8年ぶりの東京事変 好奇心だけで聴くととんでもないことになる——近田春夫の考えるヒット

1月25日(土)17時0分 文春オンライン

『選ばれざる国民』(東京事変)/『おやすみ』(Nissy(西島隆弘))



 お恥ずかしい話だが、アタマのなかで東京事変は椎名林檎とゴッチャになっていた。


 ただ失礼を承知で申せば、最終的には、東京事変も、意味として“椎名林檎の範疇に属するもの”というのが、きっと俺だけではない、世間一般のコンセンサスよね。



絵=安斎 肇


 今回の新譜も、作曲こそメンバーの浮雲とはいえ、一聴すればわかるのは、椎名林檎の歌唱部分の印象の、やはり抜きん出て強いことだろう。


 それにしても『選ばれざる国民』とは、またなんとも挑発的なそしてなんとも彼女らしい日本語題! ではないか。



選ばれざる国民/東京事変(ユニバーサル/配信)作詞:椎名林檎、作曲:浮雲。英文タイトルはThe Lower Classes。


 ネット上にティザーの動画が上がっていたので観た。


 モチーフは、かつての東京オリンピックの入場行進の映像記録あたりに違いないのだが、のっけからもう“全体主義国家のプロパガンダ”のような、尋常ならざる緊張感が漂っていて、見るものの心をざわつかせる。ひょっとして本当に極東は“事変前夜”なのでは!? という気分にさえさせられるほどなのだ。こんな本格的な“悪夢な感じ”の似合うのは、我がjpop界では、椎名林檎以外にはちと見当たらないかもしれませぬな。


 さて、そんな『選ばれざる国民』の歌詞なのだが、これがタイトルを見事に反映したというか、マジ“洒落にならぬ”ほどの、ネガティブのオンパレードなのだった!


 ♪ 圏外も炎上中 刺し違える群衆

 ♪ 一生を訓練で終えるんだ/一人ぼっち そう完全に


 といった塩梅で、たとい、


 ♪ 勘違いすな 世界の平和を願え


 などというくだりがあろうとなかろうと、読んでいるうちに、もう陰々滅々とした救いのない気分にさせられてしまった私である。鬱気味だったり精神的に不安定な状態の人とかには、好奇心、怖いもの見たさだけで付き合ってしまったりするととんでもないことになるゾと! この際本気で警告しておきたい(笑)。



 おっと、内容のちゃんとした説明がまだであった。要するにここでの国民とは我々この国に住むもののことで、その置かれている立場を、彼女の視点/主観から俯瞰したものといえば、当たらずとも遠からずではあろう。それにしても、もし椎名林檎には今の日本が本当にこのような景色に映っているのだとしたら、彼女相当にヘヴィな不幸せな世界に住んでるよなぁ。まぁ、あくまでお話しとして書いてるとはわかっちゃいるんだけど、リアリティは流石である。


 とはいえ、例によって歌詞のすべては聴き取れないのがjpopの良さだ。一種BGM的に流している分には、名うてのミュージシャンたちの、丁々発止のやり取りや案外爽やかなコーラスも魅力なフュージョンナンバーとして、充分に楽しめる仕上がりとはなっているので、実際のところはそこまで構えて向き合う必要もないのではありますが。



おやすみ/Nissy(西島隆弘)(AVEX/配信)AAAの西島のソロ楽曲。各配信チャートのリアルタイムランキング首位を獲得。


 Nissy(西島隆弘)。


 曲は普通だが、歌う表情に女子はメロメロなのだろう。映像を観てそう思った次第。





ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト〜世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。




(近田 春夫/週刊文春 2020年1月23日号)

文春オンライン

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