『DEEN』に宿るDEENらしさとタレント集団、ビーイングの威信

1月20日(水)18時0分 OKMusic

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1月20日、DEENがジャパニーズ・シティポップをカバーしたアルバム『POP IN CITY 〜for covers only〜』をリリースした。⼤滝詠⼀やシュガーベイブ、ユーミンといった日本ポップス界のレジェンドたちをはじめ、最近では海外でも高い評価を受ける松原みきや、杏⾥、1986 オメガトライブなどの名曲をカバー。彼らのポップス愛が感じられる作品集に仕上がっている。当コラムでは今回そんなDEENのデビュー作をピックアップしてみたのだが、このアルバム『DEEN』には当時のトレンドを詰め込みつつも、現在の彼らにも通じる音楽性を内包していることを確認できた。

ビーイング全盛期、期待の新人

このアルバム『DEEN』と、本作にも収録されている彼らのデビューシングル「このまま君だけを奪い去りたい」はともにミリオンセールスを記録した。1stアルバムと1stシングルがいずれもミリオンとなるのは史上初の出来事であった。このダブルミリオンはその後も数組しか達成していないというから大記録も大記録だろう。ただ、だからと言ってDEENがそれだけ傑出したアーティストであったかというと、素直にそうだとは言い切れないことは否定できない。いや、アルバム『DEEN』もシングル「このまま君だけを〜」もよくできた作品であることは疑うまでもないし、本稿ではそこを解説していくわけだが、デビュー当時のDEENが歌い、演奏したことがダブルミリオンに寄与したのかというと、そこは微妙だということだ。個人的には…と前置きするが、少なくとも筆者はそう思う。作品解説から若干離れるが、まずはその点を整理しておこう。

そもそもDEENは「このまま君だけを〜」の前からバンドだったわけではない。この辺はファンであればよく知るエピソードだと思うが、念のため、事の経緯を以下に記す。[1993年、ビーイング内ではWANDSの上杉昇が作詞、織田哲郎が作曲し、DoCoMoポケットベルのCMとのタイアップも決定していた「このまま君だけを〜」を歌うヴォーカリストを探していた。そこで、ソロデビューを目指し北海道から上京していた池森秀一に試しに歌わせてみたところ評価を受け、ヴォーカリストに決定。急遽キーボード山根公路を加え、バンドを結成。バンド名「DEEN」は響きの良さから決定された]。さらには、[完全にプロデューサー主導で結成されたバンドなので、顔を合わせるまでお互いの素性も経歴も一切知らなかった。どういった音楽志向・人間性の持ち主なのかも分からないまま活動を続け、それとは裏腹に大ヒットを続ける自分達の状況に戸惑いを感じていたという]([]はWikipediaから引用)。バンド外の人物が作詞作曲を手がけることはいくらでもあるし、それがバンドらしくないとは言わない。タイアップによって曲が先に決まっていることもあるだろうし、その楽曲に合わせてシンガーを決めることもあるだろう。だが、そこで一からバンドを結成するというのは、まったくないことだとは言わないが、今も昔も頻繁に起こることではないと思う。稀なケースだと言っていい。

ただ、当時、彼らが所属していたビーイングの勢いからすると、それも分からなくもないというか、“さもありなん…なことだったのだろうな”と妙に納得してしまう。ビーイングとはレコード会社(レーベル)とマネジメント会社を兼ねた企業のこと。ここでそれがどういう組織で…と語り出すと完全にDEENの話を逸脱してしまうので、詳しく知りたい方がいたら各自ググっていただきたいのが、1990年代前半、それほどにビーイング勢が音楽シーンを席巻していた。1991年にZARD、川島だりあ、T-BOLAN、WANDSが、1992年には大黒摩季がデビュー。DEENのデビュー前年である1992年だけに話を絞っても、すでに大ブレイクを果たしていたTUBE、B'zは素より、大黒摩季「DA・KA・RA」、T-BOLAN「Bye For Now」がミリオンセールスを記録した。制作サイドは(というか営業サイドか?)超アグレッシブであったことは想像するに難くない。さらに新人を投下しようとしたのも当然の成り行きだったであろう。池森秀一のソロではなく、DEENというバンドスタイルでデビューさせようとしたことも、ZARD、T-BOLAN、WANDSとバンド、ユニットでのヒットが確変ばりに続いたのだから、それらに続けとばかりに企図したものだと理解もできる。DEENと同じ年にはBAAD、REV、ZYYGがデビューしているが、1999年に倉木麻衣、2000年には愛内里菜がデビューしているのだから、バンド、ユニットが当時のトレンドだったのだ。

