坂東玉三郎「濃厚接触者と認定され、初日の舞台を踏めなくても…自分のなすべきことを粛々と」

1月19日(火)18時0分 婦人公論.jp


「役者にとって一番困るのは、家にこもっている間に身体が動かなくなること。自宅でできることは何かと考え、1日に2曲は舞を踊ることを日課にしました。」(撮影: 岡本隆史)

現在発売中の『婦人公論』1月26日号の表紙は歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんです。昨年の自粛期間、舞台が中止になってできた時間で、趣味の陶芸にじっくり向き合えたと前向きに語る坂東玉三郎さん。それでもやはり、舞台に立てるということが何にも代えがたいことであると痛感したといいます。発売中の『婦人公論』からインタビューを掲載します。(構成=篠藤ゆり)

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演劇というものを愛するがゆえに


2021年は、大阪松竹座での「坂東玉三郎 初春特別舞踊公演」で幕を開けました。松竹座では以前にも、初春の舞踊公演を2度ほど行っております。2018年には、ロビーに上演演目の大きなパネルを展示して写真撮影を楽しんでいただけるようにしたり、劇場内を獅子舞が駆け回ったりと、いろいろと趣向を凝らして皆様をお迎えしました。

けれど今回は、花道を使用しないなどコロナ対策を徹底しながらの公演となりますので、ロビーでお客様が密になるような催しもできません。そこで、お正月らしさをどのように演出したらよいかと考え、『お年賀 口上』では、華やかな打掛をご覧いただくことにしました。京都の職人さんが1年がかりで仕立てた赤い鳳凰柄の1枚、『天守物語』でご披露した2枚、さらに『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』のために仕立てた1枚を予定しています。

口上に続いてお届けするのは、趣の異なる舞踊の2作品です。『賤(しず)の小田巻』は、源義経とその愛妾であった静御前の別れを描いています。そして、長唄の名曲『高尾懺悔(ざんげ)』を改曲し、新作舞踊として18年に初披露した『傾城雪吉原(けいせいゆきのよしわら)』は、雪景色で始まりますが、「春は来にけり」という歌詞で終わり、この季節にふさわしい演目です。

こうしてお正月公演ができて、足を運んでくださるお客様がいらっしゃる──とてもありがたい気持ちでいっぱいですし、私自身、舞台に立てるということは何にも代えがたいことであると痛感しています。

ただ同時に、歌舞伎だけではなく演劇というものを愛するがゆえに、手放しに喜ぶことはできません。小さな劇団などは、もっと大変な状況だと想像できるからです。もちろん演劇界だけではなく、医療従事者や飲食業の方など、さまざまなお仕事に携わる方が本当に大変な思いをなさっているはず。そのことを考えると、胸が締め付けられるような思いです。


『婦人公論』1月26日号の表紙に登場している坂東玉三郎さん(表紙撮影:篠山紀信)

モノ作りに時間をかけて向き合う


2020年3月より、新型コロナウイルスの感染拡大のため歌舞伎の公演はすべて中止となり、私も舞台に立てず、ひたすら自宅で過ごしていました。もともと、あまり外出しないほうですが、「出かけていい」と言われて出かけないのと、「出かけてはいけない」と言われて出かけないのでは、精神的にずいぶん違うものですね。

舞台から離れていた期間は、自分で決めた1日のプログラムに沿って過ごすようにしていました。役者にとって一番困るのは、家にこもっている間に身体が動かなくなること。自宅でできることは何かと考え、1日に2曲は舞を踊ることを日課にしました。

それから、食べすぎに気をつけ、人様があまり歩いておられない時間帯に散歩をすることも肥満防止のために取り入れて。また、規則正しい生活が乱れないように、夜更かしはせず、よく寝ていましたね。

すべてを忘れて没頭できる踊りと同様に、憂いを忘れさせてくれたのが陶芸でした。陶芸は20年ほど前から続けていますが、以前は忙しいことを理由にそれほど時間をかけず、数日で仕上げてしまっていたのです。そこで、今回はじっくり時間をかけて土に触れ、お抹茶のお茶碗を作りました。やはりモノ作りは時間をかけて向き合わなくてはダメなのだと、改めて気づかされました。

また自粛期間中に観たもので印象に残っているのは、世界的ベストセラー『サピエンス全史』を書かれた歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリさんや、海外の経済学者などのインタビュー番組で、これはとても参考になりました。広い視野で物事を捉える学者のお話を聞くと、とにかく慌てても仕方がない、焦って判断を間違えないことが大切だと、冷静になることができましたから。

すべてのことを冷静に受け止めて


8月から、歌舞伎はソーシャルディスタンスを保ったうえで再開されることとなり、9月、10月と私も歌舞伎座に立つことができました。できるだけ少ない人数で上演でき、しかも今までにはない新しいものを皆様に楽しんでいただきたい。そんな思いで、映像と舞踊を組み合わせた公演に挑戦しました。

普段お客様が見ることのない奈落や舞台裏、楽屋などを私がご案内する、《映像によるバックステージツアー》は、初の試み。せっかく皆様に足を運んでいただいたのですから、この時期でないと観られないものをご提供したかったのです。

歴史を振り返ってみると、スペイン風邪やコレラ、ペストなど、さまざまな感染症のパンデミックがありました。いつの時代もこういうことはありうるのですね。だから今後も、今回のことを教訓にしていかなくてはならないでしょう。大勢様にいらしていただく仕事をしている私たちが、知っておくべきである新たなマナーを学んだ気がします。

実際、他人事ではないのです。私自身、12月の歌舞伎座の公演を控えて、感染された方の濃厚接触者と認定を受けてしまったため、初日から舞台に立つことができませんでした。

代役を勤めてくださった尾上菊之助さんとは、電話でご相談し、すべてお任せして再びステイホームの時期を過ごした次第です。その後の4度にわたる検査の結果、陰性であることがわかりましたので、途中から復帰させていただきました。

今年はなんとか、感染が落ち着いてほしいものです。それまでの間、すべてのことを冷静に受け止め、何があろうとバタバタせず、自分のなすべきことを粛々と行っていかなければ。そして、舞台だけは、皆様に苦しい現実を忘れていただくひとときとしてご提供したい、そう思っております。

婦人公論.jp

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