名医対談 「死ぬ場所、病院と自宅の決定的な違いは何か?」

1月19日(土)16時0分 NEWSポストセブン

名医・小笠原文雄さんと垣添忠生さんが対談

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「『なんとめでたいご臨終』に学ぶ笑顔で最期を迎える方法」と題し、在宅医療の名医・小笠原文雄先生が人気テレビ番組『世界一受けたい授業』(日本テレビ系 1月12日)に出演し、大きな反響を呼んでいる。余命宣告を大きく覆して生きる人、大切な家族を笑顔で見送った人…どうして自宅ではそんなことが起きるのか。がんを知り尽くす名医で、がんで妻を亡くし、自身もがんを経験した垣添忠生先生と、いつか必ず訪れる「その時」の迎え方について語り合った。誰しも死が逃れられないのだとしたら、どうせなら「なんとめでたいご臨終」してみませんか?


【プロフィール】

小笠原文雄(おがさわら・ぶんゆう)/1948年生まれ。名古屋大学医学部卒業。名古屋大学第二内科(循環器)を経て、1989年に岐阜市内に開院。現在は、小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長。在宅看取りを1000人以上経験。名古屋大学医学部特任准教授。


垣添忠生(かきぞえ・ただお)/1941年生まれ。東京大学医学部卒業。同大学医学部泌尿器科文部教官助手を務めながら、がんの基礎研究に携わる。1975年より国立がんセンター勤務。2002年、国立がんセンター総長、2007年、同センター名誉総長に。日本対がん協会会長。


◆病院と自宅の決定的な違いとは何か?


垣添:私は病院と自宅で最も違うのは「自由」だと思います。自宅なら、住み慣れた環境で自由に気ままに死ねる。私は酒が好きですから、相当悪くても酒を飲んでバタッと死ぬんじゃないかと思っています(笑い)。


小笠原:確かに。ぼくの経験でもほとんどの患者さんが家に帰るとお酒を飲まれています、本当に嬉しそうに(笑い)。


垣添:そうですよね。病院にはいろんな規則がありますからね。(国立がんセンターの)総長経験者とはいえ、やはり規則には従わないといけない。入院している妻がまだ元気な頃、立派なズワイガニをもらったので病室に持ち込んだんです。しかしこのカニを酒なしで食べるのはいかにももったいない。そこで医局から酒を持ってきて、ふたりで飲んだんです。その空き瓶をゴミ箱に捨て、翌日また酒を飲んで2本目の空き瓶を捨てたら、「病室で酒を飲まないでください!」って後で叱られちゃった(笑い)。


小笠原:ワハハハハ。さすがに夫婦の仲睦まじい宴会の最中には、看護師さんも面と向かってよう言わなかったんですね。


垣添:その点、家には病院のような規則はないですからね。退院前、「家に帰ったら夕食は何が食べたい?」と妻に聞くと「アラ鍋が食べたい」と言うので、宅配便で取り寄せ、その夜に作って出しました。


 妻は抗がん剤の副作用で口内炎と食道炎がひどく、私は内心、とても食べられないだろうなと思ってたんです。でも妻は「おいしい、おいしい」と言って食べてね。いやあ、あれは在宅の奇跡だと思いました。大きい器に2杯、お代わりして食べたんです。病院では内服の痛み止めをのまないと、水やお茶も口に運べなかった彼女が、ですよ。



小笠原:わが家には、患者さんの力を引き出すパワーがあるんですよね。痙攣発作のあるかたが自宅に帰ったら畑に行けるまでになったり、「退院したら5日の命」と宣告されたかたが、自宅に帰ってから7年経った今もピンピンされているなど、余命宣告された人が驚くくらい元気になったり長生きされたケースにもたくさん出会ってきました。


垣添:もう治らないということが明らかなとき、最期まで病院にしがみついている必要はないですね。最期の生を謳歌するというのかな、自由に好きなことをすればいいんですよ。


