人気脚本家が深夜帯へ 刑事、医療モノ増えた連ドラと一線画す

1月18日(土)7時0分 NEWSポストセブン

野木亜紀子さん脚本で話題の『コタキ兄弟と四苦八苦』(公式HPより)

写真を拡大

 かつての連続ドラマは、誰もが名前を知る人気脚本家の作品が目立っていた。しかし、最近、そうした傾向に異変が見られる。ゴールデン・プライムの時間帯ではなく、深夜枠で作品を手掛ける人気脚本家が増えているのだ。いったいなぜか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその背景について解説する。


 * * *

 ゴールデン(19〜22時)、プライム(19〜23時)帯に放送される16作のうち、医療モノが6作、刑事モノで6作が放送されるなど、これまでにないほどジャンルの偏りが見られる冬ドラマ。その中で異彩を放ち、ネット上でジワジワと注目度を上げているのが、金曜深夜に放送されている『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)です。


 同作は、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『アンナチュラル』(TBS系)などのヒット作を手がけ、「今最も旬の脚本家」と言われる野木亜紀子さんのオリジナル作品。「なぜ人気絶頂の脚本家がテレビ東京の深夜ドラマを書くのか?」と、ドラマ好きの人々を中心に話題を集めているのです。


 しかし、人気脚本家がゴールデン・プライム帯と比べて視聴者の少ない深夜ドラマを手掛けるのは今冬だけではありません。野木さん以外の人気脚本家たちにも、ゴールデン・プライム離れが見られるのです。


◆各局が人気脚本家を深夜帯に招いている


 昨年を振り返ってみると、『ごちそうさん』『おんな城主 直虎』(NHK)、『JIN-仁-』『とんび』『天皇の料理番』(TBS系)などを手がけた森下佳子さんは、7月期土曜深夜の『だから私は推しました』(NHK)。


『ちゅらさん』『ひよっこ』(NHK)、『ビーチボーイズ』『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)などを手がけた岡田惠和さんは、7月期金曜深夜の『セミオトコ』(テレビ朝日系)。


 もともと深夜を主戦場にしていたものの、近年は『スーパーサラリーマン左江内氏』『今日から俺は!!』(日本テレビ系)とゴールデン・プライムの作品が続いた福田雄一さんは、不定期土曜深夜の『聖☆おにいさん』(NHK)、10月期金曜深夜の『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)。


『101回目のプロポーズ』『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)、『高校教師』『未成年』(TBS系)などで一世を風靡した野島伸司さんは、2013年から主戦場を深夜帯と動画配信サービスに移し、昨年も『百合だのかんだの』(FODで配信後フジテレビ系の深夜帯で放送)を手がけました。


 また、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)、『透明なゆりかご』(NHK)などで「業界内の評価はトップクラス」と言われる安達奈緒子さんは、昨年ゴールデン・プライム帯の『サギデカ』(NHK)、『G線上のあなたと私』(TBS系)だけでなく、深夜帯の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)も手がけました。


 野木さんはテレビ東京系、森下さんはNHK、岡田さんはテレビ朝日系、福田さんはNHKとテレビ朝日系、野島さんはフジテレビ系、安達さんはテレビ東京系と、「各局が深夜帯に人気脚本家を招いている」という事実も見逃せません。


 さらに、その他の人気脚本家にも、深夜帯どころかテレビの連ドラそのものから距離を取っている人が少なくありません。


『Mother』『Woman』(日本テレビ系)、『最高の離婚』(フジテレビ系)、『カルテット』(TBS系)などを手がけた坂元裕二さんは8クール、『リーガルハイ』『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジテレビ系)、『鈴木先生』(テレビ東京系)などを手がけた古沢良太さんは7クール、『ロングバケーション』(フジテレビ系)、『ビューティフルライフ』『オレンジデイズ』(TBS系)、『半分、青い。』(NHK)などを手がけた北川悦吏子さんは6クール、『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)、『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』『dele』(テレビ朝日系)、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)などを手がけた金城一紀さんも6クール、テレビの連ドラから遠ざかっています。


 視聴者と業界人の両方に多くのファンを持つ人気脚本家たちは、なぜゴールデン・プライム帯はおろか、テレビの連ドラから距離を置いているのでしょうか。


◆視聴率、表現の制約、質をめぐる思惑


 録画機器の発達とネット視聴の浸透によって、ドラマはリアルタイムでテレビ視聴してもらうことが難しくなりました。しかし、ゴールデン・プライム帯は現在でもリアルタイムでテレビ視聴してもらい、視聴率獲得することが最重要視され、そのためのドラマが企画・制作されています。


 だから冒頭に挙げたように、見やすさを重視した一話完結型の医療モノや刑事モノが増えました。また、企画を通すためには、「視聴率が獲得できるか?」という基準をクリアしなければいけないため、もともとファンの多い人気原作の実写化が選ばれがちです。


 しかし、基本的に人気脚本家たちが書きたいのはオリジナルであり、しかもその大半は医療や刑事ではありません。実際、前述した『コタキ兄弟と四苦八苦』、『だから私は推しました』、『セミオトコ』、『時効警察はじめました』、『百合だのかんだの』はオリジナルであり、作品ジャンルも世界観もバラバラです。


 ゆえにドラマのプロデューサーたちは、視聴率獲得が絶対視されるゴールデン・プライム帯の作品に人気脚本家を起用しづらいところがあり、「深夜帯に伸び伸びと書いてもらおう」という形が増えているのです。


 人気脚本家たちにとっても、深夜帯なら低視聴率報道に悩まされることも、「脚本がひどい」などのバッシングを受けることも少なく、表現の制約もゴールデン・プライム帯ほど多くありません。自分の書きたいものや、質の高さを追求することに専念できるため、「むしろ深夜帯のほうがいい」という人が増えました。


 また、それでも不自由さを感じてしまう脚本家は、「テレビの連ドラから少し距離を取り、単発ドラマ、映画、舞台などを手がけながら様子を見ている」ようなのです。


◆動画配信サービスとの連動で収益アップ


 その他の側面として挙げておきたいのは、深夜ドラマが動画配信サービスと連携することによって、以前よりもお金を稼げるようになっていること。


このところParavi、FOD、Huluなどで配信したのちに地上波の深夜帯で放送される作品が増えているように、「深夜ドラマでもネットかテレビのどちらかで見てもらえるなどチャンスが広がった」「評判がよければ世界中の人々に見てもらえる」という理由から、人気脚本家にとってもやりがいのある場になっているのです。


 一方、大石静さん、遊川和彦さん、井上由美子さんは、依然としてゴールデン・プライム帯の作品を手がけ続けていますが、ここ数年でささやかれているのが作風の変化。


オリジナルを手がける技術と意欲はさすがである反面、視聴率獲得に向けたシンプルな作品に徹することもあり、ドラマ好きの間では「柔軟に変えられるのは凄い」「以前に比べると物足りない」と賛否が分かれているのです。


 どちらが正しいというわけではありませんが、現在の視聴率という評価指標が変わらない限り、「人気や実力のある脚本家ほど深夜帯に移る、テレビの連ドラから距離を取る」という傾向は進む一方でしょう。やはり、テレビ局とプロデューサーたちが変わらなければ、ドラマの質や多様性を保っていくことは難しそうです。


【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

NEWSポストセブン

「脚本家」をもっと詳しく

「脚本家」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