【インタビュー】有村架純、菅田将暉との共演で芽生えた責任感「自分たちが次の時代を作っていく」

2021年1月25日(月)7時45分 シネマカフェ

有村架純『花束みたいな恋をした』/photo:You Ishii

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私たち世代の、等身大の恋愛映画がついに生まれた——。率直に言えば、『花束みたいな恋をした』はそんな思いに駆られる作品だ。2015年、東京・明大前駅で終電を逃した21歳の男女、麦と絹。ふたりが歩んでいく5年間を、当時のカルチャーを織り交ぜてリアルタイムに描いていく。

人気ドラマ「カルテット」(17)の脚本家・坂元裕二と土井裕泰監督が、映画では初タッグを組んだ本作。運命的な出会いに恋の予兆を感じたふたりが付き合い、同棲を始め、社会人になったことでモラトリアム期間が終わり、恋愛感情にズレが生じていくさまを、坂元ならではの“生きた”セリフの数々が彩り、土井監督の優しいまなざしが観客の涙を誘う。

菅田将暉と共に、ある男女の5年間を生きたのは、近年ますます活動の幅を広げる有村架純。「有村架純の撮休」(20)や『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(21)など、話題作に引っ張りだこの彼女は、どのような想いで本作に挑み、何を得たのか。

本作の舞台裏から、大切にしている本や、いまの目標に至るまで、有村さんの豊かな“感性”と“言葉”があふれ出すロングインタビュー。じっくりと、身を浸していただきたい。

坂元裕二の「設定に頼らない」姿勢に共鳴

「撮影前に『坂元さんにとって「花束みたいな恋をした」はどういった作品ですか?』と聞いたら、『日記のようなお話です』とおっしゃっていたんです」と語る有村さん。

「坂元さんの『麦(菅田さん)と、絹(有村さん)は、ある意味出会ってしまったことが悲しい運命だったのかもしれない』という言葉が、すごく印象に残っています。お互いの好きなものを全部共有してしまったし、多分この先も何かに触れた時に必ず思い出す存在になったはず。自分が好きだったはずのものが、ちょっと切ない思い出になってしまった——。そういう切なさは、坂元さんにしか表せられないものだと思います」。

有村さんと坂元さんといえば、名作ドラマと名高い「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(16)に続くタッグ。「完成版を一緒に観たのですが、『すごく良かった』と言ってくれて、だけど私に対して『今でもよく分からない人で、できればずっと知りたくない』とおっしゃっていました」と明かす。


「坂元さんの中でどんどん想像して創作していってほしいなと思ったので、『知らないままでいてください』と伝えました」とほほ笑む有村さんの“返し”も見事で、早くも3回目のコラボレーションへの期待が高まるところ(ちなみに、今回の菅田さんと有村さんは、当て書き(役者を想定して脚本を書くこと)だったそうだ)。彼女自身も、坂元さんに対する“共鳴”を口にする。

「坂元さんがラブストーリーを書くときに気を付けているのが、『わかりやすいシチュエーションや設定に頼らないこと』だそうなんです。そうじゃない方向で戦うために考えているし、課題を持ってやっているんだ、とおっしゃっていて、自分も納得できる部分がありました。

私自身も近年等身大のキャラクターというか、目立たないタイプを演じる機会が多く、すごく難しいとずっと思っていたんです。でも、坂元さんがそこで勝負しているとおっしゃっていたから、自分自身も同じようにありたい、一個一個の役にちゃんと向き合いたいと改めて思いましたね」。


菅田将暉との休憩時間の会話が、役に生きた

ちなみに坂元さんと菅田さんは、ドラマ「問題のあるレストラン」(15)に続いてのタッグ。同じ坂元作品の出演者だが、菅田さんと有村さんが本格共演するのは初めて。にもかかわらず、劇中では見事な連係プレーを見せている。一体どうやって、「何年も付き合っているふたり」の空気感を作っていったのだろう?

「1か月半で5年間を演じないといけなかったので、本番以外のところで距離感や空気感を補いました。菅田くんも、本番以外の時間をすごく大事にしてくれていて、撮影以外の時間も音楽の話をたくさんしたり絵しりとりをしたり、そういう他愛もない会話をずっと現場で行っていましたね。その雰囲気のなか本番に向かっていけたので、どっちが演技かわからないくらいの感覚でした。おかげで、麦と絹の5年間を画面に映すことができたと思います」。

さらに、Awesome City Clubやきのこ帝国など、劇中に登場するバンドの楽曲を改めて聴き込んだり、麦と絹をつなぐ今村夏子の小説を読んだり、その他の小説家や漫画家たちの作品を調べたりと、固有名詞がたくさん出てくる本作だからこそ、インプットに励んだそう。ただ、有村さんは「菅田くんとじゃなければ、この雰囲気は出せませんでした」と強調する。

