上白石萌音、プロ棋士を目指していた弁護士役で「初めて壁にぶち当たりました」 ドラマ9「法廷のドラゴン」【インタビュー】
2025年1月17日(金)8時0分 エンタメOVO
上白石萌音 (ヘアメーク:貴島タカヤ/スタイリスト:村田テチ) (C)エンタメOVO
−今回、高杉さんとはバディ役です。現場でどのように役を作っていったのですか。
高杉さんはとても信頼のおける方で、現場でご一緒していて、気が付く点や気になる点が一緒でした。それがすごく楽で。1人だけ気にしてモヤモヤするのではなく、私が気になっていることを高杉さんも気になっていることが多かったので、話し合ったり監督に相談に行ったりすることができました。作品の中では凸凹コンビで、足りないところを補い合う関係でしたが、普段の私たちはどちらかが凸だったらもう一人も凸というように、同じピースとして物事に向き合えたように思います。私は、一番長く高杉さんと時間を共にしましたが、とてもやりやすかったのでとても助かりました。
−そうしてお二人で作り上げていく上で、どういったところに難しさを感じましたか。
まず、弁護士は、その事件をどう捉えるかが大切だと思います。正義を追求するだけでなく、依頼人を守る仕事なので、どうしてもグレーな部分も出てきます。そこに対する倫理観も高杉さんとは近かったので「私たちは今、危ないことをしようとしているんですよね?」という共通認識が持ちやすかったです。そうなってくると、この言葉は強すぎないかとか、こういう言い回しで伝わるのだろうかといった疑問も出てきて、お互いに「今のどう聞こえました?」と確認して、話し合いながら進めていくことができました。監督や脚本家さんもそうしたところは尊重してくんでくださいましたし、意見もくださる方たちでしたので、各方面に失礼のないようにしっかり固めてから出せる安心感のある現場でした。
−法廷のシーンでは法律用語もあり、将棋用語もあって大変だったと思いますが、せりふを覚えることに苦労したのでは?
難しかったです。これまではあまりせりふを覚えることに苦労しませんでしたが、今回初めて壁にぶち当たりました。一夜漬けでは絶対に無理だったので、かなり鍛えてもらいました。
−将棋の経験が全くない状態からスタートしたそうですが、将棋の勉強はどのようにされたのですか。
羽生善治さんが監修されている「こども将棋」という本で、駒の動き方や将棋の考え方をまず勉強して、そこから先の実践的なところは動画で対局の様子を見て覚えていきました。ちょうど海外にいた時期もあったので、初心者向けの映像をたくさん見て手つきのイメージトレーニングをしたり、駒も持っていって、自分でもパチパチとやってみたりしていました。それから、女流棋士の方に手取り足取り教えていただいて、四六時中、駒を触って…という感じでした。将棋を知ることが竜美を知ることでもあるのかなと思ったので、ゆっくりしたペースではありましたが、将棋への愛を膨らませようと思いました。
−竜美を演じる上で、どんなことを意識していましたか。
監督たちとお話をしてキーとしてあげたのが、相手の目をどれくらい見るかということです。棋士の方は、対局中に相手の目を見ないんですよ。盤しか見ない。見るとしても、ちらっとうかがうように見るくらいなんです。そうした癖が出るといいなと思って演じました。顔を見ないからこそ、手元が見られたり、人が気付かないものに気付けたりもします。そうしたところを、ポイントとして作りたいと思っていました。その状態から竜美がスタートして、どう成長していくか。それが一つのキーになりました。
−なるほど。今日の衣裳は、竜美が法廷で着るものですよね?
