大阪で発生「タワマン内児童相談所」設立反対運動の顛末

1月21日(月)7時0分 NEWSポストセブン

児童相談所が対応した子供の虐待件数の推移

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 東京・南青山の一角にあった約1000坪の国有地を港区が約72憶円で購入し、約32億円をかけて「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」を建設し2021年4月の開設を目指すという一大プロジェクトであることを発表。施設には児相のほか、子育て相談などができる「子ども家庭支援センター」や、養育が困難な母子家庭が入居する「母子生活支援施設」が併設予定であることも明らかになった。


 しかし、2018年10月、施設建設のために港区が開いた説明会で、反対派の住民が区の担当者に猛然と噛みついた。さらに、2か月後に開かれた6度目の説明会でも反対派住民は、「南青山は自分でお金を稼いで住むべき土地」「児相の子供が地域の学校に通うなら、格差を感じてつらい思いをする」などと一歩も引かない。こじれるばかりの騒動は、一向に収束の兆しを見せない。


 そもそも児相とはどのような施設なのかを知っている人は、どれだけいるだろうか。元東京都児相相談員で心理司の山脇由貴子さんによると、もともとは戦争で家がなくなった戦災孤児たちを救済するためにできた機関だったという。


「基本的な役割は、0才から18才未満の子供に関する相談を受けつけること。子育てやしつけ、知的障害の有無など、子供についてのあらゆる悩みを聞いて、解決を促す相談機関です」(山脇さん・以下同)


 だが、近年になり、2つの役割が突出して増加した。「児童虐待」と「非行」への対応だ。


「全国的に児童虐待の件数が増加するなか、虐待の通告を受けて子供の安否確認や保護をすることが児相のメイン業務となっています。また非行に走った子供を受け入れて、一時的に保護する役割も重要です」


 厚労省によると、2017年度に18才未満の子供が保護者から虐待を受けたとして、児相が対応した件数は過去最多の13万3778件。27年連続で増加している。その上、虐待で命を落とす子供は後を絶たず、2016年度に虐待で亡くなった子供は77人に達する。


 昨年3月、東京都目黒区で両親から虐待を受けたわずか5才の女児が“もうおねがい ゆるして ゆるしてください”と書き残して亡くなった事件は世の中に衝撃を与えた。こうした悲劇を未然に防ぐためにも児相の強化が唱えられたが、一朝一夕に対策は進むものではない。


 2016年には児童福祉法が改正され、東京23区が独自に新たな児相を設立できるようになった。だが都内には児相が11施設しかなく、業務を担う児童福祉士は2018年4月1日時点で273人のみだ。


「そこで港区でも児相の新設に踏み切ったわけですが、一連の流れのなかで、児相の設立に地元住民から反対の声があがった衝撃は大きい。現在、児相のない中央区や千代田区でも、今後は児相を設立する動きがあるはずですが、港区と同じトラブルが繰り返される不安があります」


 類似のトラブルは大阪でも起きている。2016年、大阪市北区にあるタワーマンション内に「北部こども相談センター」(児相)を開設する計画が持ち上がった。現場は梅田からほど近くて交通の便がよく、有名芸能人も居住する高級マンションである。



 大阪市は政令指定都市のなかで虐待相談件数が最も多いにもかかわらず、市内に児相は2か所しかなかった。そこで3か所目として白羽の矢が立ったのが同マンションだった。


 大阪市児相の所長を務めた経験があり、現在はNPO法人児童虐待防止協会の理事長として活動する津崎哲郎さんが振り返る。


「それ以前にも児相設立計画がありましたが、いずれも近隣住民の反対で頓挫していました。そこで打ち出したのがマンション内に児相をつくるという“ウルトラC”だったのです」(津崎さん・以下同)


 しかしここでも地元住民は猛反発する。2016年9月に開かれた住民説明会では、“なんで、ここなんや!”“住民の安全性を考えないのか!”という住民の反対意見が相次いだ。マンション周辺には反対と書かれたのぼりが掲げられたという。住民アンケートは全360戸中、賛成17件・反対235件という惨状だった。


「反対の理由として最も多かったのが、児相に非行の子が一時保護されることで、地域の治安が不安になるというものでした。住民からは『子供が児相から逃げ出して迷惑行為をしたら、誰が責任を取るのか』『非行の子供がいることで地域のブランド力が下がり、土地やマンションの価格が下落する』との声が寄せられました」


 疑念を払しょくするため、大阪市は相談センターと居住スペースの出入り口を別にして、マンション内で双方の行き来ができないようにするなどの対応策を示した。しかし、不信感を募らせた住民は聞く耳を持たず、“タワマン児相”は断念に追い込まれた。


 同マンションに住む40代女性はこう語る。


「当時はもちろん、ウチも反対しました。保護されている子供が施設から出てきて、私たちの居住棟に入り込んだらどうするのかと思ったし、せっかく買ったマンションの価値が下がるのも嫌だった。近隣ならまだしも、住居と同じ建物にできるというのに抵抗感もありました。だから、市があきらめてくれた時は正直ホッとしました」


 評論家の呉智英さんは、「反対住民にも三分の理がある」と指摘する。


「世間一般の人は『児相があってもいいじゃないか』との意見でしょうが、当事者にしてみれば、“終の住処”として購入した場所で損害が発生する可能性があることに目をつぶるのは難しい。児相設立という公権力によって市民の権利が制限され、実害が生じるかもしれないと言及することへの批判は、可能な限り慎重であるべきです」


※女性セブン2019年1月31日号

NEWSポストセブン

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