三遊亭粋歌 仕上げに複雑な余韻残る引きこもり女性の自立譚

1月24日(金)16時0分 NEWSポストセブン

三遊亭粋歌が見事な作品を披露(イラスト/三遊亭兼好)

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、女性二ツ目、三遊亭粋歌による引きこもり女性を主人公にした、単なる「いい話」に終わらない複雑な余韻が残る噺についてお届けする。


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 新作で人気の女性二ツ目、三遊亭粋歌。彼女が昨年12月11日に「粋歌の新作コレクション2019冬」(内幸町ホール)で披露した『浮世の床から』は、新境地を切り開いた見事な作品だった。


 この日の1席目は『嫁の話がつまらない』。働き方改革で残業が減り、新婚の嫁のつまらない話を毎日延々と聞かされることに耐えられなくなった男が、上司の助言で他人事として「嫁のつまらない話に悩む同僚」の話をしてみると、嫁は「その奥さんは浮気を隠すためにわざとつまらない話をしてる」と言って不倫のディテールを語りだし、夫を不安のどん底に叩き落とす。もともとは橘家文吾のために書いた作品だ。


 2席目は、まだインターネットがなかった時代、ラジオの深夜放送に熱心に投稿し続ける田舎の中学生たちを描いた『ラジオデイズ』。古今亭駒治の作品で、粋歌は独自のアレンジを加えて自分らしく演じた。


 そして3席目が『浮世の床から』。テーマは「引きこもり」だ。


 引きこもり歴30年の43歳女性、烏森サワコが、父に自立を促されて人材派遣会社へ。担当の楠木は、問題のある企業からの派遣依頼に対し、引きこもりを面接に送り込んで不合格にさせようと目論んでいた。


 サワコは、バイトのイタズラ動画がネットで炎上したコンビニに連れて行かれる。オーナーの米寺は落語好きの豪快なオバさん。あの動画の犯人は息子だと、あくまで明るい口調で打ち明けながら、会話に落語ネタを放り込んでくる米寺に対し、対人恐怖のサワコが「落語の世界はみんなが受け入れられて、生き辛さがなさそう」と言うと、米寺は「あなたみたいな人、好きよ。自信を持ちなさい、大丈夫!」と励まし、あの炎上騒ぎで閉店するから雇えないとサワコに詫びた。


 自分の方が大変なのに「来てくれてありがとう」と言う米寺の温かさに心を打たれたサワコは、そんな米寺を悪しざまに言う楠木にキレて、初めて人に対して大声を出す。


 この後、二段構えのドンデン返しが待っていて、そのラストは厳しい現実を突きつけるが、サワコの心の中には一筋の光明が見えていることが、サゲの一言でわかる。


 実はこの噺、昨年8月に作ったものの、あまりに重くて「もうやらない」と思ったのだという。だが粋歌はサワコが好きになり、彼女を何とかしてあげたいと工夫を重ね、この日の高座に掛けた。その成果は目覚ましい。単なる「いい話」に終わらず、あえて複雑な余韻が残るように仕上げた粋歌のセンスに脱帽だ。


【プロフィール】ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2020年1月31日号

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