壇蜜が熊谷守一の世界に触れ、猫の観察力に驚嘆する

1月19日(金)7時0分 NEWSポストセブン

熊谷守一展を訪れた壇蜜氏と山下裕二氏

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「ナマの日本美術を観に行こう」のコンセプトで始まった大人の修学旅行シリーズ。今回は画家・熊谷守一の没後40年を記念して開催中の大回顧展を、美術史家の山下裕二氏引率の下、生徒役のタレント・壇蜜が訪れた。


 一見ユーモラスで、苦もなく描いたかのように見える作品に隠された創作の秘密とは何か。97年の人生を生き抜いた孤高の画家の作品世界をめぐる。


壇蜜:わっ、黒とオレンジで三毛猫みたい! もしかして先生のそのシャツ、『猫』(1965年 愛知県美術館 木村定三コレクション蔵)の絵を意識していますか?


山下:さすが猫好きの壇蜜さん。僕も猫好きで熊谷守一の猫の絵は大好きなのですが、特にこの作品は飼っていたトロという三毛猫にそっくりで愛着があるんです。


壇蜜:私も自宅で1匹、実家で2匹飼っています。一連の作品を観ると、どれだけ猫を観察して描かれたのかがよくわかりますね。寝そべった時のお腹のたわみや尻尾の垂れ下がり具合など、“そうそう、猫ってそうだよね”という特徴がしっかり捉えられていて。肩甲骨のラインも猫そのものです。


山下:『牛』など、動物の肩甲骨を描くのが得意ですね。この描写があることで一気に動物感が出る。


壇蜜:すごくリアルなのに筆跡は流れるようで迷いがない。こんなにもスーッとなめらかに描かれた油絵を、私はあまり知りません。


山下:『猫』は85歳、『牛』は75歳といずれも晩年の作品です。明るい色彩でシンプルに描かれた小動物の作品が人気ですが、その作風は波瀾万丈の人生で守一自身が獲得したもの。没後40年の回顧展となる本展では、激動の人生とともに作品を辿ることができます。


壇蜜:学生時代の『自画像』は重厚な油絵ですね。『陽の死んだ日』(1928年 大原美術館蔵)は、絵の具が力強く塗り重ねられて盛り上がっている。浮き上がるような立体感に圧倒されます。


山下:5人の子宝に恵まれた守一ですが、3人を亡くしている。この作品は次男が数え年4歳で急逝した日のもの。息子に何も残してやれなかった無念から死に顔を描いたけれど、そんな自分に嫌気がさして30分で筆を置いたそうです。元来激しい気質があったことが作品から感じられる。終戦後に長女を21歳で亡くし、『ヤキバノカエリ』が描かれました。


壇蜜:どちらもお子さんを亡くされた悲しみに溢れていますが、年齢を重ねるごとにタッチが穏やかになっている。背景の出来事を知ると不気味さを感じます。


山下:彼は実はものすごく絵がうまい。卓越した技術と表現の幅をそぎ落として、そぎ落として、最終的に行き着いたのが『猫』なんです。70代で体調を崩すと猫をはじめ、『雨滴』『蟻』など生活の風景を中心に作品を残しています。


壇蜜:捨てて、捨てて、辿り着いたのが『猫』なんですね。『雨滴』など“人生は引き算ですよ”と絵が訴えてくる。その境地の陰には壮絶な経験があって……。1回の人生でこの引き算は今の私には想像がつかないし、自分が辿りつける自信もまだありません。


山下:熊谷守一が中年以上の大人の共感を呼ぶのは、そこにひとつ理由があると思います。『陽の死んだ日』であれほど激しい絵を描いていた人が晩年の引き算で、「無為自然」の境地を開拓した。しかも並大抵では辿りつけない深みまでに。ものすごく強い意思を持って無為自然に生きようとした、その姿が作品から伝わるのです。


壇蜜:作品を連続して観ることで、成り行きで無為自然へ到達したわけではないと理解できる。「わからないとはいわせないよ」といいたくなる構成になっていますね。


●山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。笑いを交えた親しみやすい語り口と鋭い視点で日本美術を応援する。


●壇蜜(だん・みつ)1980年生まれ。タレント。2010年芸能界デビュー。グラビア、執筆、芝居、バラエティなど、幅広い分野で活躍。近著に『男と女の理不尽な愉しみ』(林真理子と共著・集英社)、『噂は噂 壇蜜日記4』(文春文庫)。1月26日スタートのドラマ『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)に出演。


【没後40年 熊谷守一 生きるよろこび】

会期/3月21日まで

会場/東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)

開館時間/10時〜17時(金・土曜日は20時まで、入館は閉館30分前まで)

休館日/月曜日(ただし2月12日は開館)、2月13日(火)

入館料/一般1400円、大学・専門学校生900円、高校生400円


※週刊ポスト2018年1月26日号

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