ペルーで出会った「ペヘサポ(カエル魚)」の衝撃——高野秀行のヘンな食べもの

1月23日(火)17時0分 文春オンライン


イラスト 小幡彩貴


 世界広しと言えどもペルーのリマで出会った「ペヘサポ(カエル魚)」ほどヘンな魚はそうそういないだろう。名前もへんだが、生態はもっと珍妙。吸盤があって、磯の岩にはりついて、苔や貝を鋭い歯でこそげ落として食べるという。つまり基本的に“泳がない魚”なのだ。味はいいが、漁が特殊なため、いつも手に入るものではないという。


 私がダメ元で、魚を水揚げしている浜辺へ行ってみたら、幸運なことに、漁師がペヘサポを持ってきて、タイル地の台に置いたところだった。


「なんじゃ、こりゃ?!」と思わず、口走った。


 大きいのは体長三十センチ、小さいのは十五センチほど、鱗がなく、頭は丸くて、小さい目がついている。およそ魚の顔ではない。かといって、カエルともちがう。なんだか、太りすぎて目が小さくなり表情がわからなくなった力士を連想させる。体の色は緑か灰色で、軍服の迷彩色のよう。形や色合いを総合すると、オオサンショウウオにイメージがいちばん近いかもしれない。



水揚場のペヘサポ


 触るとぶよぶよして気持ち悪い。さらに掴んで持ち上げようとしたら、力を入れても上がらない! 吸盤でぴったりタイルに張り付いているのだ。台所の壁に取り付けてタオルやお玉をかける吸盤フックに、大きさも吸引力もそっくり。吸盤の部分に指を差し込むとパカッと簡単に外れるのも吸盤フック同様。しかし、この魚、一体どうやって自分で吸盤を岩にくっつけたり外したりするのか。誰かそばに“助手”でもいるのか?


 四匹まとめて購入すると、近くのレストランに持っていき、二匹分だけ女性シェフに料理してもらう。


 タマネギとトマトを鍋に入れ油で炒めてから、魚二匹を丸ごと放り込む。そこにコリアンダとカルド(魚の汁)と店オリジナルの調味料(トマトベースに、野菜やうま味調味料が入っている)を加えて煮込む。


 ものの十分で完成したのは「スダード」というペルーでは最も一般的な魚料理で、ブイヤベースみたいなものだ。不思議なことに、陰鬱な迷彩色だった魚は目にも鮮やかな赤紫色になっていた。ペヘサポは加熱すると色が激変するのだ。



調理するとペへサポは赤くなる



ペへサポのスダード


 食べてみると美味。くせのない白身の肉は普通に美味いが、なにより顔、尾ひれ、吸盤の部分が味わいどころ。ぷるぷるしたゼラチン質で、口の中でとろける。「コラーゲンできれいになる」とペルー女性の間でも人気だそうだ。


 本当はこの魚汁をご飯にかけて食べるそうだが、本日はダブルヘッダーなので我慢。残りの魚を持って、今度は和食レストラン「イケド」へ。ここで料理をお願いしたのだ。



 意外なことにペヘサポは店のメニューにのっていた。ただし、オーナーシェフの池戸さん曰く、「大きいのはなかなか手に入らない」。私たちの持ってきたものも「子ども」だそうだ。


 登場した料理は見事の一言。醤油ベースに味噌をさじ一杯分、ニンニクとしょうがを混ぜてから、ごま油と片栗粉を加え、しいたけやネギと一緒に二、三十分ふたをして煮込む。要は「甘くない煮付け」である。醤油のおかげで魚は赤紫色ではなく重量感のある暗褐色。



ペへサポの辛口醤油煮付け



リマ「イケド」店主、池田さんとペへサポ


 見かけも味もさっきの魚と同じとは到底思えない。こちらは日本に昔からいる魚のように思える。ただ、どちらもゼラチン質がしっかり味わえるのは同じ。池戸シェフは「鮟鱇(あんこう)に似てますね」。なるほど。


 名前はカエル魚で、見かけはサンショウウオ。キッチングッズのような吸盤がつき、自力で取り外し可。加熱すると赤くなり、味は鮟鱇でコラーゲンが女性にも人気。まさに妖怪変化の魚だった。



ペヘサポの腹部に備わる吸盤。見た目のアクはかなり強いが、肉は意外と淡白な味わい



(高野 秀行)

文春オンライン

「ペルー」をもっと詳しく

「ペルー」のニュース

BIGLOBE
トップへ