ポリゴン・ピクチュアズにおける造形監督とは? 片塰満則が語る『亜人』の造形プラン

1月20日(水)21時0分 おたぽる

(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会

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 講談社「good!アフタヌーン」で連載中のマンガ『亜人』。アニメ化により1月15日からTVシリーズの放送が始まった。劇場3部作との同時展開でも話題の本作。11月27日に封切られた第1部『亜人 -衝動-』は2週間限定ロードショーだったが、そのうち全国10館では12月17日まで公開が延長されるロングランとなるなど、好感触を見せた。

 その劇場第1部『亜人 -衝動-』の公開直前である11月22日、文京学院大学本郷キャンパスで開催の「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス」にて、本作の造形監督・片塰満則が「劇場アニメ『亜人』における造型演出」と題してセッションを行った。本稿ではその模様をお送りしよう。


■アニメにおけるCG表現とは? スタジオジブリで得た知見
 片塰が現在所属するのは本作を制作するポリゴン・ピクチュアズであるが、CG歴は30年になる。転機となったのは20年前、1995年にスタジオジブリに入社したことだった。1997年公開の映画『もののけ姫』の制作において、「セルシェーディングを用いたタタリ神は、当初40カット以上予定されていましたが、作業の遅れから結果5カットのみで、その他のCG処理をあわせると、CG部が制作に関わったのは最終的には50カット程」と片塰は述懐。登場キャラクターではタタリ神(触手)やダイダラボッチ(星粒)で使用したことが知られている。このほか「手描きの背景を擬似的に歪めて奥行きをつけるカメラマップなどですね。そうしたカメラが絵の奥に入っていく縦移動は、アニメーションが非常に苦手としていた表現です。それで縦移動のシーンでCGを使うようになりました」と話す。

 99年公開の『ホーホケキョ となりの山田くん』では、完全にデジタル彩色を採用。高畑勲監督から請けた「せっかくデジタルで色を塗るのであれば、セル画風の絵ではなくて水彩画的な映像を作れないか」との依頼にスタジオ全体が応じた。それに合わせてCGも水彩画的なシェーディングや立体感で表現する開発に取り組むことに。「例えばクラゲ、マンボウ、そして水面ですね。波の質感もCGで作ったものなんですけども、最終的には背景の松林などが描かれた水彩画の背景と合わせて違和感がないように処理を施して完成させました」。またダイダラボッチの星粒を表現したパーティクル技法も最後の花火のシーンで使用した。「この花火もたくさんの画像処理をして、水彩画的になるように作り直しています。また作画のキャラクターもCGで作ったものをアニマティクスとして、それをトレースして動きをつけました」と、キャラクターの動きにも言及した。

『となりの山田くん』の波の表現を宮崎駿監督が気に入ってくれたことから、2001年公開の『千と千尋の神隠し』で応用。「嵐のような表現ではなくて、静かで凪いだ透明感のある表現をしてほしいとのことで、島や家の回り込みだけでなく水面への映りこみもCGで処理しています」。先の『もののけ姫』から続く縦移動の例としては、「遠くにある電灯のライトの反射をCGで描き、それを手描きの背景と混ぜて、より観客が没入しやすい視点移動を試しています」とのこと。スピード感を表すモーションブラーも「マンガで見られる流線をたくさん描いて、セルアニメ的な表現を開発しました」という。

「このようにジブリのデジタル処理は目立たなくて地味で、あからさまには分からないんですけども、それを担当したんです。この20年くらい、アニメにおけるCG表現を考え続けてきたわけです」(片塰)


■造形監督はアートディレクター デザイナーの意図を解釈してモデラーに伝える
 ポリゴン・ピクチュアズの設立年次は1983年。「誰もやっていないことを圧倒的なクオリティーで世界に向けて発信していく」をミッションとし、略称はポリゴンまたはPPI(「ポリピクはNGでお願いします」)とのこと。片塰が入社した2010年は『トランスフォーマー プライム』『トロン:ライジング』『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』と、海外のテレビシリーズ制作が同時進行していた。

 社内の環境については「スタッフが300人以上いますので、スタジオというよりはファクトリー(工場)に近いイメージがあります。流れ作業のように映像の部品が常にやり取りされていて、『パイプライン(やり取りするための仕組み)』用の管理ツールを開発しながら日々の作業を進めている感じです」と語る。作業工程も「作品によって変化するんですけども、設計にあたる部門と施工にあたる部門を『シドニアの騎士』以降、社内で同時に行えるようにしています。デザイン画があがったらモデリング、そして骨(ボーン)を入れまして、骨が入ったところでレイアウトに進み、それでOKが出ればアニメーションをつけていきます」といった流れだ。

 背景については「日本の作品スタイルとして見慣れたものにしようとしています」との意識があるという。『トランスフォーマー プライム』『トロン:ライジング』『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』ではCGの要素が多めの一方、『シドニアの騎士』『山賊の娘ローニャ』『亜人』ではそこまでCGは多くなく手描きにしている。それから「見た目の開発」を意味する「ルックデヴ(ルックデベロップメント)」にて「どんな質感にするかハイライトや影を設定してからライティング」し、最終的に「レンダリングした絵を合成して編集して納品」となる。