小笠原:治療にもう打つ手がないというとき、病院の主治医から「病院にいるよりも家の方が幸せですよ。自由ですよ。好きなこともやれますよ。奇跡も起こりますよ」って家に帰ることを家族に進言してもらいたいですね。そうでないと、患者さんやご家族は「病院にいればまだ助かるんじゃないか」「まだ大丈夫じゃないか」と間違えてしまい、かわいそうですよ。


垣添:特に若い医師ほど頑張って、いろんなことをやりますからね。本当は手を打ち尽くして、これから先は医療的に難しいとわかるはずなんですよ。しかし、きちんと伝えてあげないから、家族も患者さんもまだ他にもっとないかと思って、ネットで調べて、根拠の定かではない免疫療法に引っ張っていかれたり、健康食品なんか、下手をしたら500万〜600万円くらい、あっと言う間に飛ぶような治療もありますから。その結果、最期まで苦しみ抜いて亡くなるっていうのは大変不幸なことです。


小笠原:家族がしてはいけないことといえば、末期の患者さんの容体が急変したとき、動転して救急車を呼んでしまうこともそうですね。患者さんは救命救急医療で心臓マッサージを施され、人工呼吸器をかけられちゃう。ご本人の意識が戻ったときは、人工呼吸器を外さないよう、手にミトンをはめられてる。人工呼吸器を外して死ぬこともできなければ、心臓マッサージで骨折した箇所が痛くても痛いと言えず、背中がかゆくてもかゆいと言えない。ただ涙を流すだけ。そうやって生きてる人の、どれほど多いことか。


垣添:私も救急車は呼ばないと決めていますし、心臓マッサージや人工呼吸器などの延命治療も要らないと意思表示しています。



小笠原:例えば不整脈なら救命救急医療が必要ですけれど、がんの末期とか亡くなる寸前みたいな人に、高度な救命医療を施すのは絶対にやりすぎです。死は敗北じゃありません。家で清らかに看取ってあげることを、家族みんなが知ることが必要ですよ。


垣添:おっしゃるとおりです。今のご指摘は、とても大事だと思います。私は今、月に1回、日本対がん協会のがん相談室で、一家族30分で4組、合計2時間の相談ボランティアをやってるんですよ。がんと言われた患者さんは相当悪い状況でも、まだ何か治療法はないかって相談にみえる。だからご本人がみえてるときは、私は聞くんです。「一体あなたはいくつまで生きるおつもりですか?」と。


小笠原:それはまたストレートな。


垣添:そう。でも人はいつか死ぬんです。そこを見つめないと。だから私は「私があなたのような状況にあったら、もう治療は求めないで、静かに亡くなる算段をします。私だったらそうします」と言うんです。


 そうすると暗い感じでみえた人が30分話しているうちに顔つきも穏やかになり、「わかりました。じゃあ、家の近くのMSW(医療ソーシャルワーカー)と相談して、ちゃんと緩和ケアをやってる病院を紹介してもらうか、あるいは、代わりの在宅医療の先生を紹介してもらいますわ」と言って、重い荷物をおろした感じで帰って行かれるのね。


小笠原:いいことですねえ。先生の経歴やご年齢に加え、先生は最愛の奥様を在宅で看取られたという経験もお持ちだから、アドバイスを受ける側にも先生の言葉がしみるんじゃないですか。病院のドクターでは、恐らくそれが伝わらない。


垣添:そうですよ。年長の患者さんが、人生経験もまだあまり豊かでない若いお医者さんに「あとはもう、これとこれしかありません。来週までに決めてきてください」なんていうことを言われて、そんなことを決められるはずがないんですよ。


 迷って相談にみえているんだから、選択肢だけ提示して、あとは自分で選んでくださいという形で放り出すんじゃ決着がつかない。だから「私だったらこうします」と、ちょっと背中を押してあげる。


小笠原:その一言が、人の心を変えるんでしょうね。


垣添:そうかもしれませんね。


※女性セブン2019年1月31日号

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