【インタビュー】高橋一生&蒼井優、信頼と安心の共演は「すごくいい体験、いい時間」

2020年1月24日(金)7時45分 シネマカフェ

高橋一生&蒼井優『ロマンスドール』/photo:Madoka Shibazaki

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高橋一生蒼井優、意外なようで、何だかしっくりくる取り合わせだったりもする。ともに10代から俳優としての道を歩き、多くの作品で経験を積み、30代の今、磨き上げた演技力が彼らの強い脚力になっている。ふたりは男と女であるし、築いてきたキャリアの彩りも異なる。けれど、誰にも似つかない存在感で柔らかな光を放ち、気づけば魅力の渦に落とされるような面こそ、共通するところかもしれない。

高橋さんと蒼井さんが19年ぶりに本格的な映画共演となった『ロマンスドール』は、タナダユキの小説を、タナダ自身が脚本・監督として作り上げた1作で、ふたりは初の夫婦役となった。一目惚れをして結婚した園子(蒼井優)と幸せな日常を過ごしながらも、後ろめたい気持ちから、自分がラブドール職人であることを隠し続けている哲雄(高橋一生)。哲雄が仕事にのめり込むにつれ、園子とはセックスレスになっていく。いよいよ夫婦の危機が訪れそうになったとき、園子から、ある秘密を打ち明けられるのだが…。


痺れるような会話劇、一転、会話のない肉体を通してのやり取りが、作品の色となり薄いヴェールに包まれたような世界観を染め上げていく。まるで「玄人技」とも呼びたくなる見事な演技のハーモニーについて告げれば、高橋さんと蒼井さんは、「ありがたいですね」、「うれしいですね」と小鳥のように囁き合って微笑んだ。互いだからこそ引き出し合い、預け合えたと語る、胸に迫る芝居について聞いた。

『ロマンスドール』はファンタジー要素もあり、ものすごく残酷な部分もある

——即決に近い形で出演を決められたそうですが、タナダ監督の作品の魅力について、どう感じていますか?

高橋:ファンタジーであっても結構肉薄というか、タナダさんの冷静な目線みたいなものが、映画そのものにすごく効いているところが魅力だと感じています。人生って、急にファンタジーっぽくなったりもする。そんなファンタジー要素もありつつ、非常にシニカルだったり、ものすごく残酷な部分もあったりして。そのバランスが、僕らが生きていて何かを感じてしまうときに、限りなく近いんじゃないかなと思っています。


蒼井:私は、仕事をやっている上で、タナダさんという存在がすごく大きくて。もし、タナダさんの名前を伏せていたとしてもわかるぐらい、安心できる台本だと思っています。勝手にですけど…、感性が似ていると思っているので「タナダさんといつかお仕事できるかもしれない」という希望が自分の中にあったりしました。自分の地元があるみたいな感じ、とでもいうのかな(笑)。

高橋:地元ね(笑)。


蒼井:地元ほど、いつでも帰れるわけではないですし、緊張はしますけど、タナダさんと組むと、後天的ではなく、先天的な感覚でお仕事ができるんです。「そうそう、私はこういうことで照れるんだ」とか、「こういうことに、はにかむんだ」とかを思い出させてくれる場所で、「ここは頑張らなきゃ」とか、「ここはこれでいいんだ、この世界は」みたいなことではなく、居させてくれる現場なんです。だから、すごく大きな存在です。タナダさんの作品は心強いんですよね。


「やっぱり優ちゃんとでないと出せない」「すごくいい体験、いい時間」

——信頼感のある台本の上、さらにおふたりが真ん中に立っていると、鬼に金棒感もあります。お互いだからこそ到達できたようなシーン、演技の瞬間はありましたか?