 そして呼称がまだ普及していない造形監督という仕事内容について「海外の実写の世界でいうアートディレクターで、背景の大道具から、プロップと呼ばれる小道具、場合によっては役者さんのメイク、どんな照明を当ててどんな風に撮るかという絵作りをすること」と解説。「モデルの造形から質感、設定まで見てますが、今後はどんな照明を当てるか、どんなコンポジットをするかまで考えていきたい」と希望した。

 事情として「デザイナーによって絵の描き方が違うんですね。海外のメイキング本を見ると非常に統一された写実的なデザインがされてますが、それだと開発コストもかかるんです」とのこと。社内においても「色んな描き手がいてバランスがいいんですが、デザイナーによって描き方にクセがある」ために必要とされている。

「要するにデザインを生み出す仕事ではないんですね。デザイナーが描いた絵をモデリングするモデラーではなく、デザイナーとモデラーの間に入って、デザイナーが意図するところを解釈してモデラーに伝えます」(片塰)


■効率よく大量のキャラクターを制作するために 「平均顔」や「チキンナゲット」も
 キャラクターをCGで制作する最大の利点は、手描きと比べると、予め長期にわたるシリーズ化も視野に入れ易いところにある。初回に制作した各データは「アセット」として、後々のシリーズに細かな仕様の変更とともに引き継がれていく(「アセット」は「資産」の意)。

 片塰は『シドニアの騎士』を『トロン:ライジング』と比較しながら「ディズニーが制作したデザイン画と比べるとグラデーションのない、よりアニメ的な絵になってます。線画で描かれてるんですけども、この線が形を伝えるものなのか、本当に線が欲しいのか、モデリングする必要があるのか、テクスチャーでいいのか、非常に判断に迷う絵なんですね。こういうのをモデラーに解釈して伝えていきます」と、実例に触れていった。

 モデラーにとってはとても重要な断面の形が、デザイン画には描かれていないことが多い。また、立体物を様々な方向から矛盾のないデザイン画に起こすことも難しい。特に人体は曲面の集合体なので、三面図を起こしても、あまり意味を持たない。「優れたモデラーは情報の少ないデザイン画からでも形を起こすことは出来ますが、それでもモデラーによって立体の解釈にバラつきがでてしまうんです」。その統一感を見極める作業が造形監督の真骨頂と言えるだろう。

 そして『亜人』の話に。「『シドニア』の2期が終わる途中くらいから着手し始めました。『亜人』は非常にたくさんの登場人物が出てくる作品で、早めに準備をしていかないと映画のスケジュールに間に合わないのが分かってましたから、そうせざるを得なかったのですが、結果、『シドニア』で得た成果を反映することができました」。課題として「カッコいいモデルや説得力のあるモデルを考えるだけでなく経済性を考えなくてはならない」こと、「できるだけ効率よく大量のキャラクターを作らなければいけない」ことが新たに立ち現れた。

 ポリゴン・ピクチュアズでは『トロン:ライジング』から64(ロクヨン)モデリングを採用している。「顔の向きが6対4の斜めの向きって意味ですね。もっと正面になると73(ヒチサン)、とか82(ハチニ)っていう言い方になります。64だと45度よりもやや正面向きくらいになるんですけど、このアングルは正面と側面の両方を含んでいるんです」。デザイン画では正面の向きや側面の向きからモデルを起こしていくところ、斜めの顔を重要視したモデリングだ。「Mayaのイメージプレーンを使用してロトスコープしていきます。実際の立体物に絵を投射してみて、それを元に矛盾がないように形を作っていく手法です」。

 このほか『山賊の娘ローニャ』の際に開発したという球体シェーダーの紹介も。「セル調のCGをやってると誰もが頭を悩ませるのが、影が突然現れる『色パカ』の現象です。球体シェーダーを設定すると、それだけで『色パカ』が軽減されて見えるんです」。利点として、モデルの側で角を丸くしたりエッジを増やしたりする必要がないことを挙げた。

 モブキャラについても日本顔学会の「平均顔」をヒントにした。「新たにモデリングにしないで既存のモデルをブレンドして中間のキャラクターを作れば、個性が薄まったモブキャラとして使えるんじゃないかということです」。さらにモブに要求される個性の無さを表現、目を小さくした。また、モブは最低でも4種類の顔や服装が必要だと説明。4種類の理由としては、4色あれば隣り合った色と同じにならずに世界地図を塗り分けられるという統計や、マクドナルドの「チキンナゲット」の型が4種類であることを援用している。

 『亜人』のTVシリーズは1月15日25時55分よりMBSのほかTBS、BS-TBSにて順次放送。映画も第2部『亜人 -衝突-』の公開が5月に予定されているので、あわせて楽しみにしておきたい。
(取材・文/真狩祐志)

■CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス
http://cgworld.jp/special/cgwcc2015/
『亜人』

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