新国立で注目 建築家・隈研吾が、トルコの現代アート美術館を手掛けた理由

1月25日(土)11時0分 文春オンライン

 海を越えた、ちょっと遠い国の話である。


 トルコの内陸部に、エスキシェヒルという人口85万人あまりの都市がある。オスマン帝国時代の古い街並みが残る一角に2019年、現代アート専門の美術館ができた。「オドゥンパザル近代美術館」だ。


 トルコの現代アートを中心に、世界のアート動向とリンクした展示が観られる場になっており、さっそく地域の中心として人の集う場となっている。



OMM by Kengo Kuma and Associates. Fotoğraf_Photo ©NAARO


 この美術館が私たちにとっても興味深いのは、外装内装とも木材によって構成されているところ。周辺の住宅はかつて木造が主で、その伝統によく馴染むようなつくりになっているのだ。オドゥンパザルというのは地名なのだけど、これは「木材市場」という語句に由来するのだとか。一帯は以前、木の集積地だったのである。




 それにしても、館に身を浸しているとなんだか妙に懐かしい。それどころか、見覚えがある気すらしてくるのは不思議……。写真を見てそう思ったとしたら、その感覚は正しい。そう、この建築は隈研吾さんと隈さんの事務所の副社長・池口由紀さんの設計によるものなのだから。


アジアの両端で木の文化が花咲く


 隈研吾さんといえば日本を代表する建築家のひとりだが、今年はいつにもまして注目されている。東京オリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の設計に関わり、先立って3月にオープンする山手線の新駅、JR高輪ゲートウェイ駅舎の設計にも携わった。つまりは、世界に発信されるべき日本のデザインイメージを、一身に担っている存在である。


 新国立競技場、JR高輪ゲートウェイ駅舎とも巨大な建築であるというのに、威圧感のない温もりに満ちた雰囲気をまとっているのは、隈さんの建築が木材ベースでできていることによるところ大きい。日本という土地が培ってきた木の文化を最大限に生かし、継承していくことに、隈建築は重きを置いているのだ。


 その方針は、トルコに建てた「オドゥンパザル近代美術館」でも変わらない。


「この美術館にはパイン、つまり松材を使用しました」


 とは、現地の開館式典に臨んだ隈研吾さん本人の弁。



 先述の通り、エスキシェヒルは日本と同様、長らく木の文化を育んできた土地柄である。隈さんが追求してきた建築思想と、オドゥンパザル地区の文化・風土は、ひじょうに相性がいいようだった。


「調べてみるとこの地域の伝統的住宅は、柱と梁を組み合わせる基本構造で、2階部分が飛び出て庇をつくっている。歩いていると、日本の街道沿いにでもいるような懐かしさを感じますよ」



 アジアの両端にあたる日本とトルコが、かくも近しい風土・文化を持っているとは。トルコの地方都市で美術館を建設するにあたって、隈さんに依頼がきたのは不思議でもなんでもなく、まさに適役であった。



これからの建築家は「コミュニケーター」である


 いまオドゥンパザル近代美術館へ赴くと、館の内外ともに多くの人でにぎわっていて、設けられた木の階段に座り込んだり、熱心に立ち話をしていたり。すっかり人が留まり交流する場として定着している。


 これは隈研吾さんのねらい通りだ。展示作品の観やすさなどもさることながら、美術館は人が集い出会う場所として機能すべしというのが、隈さんの美術館建築の根本思想である。




 これからの建築家の役割は、建築作品を残すだけではなく、


「コミュニケーターであるべきだと思う」


 とも隈さんは言う。建築を通して地域の人たちのコミュニケーションを促すこと。トルコのエスキシェヒルでも東京でも、隈研吾さんの手がけたあらゆる建築が担おうとする役割はそこにある。



(山内 宏泰)

文春オンライン

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