコンロで沸かした熱湯に水を足して、体を洗っていました。でも、それほど苦ではなかったんですよ。少しずつ仕事が増えてくると周りから引っ越しを勧められたけど、僕は『住む部屋に金を使うくらいならニューヨークに芝居を観に行きたい』と言ってね。たまたま知り合いが現地にいて宿代がかからなかったので、1か月半くらい芝居三昧の日々。それはもう刺激的で、次の年にはロンドンにも行きました」


 10年間ほど舞台を中心に活動した堤は、31歳のとき、フジテレビ系の「月9」枠の『ピュア』(1996年)で初めて連続ドラマのオファーを受ける。ヒロイン・和久井映見との共演で脚光を浴びると、2000年には同じ「月9」枠の人気ドラマ『やまとなでしこ』で主演・松嶋菜々子の恋人役を務め、大ブレイクを果たす。昨年はドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』や映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』など多くの作品に出演し、多忙な毎日を過ごしている。


「今日みたいな舞台稽古の日は、立ち居振る舞いの段取りや、台詞が頭の中でごちゃごちゃになって疲れますね。なので、家に帰って飯を食いながらビールを飲むと、1回寝てしまいそうになるんです。でも少し時間が経つと元気が出てきて、台詞を覚えなければいけないと焦って台本に向かう。いざ本読みを始めると没頭して、はっと気づくともう夜中の3時。そこから軽く1杯飲んで4時くらいに眠って、朝8時半には起きます」


 プライベートでは48歳で結婚し、女の子を授かった。4歳の娘の話になると自然と顔がほころぶ。


「年をとってからの子供なので、いやぁもう、かわいいですね。まだ幼稚園ですけど、最近はものすごく生意気になってきましたよ。ちょっと僕が失敗すると、“もう〜、とと(お父さん)ったら、ダメじゃない〜”って言われるんです(笑い)」


 53歳。父親としてはこれからだが、役者としては円熟期を迎えた。今の目標を訊ねると、意外なことに「特にないんです」と話す。


「僕はもともと、こういう役をやりたいとか、何かにチャレンジしたいという目標があまりない人間で。でも、60歳くらいになったら、一度は舞台の演出をやってみたいですね。僕が楽をできるように、むちゃくちゃ優秀なスタッフとうまい役者をいっぱい集めて、周りを固めてね(笑い)。演出家という客観的な立場から、自分の目に舞台がどう映るのかを見てみたい」


 演出を経験できたら、役者としても何かが変わるかもしれない──最後に堤はそう言って、目を細めた。


●つつみ・しんいち/1964年生まれ、兵庫県西宮市出身。1985年、坂東玉三郎主演の舞台『天守物語』に参加したのを契機に演劇の道へ。1987年、NHK『橋の上においでよ』に主演を果たすも、その後もデヴィッド・ルヴォー、野田秀樹など名だたる演出家の舞台を中心に活動。映像では、2000年、ドラマ『やまとなでしこ』(フジテレビ系)、2005年、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などで人気を集める。現在はNHK『もふもふモフモフ』で声の案内人を務めるほか、舞台『近松心中物語』(2月18日まで、新国立劇場中劇場にて)に出演中。


■撮影/平郡政宏 ■取材・文/戸田梨恵


※週刊ポスト2018年1月26日号

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