古今亭志ん輔 師匠譲りのテンポが心地よい『芝浜』の魅力

1月23日(水)7時0分 NEWSポストセブン

古今亭志ん輔の魅力を解説

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、志ん朝が亡くなってから、師匠の演目に積極的に取り組む古今亭志ん輔についてお届けする。


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 志ん朝没後、遺志を継ぐかのように師匠の演目に積極的に取り組む古今亭志ん輔を、僕は積極的に追いかけるようになった。中でも毎年4月と11月に国立演芸場で行なう「志ん輔の会」は、大ネタをじっくり聴けるので毎回楽しみにしている。昨年11月29日の「志ん輔の会」では『芝浜』がネタ出しされていた。


 今回のゲストは芸協から橘ノ双葉。三遊亭圓馬門下の女性二ツ目で、今年5月に真打昇進して三遊亭藍馬と改名することになっている。演じた『女泥棒』は2011年に三遊亭白鳥が柳亭こみちのために書き下ろした「女性演者用の」新作落語。江戸で有名な女の大泥棒の許に弟子入り志願の娘がやって来る噺だ。


 志ん輔が1席目に演じたのは『三十石』。江戸の二人連れが伏見から大阪へ三十石の夜船で下る道中を描いた噺で、元は上方落語。船宿の番頭や主人、船頭、乗り合わせた婆さん、橋の上から声を掛ける中書島の女郎屋のおちび等々、多彩なキャラを賑やかに演じ分け、良い喉で船唄を朗々と歌い上げる。淀の水車に差し掛かり月が上ったところで「三十石、夢の通い路」とサゲた。


 志ん輔の『芝浜』は、財布を拾うくだりをリアルタイムで描写しない「志ん朝の型」で、魚熊が仕事に行かなくなる経緯を冒頭で語る。酒浸りの熊がお得意に小言を言われた後、「腕がいいだけにこういう言葉が胸にこたえる」と、地で熊の心情を語ったのは説得力があった。



 女房に拝み倒されて久々に魚河岸に向かった熊が、すぐに戻ってきて浜での出来事を語る。女房は、志ん朝の「一刻」ではなく「半刻」早く熊を起こした、という設定。財布に幾ら入っているか勘定する前に熊が「浜から駆け通しだ、ハッハッハ」と高笑いするのは珍しい演出だ。


 熊は、拾った50両でいい思いをしようとは言うが「商いに行かずに遊べる」という言い方はしない。祝い酒で寝入った熊は、起きると湯に行き、帰りに大勢連れてきて豪勢に飲み食い。眠り込んだ熊が再び起きると「金を拾ったのは夢だ」と女房に言われ、素直に改心して元の腕のいい魚屋に。客がどんどん増えて、3年後の大晦日……。テンポ良く進む展開が志ん朝譲りで心地好い。


 泣き声で「夢じゃなかった」と事情を打ち明ける女房、納得して感謝する熊。志ん朝よりだいぶ感情移入が強いが、劇的になり過ぎず、あくまで「市井の夫婦のいい話」の範囲に留めている。このあたりのバランス感覚がいい。「志ん朝の型」ならではの『芝浜』の魅力を存分に味わわせてくれる見事な一席だった。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2019年2月1日号

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