そうです。竜美の勝負服です。
−はかま姿で法廷に立つというのも斬新ですね。
そうですよね(笑)。でも、ルール的には問題ないらしいです。違和感は大いにあると思いますが(笑)、正装ということで認められていると聞きました。和装ですし、はっきりした色合いなので、心もシャキッとします。私は和服が好きなので、毎話必ず着物を着ることができてすごくうれしかったです。
−弁護士事務所のシーンでは、小林聡美さんが演じるパラリーガル兼経理・乾利江とのシーンも多いですが、小林さんとの撮影はいかがでしたか。
聡美さんはもともと憧れの存在で、いつかご一緒できたら幸せだなと思っていました。ご出演作を見たりエッセイを読んだりしていました。事務所のシーンの撮影で、部屋の片隅にある畳に2人並んで腰掛けて、好きなおにぎりの具の話をしたときに、「これって『かもめ食堂』だ!」と泣きそうになりました(笑)。私は聡美さんのピンと背すじを伸ばした姿勢が好きで。いつも背すじが真っすぐで、どんなにリラックスされていても、あの姿勢でお芝居をされたり、人に丁寧に接されたりする姿をそばで拝見できてすごく幸せでした。聡美さんがクッキーをくださったことがあって、それは写真にも撮りました(笑)。本当に幸せです。
−父・辰夫役の田辺誠一さん、母・香澄役の和久井映見さんとのエピソードも教えてください。
クランクインから少しして、お父さんとお母さんに初めてお会いした瞬間に、「竜美は、これでよかったんだ」と思いました。竜美が持っている要素を全て両親がバランスよく持っていて、「この両親から生まれた子だ」というのがすごくストンと腑(ふ)に落ちて。お会いした瞬間から家族になれた気がしました。
−これまでの撮影で特に印象に残っている出来事は?
1話のクライマックスの法廷のシーンで、私が真っ赤なはかまを着て弁護人の席に座るという場面で、隣にいらした松坂慶子さんが私を見て吹き出したんです(笑)。法廷にはかまを着た人がいるということに耐えられなかったようで、ケラケラと笑っていらしたのが忘れられないです。「いいわね」とおっしゃっていて。毎話ゲストの方が来てくださいますが、本当にすてきな方ばかりの現場でした。どの方ともすごく印象的な思い出がたくさんあります。
−ところで、竜美は勝負の世界で生きてきたキャラクターですが、上白石さんは勝負に対するこだわりはありますか。
この世界も勝負といえば勝負なのかもしれないですが、勝ち負けがつくわけではなくて、どちらかというと自分との戦いだと思います。自分がよしと思うか、だめだったと思うかの世界なので、相手に対して闘志を燃やすことはあまりないです。ただ今回、竜美を演じて私もすごく負けず嫌いなんだなとか、実は勝ちたいと思っているんだなという気持ちに気付きました。
−それはどういったところで感じたのですか。
棋士の方のことを知りたいと思って将棋の本をたくさん読んだのですが、その中に、「対局のときは相手の息の根を止めるくらいの気合でいく」ということが書いてあったんです。頭脳戦ではあるけれど、それくらいの気持ちでいると。実際に、1回の負けが命取りになる世界ですし、それほど戦いに懸けている世界だということを知ってから、私も法廷のシーンは“戦”だと思って演じるようにしていました。ここから長せりふが続くというときに、心の中でボッと着火する瞬間があるんですよ。それにたぎる自分がいたんです。そこが着火できるとうまくいくことがあって、今まで自覚はしてこなかったですが、この負けん気を燃やすということをこれからは意識的にやっていこうかなと思いました。
−2025年がスタートしました。そこで、2024年の振り返りと、今年の目標をお願いします。
2024年は、大学を卒業して、やっと社会人としての覚悟を決めた年でした。今までとは景色が違いましたし、今までより多くのことを感じたように思います。去年、初めて日記が続いたんです。読み返してみたら、2日に1回くらい「悔しい」って書いていて。いろいろな人の才能に嫉妬したり、自分の未熟さに落ち込んだり、悔しい悔しいって思いながら過ごしていました。ですが、それは丁寧に悔しがれたということでもあるので、すごくいいことだと思います。今年も小さなことに喜んだり悔しがったりして、傷もたくさん増やし、その分、共感力や優しさを高めながら生きていけたらいいなと思います。
−悔しさが原動力につながっているんですね。今年、挑戦したいことはありますか。
人間ドックです。今まで行ったことがないんですが、何かあるかもと心配で(笑)。長生きしたいです。
−最後に読者へのメッセージをお願いします。
将棋や法律と言われると難しいドラマなのかなと身構えてしまう方もいらっしゃると思いますが、その身構えた格好で見始めたら、数分でスコッとなると思います(笑)。それくらい間口が広くて、歩み寄りのある作品です。すごく大事なものを手渡してくれるドラマになっていると思うので、ぜひ柔らかい気持ちになって楽しんでいただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)