稀代の作曲家、織田哲郎が注力

さて、ここからはアルバム『DEEN』の中身について。前述した当時のビーイングのイケイケっぷりは本作からも十二分に伝わってくる。まず、作家陣。全11曲中5曲の作曲を織田哲郎が手がけている。デビュー曲であるM7「このまま君だけを〜」がいきなりミリオンとなったのだから、シングルナンバーであるM1「瞳そらさないで」(5thシングル)とM6「Memories」(3rdシングル)は引き続きメインコンポーザーとして織田氏を登用しているのは当然としても、M5「思いきり笑って」やM8「広い世界で君と出会った」でも曲を提供しているのは注目ポイントだろう。1990年のB.B.クィーンズ「おどるポンポコリン」をはじめ、自身の「いつまでも変わらぬ愛を」(1992年)、中山美穂&WANDS「世界中の誰よりきっと」(1992年)、ZARD「負けないで」(1993年)といったミリオンヒットを世に送り出した名作曲家の多作ぶりがうかがえるとともに、織田メロディーと池森の歌声との相性の良さも感じさせるところだ。実際、ZARDや、その後に織田氏がプロデュースすることになる相川七瀬ほどではないにせよ、DEENのナンバーは織田哲郎作曲のものが多く、氏もマネジメント側もそれだけこのバンドを気に入っていたと見ることもできる。

織田哲郎の作るメロディーの優れた点は改めて語るまでもなかろうが、こうして『DEEN』収録の織田ナンバーを聴いてみると、とても分かりやすく、いい意味で複雑ではないメロディーであって、そこが支持されたのだと思う。今となってはその礎となったのではないかと思われる典型的なJ-POP。アレンジ以前に主旋律が軽快でさわやかさを湛えている上、A、B、サビがはっきりしているのでドラマチックである。M1「瞳そらさないで」などはサビ前で“さあ、ここからサビですよ!”とB終わりで軽くブレイクが入り(もしかするとアレンジの妙味がそこにあるのかもしれないが)、そこが不思議に心地良い。

《いつも この時間は家に居たのに…/最近君は 留守がちだね/やっと出た電話の声も/以前までと違う 感じが変わったよ》《瞳そらさないで 青い夏のトキメキの中で/summer breeze 心くすぐるよ/ひとり占めしたくて 抱き寄せた あつい午後》《“約束だから海に来た”って感じが/一緒に居るのに淋しいよ look in my eyes》《話そらさないで 青い夏のトキメキの中で/summer days 想い出にしないで/あの頃の 君が今も 胸の中で微笑ってる》(M1「瞳そらさないで」)。

その内容はロストラブソング的であって、A、Bだけならこの歌詞の主人公は完敗と想像できるような展開だ。しかしながら、あまり悲惨な感じはしない。しかも、サビではその切なさが継続しないばかりか、思いの外、前向きに転化していくように思える(少なくとも筆者にはそう思える)。そこがすごいと思う。《瞳そらさないで》も《話そらさないで》も、仮にマイナーなメロディーに乗ったりすると哀願としか受け取れない印象となろうし、旋律によっては喧嘩腰に思えるものになりそうな気もする。M1「瞳そらさないで」の作詞はZARDの坂井泉水で、そのタッチは切なく、まさに“揺れる想い”を表現したものではあろうが、それをどっぷりとは感じさせないのは織田メロディーのすごさではないかと思う。強靭なメロディーと言い換えてもいいかもしれない。

その織田哲郎、ZARDの坂井泉水、WANDSの上杉昇の他、M2「FOR MY LIFE」では池田大介が、M4「いつかきっと…」と、4thシングルでもあったM11「永遠をあずけてくれ」ではZYYGにも籍を置いた栗林誠一郎が作曲を担当。M5「思いきり笑って」とM11「永遠を〜」とで川島だりあが作詞を手がけている。タレント集団であったビーイングの威信を示すような布陣が敷かれているのは、そのままDEENへの期待の高さの表れであったのだろうか。

もうひとつの注目ポイントはバックを支える参加ミュージシャン。作家としても携わっている栗林、川島がコーラスでも加わっている他、大黒摩季もコーラス参加している。M6「Memories」とM9「FOREVER」でそれを聴くことができる。「Memories」は3rdシングルで「FOREVER」はそのカップリングだから厳密に言えばアルバム『DEEN』に参加したというよりも3rdシングルの制作に携わったという言い方が正しいのだろうが、両曲とも大黒姐さんのコーラスワークが素晴らしく、こうしてともにアルバムに収録したのは大正解だろう。パッと聴きにもはっきりと大黒摩季だと分かる唯一無二な歌声は楽曲をより個性的なものにしているのは間違いない。

