ミニシアターで連日満員の映画『ヤクザと憲法』がすごすぎる

1月20日(水)11時0分 NEWSポストセブン

居並ぶヤクザも入れ墨もすべてホンモノ

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 事務所の玄関を開け、カメラが中に入り、暴力団員たちの顔をモザイクなしで映し出す。地方局が作った異色のドキュメンタリー映画が話題を呼んでいる。本誌で山口組分裂騒動を報じるフリーライターの鈴木智彦氏は、「現状、これ以上の映像ドキュメントは不可能というレベルの作品」と絶賛する。いったい何がそんなにすごいのか。鈴木氏がレポートする。


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『ヤクザと憲法』というドキュメンタリー映画が、全国のミニシアターで連日満員になっている。タイトルは、憲法14条が定める「法の下の平等」に、ヤクザは含まれるのかという問題を指す。


 制作は東海テレビで、まずは昨年3月、東海3県でテレビ放送された。評判は全国に伝わり、日本民間放送連盟賞の優秀賞を受賞。映画化されることになった。


 映画版の大ヒットには、山口組の分裂という予想外の宣伝効果があったろう。しかし実際かなりの力作なのだ。とにかく膨大な時間を掛けている。取材スタッフは実に100日間も指定暴力団・二代目東組(大阪市西成区)の二代目清勇会に密着し、40分テープ500本を撮影したという。


 朝、事務所の責任者がやってくる午前10時に毎日の取材が始まる。時に幹部会や総長の葬儀が挟まるが、主にカメラが追いかけるのはヤクザの日常生活だ。


 スタッフの質問は極めてストレートである。組員が持ち込んだテントを見つけて、「これ機関銃ですか?」「拳銃がないといざという時どうするんですか?」と畳みかけるシーンは、ヤクザも苦笑しながら「テレビの見過ぎ」と答えるほかなく、劇場でもかなりの笑いに包まれていた。東海テレビの土方宏史(「土」の字は正式には「土」の中に「、」)監督は言う。


「最初は舎弟ってなんだとか、それさえ分からなかった。(ヤクザに)聞くと『お前らどんだけ知らないんだ。勉強してこい』と怒られるけど、うちは勉強せずに行く、考えながら走るというのが伝統。だから取材が始まって以降、ネットや書籍、『仁義なき戦い』などで勉強していました」


 取材は事務所当番が帰宅する午後5時頃に終わるが、時には食事に同行し、組員の自宅を訪問し、シノギの場面にも立ち会う。なにやら“覚せい剤のようなもの”を売買している様子や、“野球賭博のようなこと”をしているシーンさえある。


「上映したことで取材対象者が逮捕されるのは本意ではないので、法律相談は何度もしています。映っているものが野球賭博と仮定して、この映像で立件できるかということについて弁護士から『賭博開帳図利の犯罪については、賭けるほうと胴元が両方とも証拠がないとダメです。このシーンで犯罪を立件することは不可能』と返事をもらっています」(阿武野勝彦プロデューサー)


 車の事故を起こし、保険を使って修理した組員は、詐欺未遂事件と判断され、警察に捕まった。その件でガサ入れ(家宅捜索)に来た大阪府警のマル暴は、マスコミ取材にまったく気づかず、ヤクザと見紛う暴力的なカマシをカメラに晒す。


「謝礼金は支払わない。収録テープ等を事前に見せない。顔へのモザイクは原則かけない」という約束で取材をしているため、日常のシーンも濃厚である。川口和秀会長がふらりと出掛ける一膳飯屋のおばちゃんは、「ヤクザが怖くないんですか?」と聞かれ、「なんで?」と逆質問してカラカラと笑う。


 ヤクザの立ち位置を考えると、おそらくDVD化は難しいだろう。劇場に足を運ぶ価値は十分にある。


※週刊ポスト2016年1月29日号

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