「その髪のウェーブは、天然?」羽生結弦のライバル、ネイサン・チェンに聞いてみた

1月19日(日)6時0分 文春オンライン

 フィギュアスケートネイサン・チェン選手は、2019年12月に行われたGPファイナルで羽生結弦を破り、3連覇を果たした。チェンはショートプログラムで2度、フリーで5度、合計7度の4回転ジャンプを成功させ、男子の歴代最高点を更新(335・30点)。オリンピック2連覇の王者・羽生にとって目下最大のライバルといっていいだろう。


 そのチェンが「文藝春秋」の独占インタビューに応じ、ライバルの羽生のこと、18年9月から通うイェール大学での日々、そして最終目標となる2022年の北京オリンピックへの想いを明かした。


 取材・構成を担当したノンフィクションライターの田村明子氏が、GPファイナル最終日に行われたチェンのインタビュー秘話を明かす。



ネイサン・チェン ©getty


◆◆◆


 トリノで開催されたGPファイナルの最終日、米国フィギュアスケート連盟プレス担当者のマイケルと筆者は、パラヴェラ競技場の記者ラウンジ周辺をウロウロしていた。


「文藝春秋」という媒体の説明をし、どうしても今回のネイサン・チェンの取材は単独で時間をいただきたいとお願いしたところ、マイケルもネイサン本人も快諾してくれた。



「ここはどうだろう?」とマイケルが提案してきたのは、カフェラウンジの横にある小部屋の、大きなゴミ箱の陰になったスペースだった。


「人の出入りが激しくなければ、ここで結構です」


 マイケルは手早く私たちのために椅子を2つ並べて、ネイサンを呼んできた。



「こんなところでごめんなさいね」


「ノープロブレム」と、ちょっといたずらっ子のような顔で、にやっと笑いながら答えたネイサン。こうして巨大なゴミ箱の横で、世界チャンピオンのインタビューが始まった。


インタビュー中に感じた“頭の回転の速さ”


 これまで何度か書いてきたことだが、ネイサンの英語は半端ではない早口で、アメリカに移住してすでに40年以上になる筆者でも、時々聞き返したくなる。取材には英語のトランスクリプションが出る録音アプリを使っているが、そのアプリでも彼の早口にはついていけず、一文で単語を1つや2つは落とす。



「えーと」「あのー」にあたるような、英語でverbal pauseと呼ばれる意味のない音が入らずに、まるで早口言葉のような速さで答えが整然と返ってくるのは、おそらく頭の回転が物凄く速く、また思考が整理されているからなのだろう。


 そのおかげで同じ制限時間でも、他の選手の倍の内容が返ってくる。記者にとっては、ありがたい。ありがたーい選手である。


彼の滑りを見られるのは、おそらくあと2シーズンだけ


「(2022年)北京オリンピックが最終目標?」


 そう聞くと、「今のところそのつもり。いずれ医学部を目指すことを考えると、現実的に言って競技スケートのトレーニングとの両立は難しいから」と答えた。



 アイビーリーグの名門、イェール大学に入って2年目になるチェン。絵に描いたような文武両道なのに全く嫌味なところがないのは、彼の人徳としか言いようがない。この才能ある若者の滑りを大会で見ることができるのは、おそらくあとわずか2シーズンだけ。



「あなたのその髪のウェーブは、天然?」


 ネイサンの早口のおかげで、マイケルが戻ってくる前に予定した質問は一通り終わっていた。


「最後に一つ、くだらないこと聞いてもいいかしら」


「何でもどうぞ」


「あなたのその髪のウェーブは、天然?」


 ネイサンの髪は、まるでセットされたリーゼントのようにくりくりである。天然ならばアジア人の髪質には珍しいけれど、ネイサンがカーラーを巻いてヘアサロンの椅子に座っている姿はどうしても想像できない。



「そうなんだよ! ぼくの父親も母親も髪はまっすぐなのに。でも兄の1人も天然のウェーブがあるから、隔世遺伝なのかも」


 ネイサンが、笑いながらそう答えた。5人きょうだいの末っ子で、姉と兄がそれぞれ2人ずついるという。きっと明るい家庭で、可愛がられながら育ったのだろう。


「いやー、こんなゴミ箱の横しか場所がなくてゴメンね」


 そう言いながら、制限時間が少しだけ過ぎたところでマイケルが戻ってきた。


「いいえ、おかげさまで貴重な話がたくさん聞けたわ」


◆◆◆



 ネイサン・チェンの独占インタビュー「 羽生結弦が僕を高みに連れていく 」は「文藝春秋」2月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。



(田村 明子/文藝春秋 2020年2月号)

文春オンライン

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