『下剋上受験』原作者 親が勉強できないことの利点明かす

1月20日(金)7時0分 NEWSポストセブン

『下剋上受験』の原作者男性が苦闘体験を告白(公式HPより)

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「親の年収が高いほど、子供の学力が高い」。歴とした文部科学省の調査結果である。小学校の全国学力検査と保護者へのアンケートを分析すると、顕著な傾向として表れるのだという。いまだ学歴ブランド信仰の根強い日本で、親は代々中卒、自分も中卒という1人の父親が、世の常識を覆す闘いに挑んだ。話題沸騰のドラマ『下剋上受験』のモデル男性が女性セブンに語った、1年半の涙と覚悟の記録。


「人生は途中からじゃ変えられねえってことだよ! 絶対無理なんだよ!」と阿部サダヲ(46才)が叫ぶ。妻の深田恭子(34才)はあっけにとられ、小5の長女はじっと父親を見つめている。


 両親は中卒、自分も妻も中卒、娘の偏差値は41。それでも、一念発起して娘と共に最難関私立中学を目指す──。


 1月13日スタートのテレビドラマ『下剋上受験』(TBS系)が話題を呼んでいる。想定外のストーリーもさることながら、学歴の壁に立ち向かう父娘の絆がしっかりと描かれているからだ。


「お前が安い給料の旦那と毎日けんかして、スーパーでどうやって節約しようかと悩んで買い物する姿が目に浮かぶんだよ。今のお母さんと一緒だよ。お母さんは“それでも幸せだ”って言ってくれるけど、おれはそんなの嫌だ!」

「元気が第一、乾布摩擦しときゃ風邪は引かねえ。その程度のことしか教えられない親じゃダメなんだ!」


 阿部の咆哮が視聴者の胸を掴み、初回平均視聴率は10.9%。この1年間の同枠ドラマ(金曜22時枠)で1位の好発進となった。


「娘と一緒に見ていたんですが、“セットがうちの家そっくりだ”って笑っていました。自分の人生がドラマになるなんて、今でも信じられません」


 そう語る男性は、『下剋上受験』の原作者、桜井信一さん(48才)。同ドラマは実話であり、2014年7月に桜井さんが出版した同名のノンフィクション(産経新聞出版)が基となっている。


 書籍の発売から2年あまり。世のフィーバーに驚きつつも、自身の半生とお受験戦争について思いの丈を語った。


「自分は高校を1年で中退しておりまして、ひと言で言えば中卒です。それはもう学歴で苦労しました。求人誌を見て申し込めるものは全部申し込みましたが、履歴書の時点で全て落とされる。工事現場とか不安定な職を渡り歩くほかなく、給料は雀の涙。昇進もなければ名誉もない。娘が自分のような人生を送ることになったらどうしようと、そんな不安ばかり抱えていました」



 確かに現代の日本社会では万人に平等とはいえず、大きな学歴の壁が存在する。厚労省の統計「学歴別に見た賃金」(2015年度)によれば、大卒者の平均年収は402万円。短大・高専卒308万円、高卒288万円と下がっていく。中卒者は統計もない。


◆娘の表情が証明していた


 漠然とした不安が現実になるきっかけは、娘が小学5年生に上がった2011年の6月。大手お受験塾の主催する「無料テスト」のチラシが届いたことだった。


「娘は授業中にもよく発言し、宿題もこなす真面目な子でした。どこかでかすかな期待があったんです」(桜井さん)


 結果は、淡い期待を粉々に打ち砕くものだった。受験者2万6393人中2万位以下。国数社理の4科目の偏差値は、ドラマの通り41。見るも無惨な成績に、桜井さんは頭が白くなった。


「あ、このままだとおれと同じ人生を歩むな、と。直感で思ったんです。慌てて進学塾に入れようと、入塾テストを受けさせました」(桜井さん)


 だが、有名塾は軒並み不合格。入ることさえ許されなかった。入塾を許可された塾もあったが、いちばん下のクラスで月謝だけ取られる光景が目に浮かび、躊躇した。


 年間数十万〜100万円ともいわれる費用がネックの上、進学塾には“特殊な事情”もあった。進学塾関係者が語る。


「有名塾になるほど両親の学歴が保護者間のヒエラルキーに繋がります。低所得者向けの団地に住んでいるとか、ステータスの低い家庭の子供が通ってくること自体に嫌悪感を示す保護者もいます。“ああいう家の子と一緒のクラスで大丈夫かしら”って」