高橋:園子と哲雄が会話する食卓のシーンです。よく芝居はキャッチボールと言いますが、ジャグリングだと思いました。会話という球をテーブルの上で投げ合うと同時に、テーブルの下で違う球を何個も投げ合っているような。「この感じは、やっぱり優ちゃんとでないと出せないな」と思いました。お芝居という会話の中で、台詞を言ったから相手が台詞を返す、という次元ではないんです。優ちゃんとだと、いくつもの球が同時に飛んでいる。そういうことは、今こうやって僕らが会話をしていてもあることだと思います。


作品によっては、わかりやすくするために、ひとつの球を受けて返すということも必要になると思います。けれど、この作品では多くの球を同時に渡していくことを許してもらえる感覚でしたし、それはかなり高度なことだと僕は思っていて。本当に、優ちゃんとでないと成立しなかったんじゃないかと思います。

蒼井:ありがとうございます。私から言えば、台詞を覚えてさえいれば、何かを自分でやらなくても、自然とその台詞に行き着く安心感がありました。「この台詞の後は、私はこう言うんだ」とかがないから、カメラの前で、本当に呼吸をさせてもらっていた感じでした。

息を詰めたり、鼓動が速くなったりが映らないことをきちんと体感しながら、ワンカット、ワンカット積み重ねることができたからこそ、すごくいい映画『ロマンスドール』ができたのかな…、うれしい、というのが正直な気持ちです。もちろん自分の芝居に関しては、反省点もいっぱいありますけど、すごくいい体験、いい時間を過ごさせてもらったなと思っているんです。


——「いくつもの球」が飛び交い、呼吸しながら演技ができたという本作なので、台本に載っている言葉や物語以上のものが、完成作には詰まっていると言えそうですね。

高橋:実は僕、台本は完璧には覚えていないんです。

蒼井:そうそう。台本にしがみつかなかったです。

高橋:たとえ台詞が一行が抜けてしまっていても会話できたんです。なんだか不思議でした。後でタナダさんに、「台詞2個抜けてた。もしかしたら、これいらないかもね」と言われたりもして。そんなことが何回かあったでしょうか。言われた僕も「あっ、そう言えばそうだ」と思うぐらい。結局、合間が抜けても成立してしまうほどの空気感だったんです。普通だったら構築していかなくてはいけないものがあるし、順番もあるけれど、お互いに会話を受け取っているから、そうなれたのかもしれないです。


蒼井:そう、受け取っているからですね。お互いが違和感を覚えて、「一生くん、セリフ抜けてたよ」みたいなことじゃなく、お互い気づかずに普通に会話を積み重ねたりして。

高橋:そう。そのような会話や呼吸が、どれだけ現場で重要視されていて、どれだけそれが自然にできたか、ということだったと思います。


高橋一生&蒼井優が思う「理想の現場」

——キャリアの長いおふたりに、ご自身が思う「いい現場」について伺いたく。特に『ロマンスドール』はそういう現場だったのかもしれなませんが、いい演技ができたりする環境について、理想を教えていただきたいです。

高橋:僕は「俳優部」として捉えてくれているスタッフの方々がいる現場って、結構好きかもしれません。「俳優さん」というふうに捉えられると、柔らかいんですけど、意外と気持ち悪くなってしまうというか。俳優部は俳優部、演出部は演出部という部でちゃんと分けられていて、それが合致して作品を作っていくことを感じられる方々がいる現場は、すごく素敵な現場だなと、常々思っています。


蒼井:私も同じです。演出部、美術部、とかと同じように俳優部、と。映画は、監督がいて、その周りの全員がスタッフみたいな形で、監督が撮りたいものをみんなでどう作っていくかというものだと思うんです。私が一番好きな形は、だからこそ、部の壁がなくなって、手伝えるところは手伝い合えるのがすごく好きで。塚本(晋也)監督の現場とかが、そうで。

高橋:そうなんだ。



——『斬、』では蒼井さんや池松壮亮さんら俳優部の皆さんが、ほかの部と一緒に動いていたと聞きました。

蒼井:本当に、そうでした。ものづくりの美しさを全部見せられた、と思いました。撮影の確認とかをやっている間にダラダラ休憩したり、コーヒーを飲んだりしているわけじゃなくて、この現場にとって誰かが楽になることをずっとみんなが考えて動いている、素敵な現場だったんです。


高橋:思いやりがある現場がいいですね。

蒼井:そうですよね。気遣うとか、気を遣うとかじゃなくて、思いやりのある現場が理想です。

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