また、フュージョンバンド、DIMENSIONの参加も聴き逃せない。とりわけ印象的なサックスを鳴らす勝田かず樹がいい仕事をしている。件のM6「Memories」の他、M2「FOR MY LIFE」やM10「恋が突然よみがえる」で聴こえるのがそれ。エモーショナルな響きは、ある意味で歌詞やヴォーカリゼーション以上に楽曲の世界観を剥き出しにして来るような印象がある。こういうコラボレーションを可能にしたのも当時のビーイングならではのことであって、米国モータウンよろしく、『DEEN』はビーイングが極めて優れた音楽制作集団であったことがよく分かる作品として見ることもできよう。

シティポップ、アーバンポップの萌芽

と、ここで終わってもいいような気もしてくるが、DEENがお仕着せ、無個性のバンドであると思われるとものすごく困るので、最後に決してそうではないことを強調して本稿を締め括りたい。織田作品とシングル曲を除いたナンバー──DEENのメンバーである池森、山根が手掛けた楽曲は、当然ながらDEENらしいナンバーである。具体的に言えば、M2「FOR MY LIFE」、M3「Keep on Dancin'」、M9「FOREVER」、M10「恋が突然よみがえる」がそれで、栗林誠一郎が作曲したM4「いつかきっと…」もそこに加えてもいいだろうか。大雑把にジャンル分けするのもどうかと思うが(そう思っても分けるが)、いずれもR&B〜ソウル、ファンクの匂いがする。とはいえ、アフリカンアメリカンが演奏するそれではなく、日本で言えば久保田利伸やトータス松本のようなモロにブラックミュージックを感じさせるものでもない。R&B〜ソウル、ファンクをポップスに上手く融合させた印象で、シティポップとかアーバンポップとか言われるジャンルに分けられるものであろう。私見を挟ませてもらえば、ブラックすぎず、歌謡曲すぎず、大人のポップスと言えるとは思うがアダルトに寄りすぎず、ダンサブルなM3「Keep on Dancin'」やM9「FOREVER」にしてもバタ臭いない…と言ったらいいだろうか。全体的にとてもいい塩梅なのである。


《三人でよく来た映画館/いつからか苦しかった/少しずつ君の瞳に心奪われてた》《君が誰を見つめているのか/気付かないはずもなく/いっその事 なければよかったとさえ思う友情》《いつかきっと…/夢の終り見届けたい 叶うならば/だけど今は やり場のないこのせつなさ/何に叫ぼう》(M4「いつかきっと…」)。
《髪を切り大人びた君は 3年前とちがう/淋しさの分だけを 強がったおさない恋》《君に手を振る交差点の向こうの/あの人は Boy Friend?/運命的な出会い信じた僕/光るリング見つけ消えた DAY DREAM》(M10「恋が突然よみがえる」)。

これもまた私見で…と前置きするが、池森が書く等身大というか日常的というか──言葉を選ばずに言うと、情けなさ全開の歌詞もメロディーとの相性がいいように感じる。若干、享楽さがあるサウンドの方が情けなさと切なさが際立つように思うのだ。

このように、アルバム『DEEN』は織田哲郎提供楽曲とDEEN自身が手がけたナンバーを“ビーイング・オールスターズ”とも言うべきアーティストが支えているという作品であるわけだが──タレント集団、ビーイングを指してそう言うのも憚られる話ではあるが──とりわけ、その先見の明を素晴らしく思うのは、アルバムの半数をDEEN自身の楽曲としたところではあろう。現在の彼らの音楽性はまさにその延長線上にあるタイプである。この度、DEENはジャパニーズ・シティポップ・カバーアルバム『POP IN CITY 〜for covers only〜』をリリースしたのは、アルバム『DEEN』から彼らが自らの音楽性を研ぎ澄ませ続けてきた結果なのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『DEEN』

1994年発表作品

<収録曲>
1.瞳そらさないで
2.FOR MY LIFE
3.Keep on Dancin'
4.いつかきっと…
5.思いきり笑って
6.Memories
7.このまま君だけを奪い去りたい
8.広い世界で君と出会った
9.FOREVER
10.恋が突然よみがえる
11.永遠をあずけてくれ

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