“kaigoスナック”は食べる楽しさを感じられる情報拠点

1月23日(火)16時0分 NEWSポストセブン

歯科医の亀井倫子ママ(写真右手前)、看護師のチーママ、嚥下食メーカーの人たちも助っ人としてカウンターに

写真を拡大

 高齢になるとあちこち衰え、配慮が必要な場面も多くなる。でも食べておしゃべりして笑って寝てと、日常の営みや喜びは死ぬまで変わらないのだ。訪問歯科医として高齢者や障害者の食の悩みに向き合い、“いつまでも食べることを楽しむ”ための知識と情報、アイディアを発信している亀井倫子さんに聞いた。


「歯があれば、食べられるというものでもないのです」


 開口一番、亀井さんの言葉に驚かされた。


「【1】まず食べ物を見て形状を認識し、唾液を出す。

【2】食べ物を口に入れたらくちびるを閉じ、あごを動かし歯で噛み砕き、舌やほおの筋肉を動かして唾液と混ぜ、ドロドロの塊(食塊)に。

【3】舌の複雑な動きで食塊をのどの奥に送り込む。

【4】嚥下反射が起きることで喉こう頭とう蓋がいと呼ばれる弁が気管への入口をふさぎ、食塊を食道へ。

【5】食道の筋肉の収縮で、食塊をさらに胃に送り込む。


【2】【3】の工程は咀嚼、【4】【5】は嚥下と呼ばれ、この一連の流れはあご、くちびる、舌、ほおなどの調和が保たれることによって成り立っています。若くて元気な時は、ほとんど無意識に行われますが、加齢で唾液や歯が減ったり、義歯が合わなくなったり、また、舌などの筋肉が動きにくくなったりします。どこに不具合が起きても食べづらく、あるいは食べられなくなります」


 舌の動きが悪くなると、たとえばパサパサした刻み野菜などは口中に広がってまとまらず、歯茎とほおの間にたまったりするし、のどの奥へ送り込めないため、いつまでものみ込めない(咀嚼障害)。


 また嚥下反射やのど、食道の筋肉が衰えると、食べ物が気管に入り込んでひどくむせたりするという(嚥下障害)。


「脳梗塞などの急性期や、うつや認知症に処方される向精神薬の服用でも嚥下障害が起こりやすくなります。このようにして高齢になると食べられない条件が次々に。低栄養のリスクがアップ。日常の生活動作が鈍くなって体力が落ち、認知症など要介護のリスクが高まります。


 口腔ケアは命にかかわらないと後回しにされがちですが、肺炎予防や口腔周辺筋のリハビリにもなり、食べる機能を支えるので、実は介護予防の筆頭に掲げたいケア。急に体重が減ったり、歩行速度が落ちたりしたら、食べる機能の低下を疑ってみることも大切です」


◆咀嚼や嚥下の機能低下をカバーする嚥下食


 さらにこう続ける。


「歯や咀嚼・嚥下の問題で食べづらくなってきても調理方法である程度カバーできます。


 たとえば歯茎でつぶせるくらいやわらかく煮たり、ミキサーで細かく砕いたり、口の中でまとめてのみ込みやすいようとろみをつけたり。食べ物の物性を調整するのです。


 でも忘れてはいけないのは、それぞれの人に合わせて繊細なさじ加減が必要ということ。嚥下障害があっても“ミキサー食は絶対イヤ!”という人もいます。食べることは栄養摂取だけではないからです。



 食べることで困ったら、歯科医をはじめ、嚥下状態に合わせて食材選びから調理法まで多くのアイディアを持つ訪問管理栄養士などに相談できます。ただこの分野の連携はいまだ発展途上。自分の身近に、食などの生活を重視できる医療者や介護職を求めていく姿勢も必要です。


 摂食嚥下問題に対応している医療機関、飲食店を検索できる『摂食嚥下関連医療資源マップ』もおすすめです」


◆食べる原点を思い出す「kaigoスナック」


「訪問歯科医として切実に残念なのは、歯や嚥下機能などの低下がかなり重症化してから相談される現状。早期の段階で介入すれば、もっとできることがあるのです。そのことを多くの人に知っていただきたくて、また私自身も食べることについてより具体的なアドバイスができるよう勉強したいと思い、『三鷹の嚥下と栄養を考える会』を立ち上げました」


 介護や病気予防の市民講座は最近、各地域でも盛んになってきたが、亀井さん主宰の会はユニークで画期的だ。


「食べることについてどんな課題や対策があるか、医師、栄養士、看護師、介護職の人たちが集う勉強会は多くの気づきや学びがあります。でも座学で得たものは案外その後の行動にまでは結びつかない。


 もっとリアルで体験的なことができないかと思っていたところ、仲間のひとり、とても優秀だけど下ネタ大好きの管理栄養士さんが雑談の中で、『人間、最後は食べることとエロだよね…』と。


 爆笑しながらも、食べることの原点に帰った思いで考えたのが『kaigoスナック』です。


 カウンター越しに『最近、どうなの?』とママが聞く。『実はさぁ…』と愚痴ると、ちょっと厚化粧のママやチーママ姿の医師や看護師、栄養士らがこぞって相談にのり、『こんなのあるのよ』と、嚥下食の酒肴やとろみをつけたお酒が出てくる。お客さんも私たちも楽しい。食べるって本来、こんなユル〜い日常の中にあるものでしょう?」


『kaigoスナック』は実際の飲食店を借りて、一夜だけ開店する。一昨年から昨年末までに9回行われ、いずれも大盛況だった。


「お客さんはまだ、介護や嚥下障害の当事者に相談される側の医療や介護関係者、ご家族が多数。でも当事者に物品を提供することが目的ではないのです。誰でもいつまでも食べることを楽しむための情報が、ここから徐々に浸透すればいいと思っています」


 同じ志のシェフや調理士が来店することも。料理の味や物性を工夫するスキルはプロなので、彼らの協力が得られれば、今後また新たな展開も期待できそうだ。


※女性セブン2018年2月1日号

NEWSポストセブン

「スナック」をもっと詳しく

「スナック」のニュース

BIGLOBE
トップへ