林家正蔵が襲名から14年、名跡はすっかり定着した

1月18日(金)16時0分 NEWSポストセブン

林家正蔵の魅力は?

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、九代目を襲名してから14年、林家正蔵が蓄積した力量でじっくり聴かせる代々の演目についてお届けする。


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 2005年、長瀬智也岡田准一が主演したドラマ『タイガー&ドラゴン』と共に落語ブームを加速させたのが林家こぶ平の九代目正蔵襲名イベントだった。3月13日、石原プロや「六人の会」の支援を受けて上野・浅草で行なわれたパレード&お練りの見物人は14万人! 同年1月に十八代目中村勘三郎襲名のお練りが行なわれた直後ということもあり、マスコミはこの話題に飛びついた。


 当時、いわゆる「落語通」の間ではあれこれ言われたが、14年近く経つ今、当代正蔵の名はすっかり定着したと言えるだろう。


 その正蔵が2008年から国立演芸場で年に一度開いている落語会が「正蔵 正蔵を語る」。タイトルから先代正蔵(彦六)の演目に挑戦する会と思われがちだが、そうではなく、いろんな芸風の正蔵代々の演目をネタ下ろしする会なのだという。


 10回目となる昨年11月25日の「正蔵 正蔵を語る」で演じたのは『一眼国』と『小間物屋政談』。彦六の演目として知られる『一眼国』はともかく、『小間物屋政談』は少々意外だが、これは六代目の正蔵が演じた記録が残っている。


 両国の香具師が一つ目の子を捕まえに行く『一眼国』は、冒頭の香具師と六十六部の会話からラストの裁きのシーンまで一貫して怪談めいた雰囲気が醸し出されていて引き込まれる。香具師が広い原中を進んでいくと樫の木が現われ、一足ごとにあたりが暗くなり......というところからのスリリングな展開も真に迫っている。この手の噺がこれだけ似合っているとは意外な発見だ。



『小間物屋政談』は鈴々舎馬桜から教わったという三遊亭の型。


 上方へ商いに出た小間物商の相生屋小四郎が、旅の途中で盗賊に襲われた若狭屋甚兵衛を助けた。この若狭屋は宿屋で病死、所持した書き付けにより小四郎と間違われ、遺体確認に向かった大家も小四郎と断定。女房おときは大家の口利きで再婚してしまい、江戸に戻った小四郎は居場所を失うが、奉行の大岡越前は小四郎に若狭屋未亡人よしとの再婚を提案。若狭屋は三万両の身代、よしは絶世の美女。小四郎はこの大岡裁きに大喜びして大団円......。


 この物語を正蔵は、登場人物を生き生きと描いて見事に聴かせた。騒動の原因となって人々を振り回した大家のいい加減さが可笑しく、小四郎の明るさは正蔵自身のキャラに合っていて好感が持てる。


 この日の2席は、かつてのイメージからは「似合わない」と思えた噺だ。それをじっくり聴かせる力量が、今の正蔵には備わっている。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2019年1月18・25日号

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