 悩み抜いた桜井さんが選んだのは、自分が勉強し、自分で娘を教える「親塾」という道だった。文字通り、娘のドリルを一緒に解き、一緒に解説を読み、一緒に復習するという二人三脚である。


 目指すべき学校は、女子私立中学の最高峰『桜蔭学園』に決めた。偏差値は72。中高一貫校で、東大に毎年60名以上の合格者を出す屈指の難関校だ。


「志望理由は、単純に偏差値がいちばん高いからです。代々続く中卒という河川の流れをせき止め、自然に逆らい強引に“流路変更工事”をするには、生半可な目標じゃダメ。目指すなら1番だと決めていました」(桜井さん)


 2011年9月、一世一代のお受験計画が始まった。だが、「親塾」は早々に難題にぶち当たる。桜井さんが、娘の参考書の問題を全く解けないのだ。試験本番では10分で解かなければいけない算数の計算問題に25分かけたあげく、全問不正解という有様。


 ドラマの原作著書には、桜井さんの当初の学力を示すエピソードが頻出する。



《「職業に貴賎なし」と発言している人がいた。私はそんな言葉を聞いたことがない》

《「手向ける(たむける)」という漢字は読み書きができないどころか、その言葉すら知らない》


 四則計算がわからない、36行目を表す「l36」の意味がわからない、そもそも答案の解説を見ても理解できない…。


 ちなみに桜井さんの妻は、「渋滞」という漢字を「けいたい」と読んでおり、「渋滞5km」という道路上の表示は携帯電話の電波域だと思っていたと同書で明かされている。


 同僚との飲み会を全て断り、たばこをやめ、テレビも禁止して、桜井さんは死にものぐるいで小学5年生の勉強をやり直した。娘が解く前日に同じ問題を予習し、当日娘と一緒に解き、自ら解説する。平均睡眠時間3時間という地獄の日々の始まりである。


「大変な毎日で、終盤はうつ病にも悩まされて精神安定剤が手放せなかった。でも不思議なもので、やっていくうちに“勉強ができない子の頭の仕組み”がわかってくるんです。頭の良し悪しではなく、やり方が悪い。この状況で、物量的な勉強法は意味がないな、とか。理科や算数はすごろくにしたりお風呂で考えたり、歴史や地理は地名や偉人の名前をCDで覚えたり、日常に近い形で一緒に学んでいきました。自分がまっさらな状態だからこそ、娘がなぜわからないのかが理解できた。『親塾』のメリットはここにありました」(桜井さん)


 膨大な計算ドリルを反復し、漢字ドリルで語彙力を高め、過去問を徹底分析して過ごした600日。一切の反抗もせず父親についてきた娘は、試験前日、全ての単元の勉強を終えると、机の上に突っ伏した。しばらくして顔を上げ、桜井さんを見つめながらこう言ったという。


「結構、楽しかったね!」


 父娘で歩んだ受験戦争の結末はドラマと著書に譲るとして、今改めて、桜井さんは「意義深い中学受験だった」と振り返る。


「小学校の娘を深夜まで勉強させるなんて虐待だという人もいます。でも、私は全くそう思いません。娘の表情が証明しています。自分で何かを掴み、自分の力で達成した喜びを噛みしめる、あのキラキラした顔。今までどんなオモチャを買い与えても、あんな顔をしたことはなかった。


 生まれて生きるだけなら親はいらない。付加価値を付けることで自己肯定感を持たせたかったんです。ぼくは自己肯定をしたことがなく、“どうせ無理だ”とばかり思ってきた。そんなぼくの娘が、“私、やるじゃん!“と自信を持ってくれた。これこそが、親から子への教育なのだと思います」(桜井さん)


 娘は現在、超有名私立の高校1年生。数多の友人に恵まれ、「校内一の貧乏人」と自ら笑いを取りながら、一生に一度の青春を駆け抜けている。


※女性セブン2017年2月2日号

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