改正入管法よりはるかに未来の希望となる策、ヒントは島根県

1月19日(土)7時0分 NEWSポストセブン

人手不足は移民では解決できない

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 4月から施行される改正入管法(出入国管理及び難民認定法)により、農業や介護などの14業種で外国人労働者の受け入れが始まる。政府は5年間で最大約35万人を受け入れるというが、これにより、人手不足は解消されるのか。答えは、ノーだ。日本総研主席研究員の藻谷浩介氏が解説する。


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 初めに結論から言えば、改正入管法による外国人労働者の受け入れ拡大は天下の愚策であり、人手不足解消の切り札どころか、その糸口にすらならない。「数字」を見れば、その事実は明らかである。


 賛成派も反対派も単純な事実すら確認せずに議論をしていて腹立たしいが、2012年末から2018年6月末の5年半で、日本に住む外国人は60万人以上も増えている。それでも人手不足は一向に改善されていないのに、この先35万人を増やしても効果がないのは自明だ。


 しかも近い将来、日本人の働き手はさらに激減する。


 2015年国勢調査結果による男女別・年齢階層別就業率と、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口中位推計(いずれの数字も在留外国人数を含む)をもとに、近未来を予測してみよう。


 仮に就業率が2015年の水準のままであれば、就業者数は2015〜2020年に120万人減少し、2020〜2025年にさらに203万人減る。2025年までに計323万人も働き手が不足するのだ。



 これを補うのに、35万人程度の外国人では到底足りないばかりか、負の影響のほうが大きく広がる。企業は安価な労働力さえ手に入ればいいのかもしれないが、就労先の地域では、外国人の住居確保、医療や福祉・年金面の対応など、公共部門のコストが積み上がる。


 実際、ここ数年で低賃金の外国人労働者が急増した地方自治体は、日本語を話さない子供の教育や、病院での意思疎通など、山積する問題への対処に疲弊している。


 改正入管法は、建設、介護、農業、外食、ビルクリーニングなど14業種で外国人に門戸を開く。だがそれは、14業種を「日本人が働きたがらない仕事」と認めて、外国人を低賃金で働かせることを意味する。


 今、日本を訪れる外国人が増えている一因は、日本人がそのような現場で働く人に対する敬意を持つからだと私は思う。しかし、改正入管法の影響で「低賃金の単純労働は外国人の仕事」という認識が日本に定着すれば、職業に貴賤なしという日本人の美徳が損なわれはしないか。外国人であるだけで、「能力がないから仕方ない」などと不当に評価する恐れすらある。


 そうなれば、日本は先人が築いた魅力を失い、国力が削がれて、やがては国そのものが滅びるだろう。


 日本になくてはならない建設、介護、農業といった現場の仕事こそ賃上げして、日本人が率先して担うべきである。「現実に人の役に立つ仕事」を尊ぶ社会を壊してはならない。



 人手不足解消のヒントは地方にある。例えば、共働き家庭の子育て支援が充実した島根県は、25歳〜39歳の女性の就業率が47都道府県で1位、合計特殊出生率は2位だ。仮に日本全国で、学校を卒業した25歳以上の女性の就業率が島根県と同じ水準になれば、日本の就業者数は2020年時点でも、2015年の実数より371万人も増える。先に挙げた「2025年までに323万人の人手不足」を補えるうえ、出生率の向上も望めるのだ。


 膨大な社会的コストと、日本社会の美徳を失うリスクと引き換えに低賃金の外国人労働者を増やすより、若い女性の就労と子育てを支援するほうが、はるかに日本の未来の希望になる。


【PROFILE】もたに・こうすけ/1964年、山口県生まれ。現職・日本総研主席研究員のほか、非常勤で日本政策投資銀行地域企画部特任顧問、NPO法人地域経営支援ネットワーク理事長を務める。『世界まちかど地政学』『完本 しなやかな日本列島のつくりかた』『デフレの正体』『里山資本主義』など著書多数。


◆取材・構成/池田道大(フリーライター)


※SAPIO2019年1・2月号

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