「ラブストーリーの経験は多くさせていただいているんですが、実は付き合い始めてからの物語って初めてなんです。いつも会えなかったり、先生と生徒の関係だったり、何かしらの壁があったので、こんなにスムーズに恋愛をしたことがなくて(笑)。付き合っている雰囲気をどういう風に出せばいいのかは、菅田くんのおかげで肩肘を張らずに、自然体で取り組むことができました」。


また、有村さんは「菅田くんとは初めてこんなにしっかりお芝居をさせてもらったのですが、改めて思ったのは、彼はとても人望が厚い方だということです」と、彼の人間的魅力についても指摘する。

「菅田くんはその人自身を認めて、受け入れられる方で、絶対に否定しない。菅田くんと接しているうちに自分のいいところが見えてくるからこそ、みんなからこんなにも信頼されているんだなと感じました。そうした姿勢を見られたことも、一緒に過ごせた1か月半の収穫ですね」。

そして有村さんは、菅田さんとのこんな微笑ましいエピソードも明かしてくれた。

「絹が初めて麦のアパートに行くシーンでは、パーマをかけていたんです。雨に濡れる描写もあるので余計に髪がくるくるしていたのですが、その後にあった『麦が絹の髪をドライヤーで乾かす』というシーンで、菅田くんがパーマが取れないようにすごく気を遣って乾かしてくれました」。


撮影前と撮影後で全く違ったモノローグの演技

『花束みたいな恋をした』で興味深いのは、「日記のようなお話」という言葉通り、麦と絹のモノローグ(独白)に、重きが置かれていること。坂元さんの作品の特徴でもあるが、時としてダイアローグ(対話)以上にセリフ量が多いのは、映画という形態においてはなかなかに珍しいバランスだ。役者からすると、モノローグは別録りであるため、「二度演じる」ような意識でもあるだろう。有村さんによれば、その部分にも実に本作らしいドラマがあったのだという。

「最初に、『使うかはわからないけれど1回やってみよう』と、土井監督にも立ち会っていただき、俯瞰の目線で1回モノローグを録ったんです。そのあと、本編を全部撮りきったあとに改めてもう1回録り直したら、麦と絹を演じた後だから、全く客観的な目線じゃなくなっていたんですよ。土井監督も『麦と絹の話だから、モノローグも気持ちを込めて話したほうがいい』と言ってくださって、そういう意味では監督の演出がしっかり反映されたものになっています」。

思えば、本作はほぼ順撮り(脚本の流れ通りに、順を追って撮影すること)で撮影が組まれており、そういった部分にも、『映画 ビリギャル』(15)でも有村さんと組んだ土井監督のマネジメントの上手さが感じられる。もちろん、「カルテット」などで坂元さんの脚本の活かし方を把握している、という経験則もあるだろう。


「普段口ではしゃべらないようなことが言葉になってセリフで起こされていた部分がいっぱいあったんですが、不思議と自分のすぐ近くに言葉が落ちている感じがしたんです。坂元さんが書くセリフは、着眼点だったり、目立たない方を主人公にしていることもあったりして、本当に呼吸をするように自分の中で咀嚼できる。だからこそ、モノローグでもダイアローグでも、あの雰囲気が出るんだと感じましたね」。

清廉な言葉で、坂元さんが紡ぐ言葉の魅力を分析する有村さん。改めて、本作の中のお気に入りのセリフを聞くと、「サンキュー、押しボタン式信号」を挙げてくれた。これは、麦と絹が初めてキスを交わす際に登場するもの。

「押しボタン式信号に感謝する時が来るとは思わなかったですね(笑)。当たり前すぎてスルーしがちな出来事を坂元さんはちゃんと覚えてて、言葉にしてくれる。『押しボタン式信号って、(ラブストーリーの中で)こうやって使うんだ!』とびっくりしました(笑)。すごくユニークで、チャーミングで…とても気に入っています」。


“お守り”になっている書籍「日日是好日」

笑顔も交えながら、リラックスした雰囲気で、はきはきと質問に答えてくれる有村さん。それでいて一つひとつの言葉が洗練されており、その言語化能力の高さには、改めて驚かされる。ここからは、芸歴11年目に突入した現在の有村さんを形成した「経験」や「信念」について、話を聞いていこう。

劇中では「2014年のサッカーワールドカップのブラジル国民よりはまし」と、自身のメンタルケアを行う絹の姿が描かれる。有村さんはどうやって、苦しいときに自分を奮い立たせているのだろう? 彼女は「綺麗ごととか、格好つけているわけではなく、自分に矢印を向けちゃうタイプなんです」と前置きしたうえで、話を続ける。

「やっぱり、大変な現場を乗り越えられたことが大きいですね。たとえば、朝ドラに出演していた時期は、平日はタイトなスケジュールをこなさなければならず、撮影がない土日は別のお仕事を行っていました。そういう状況の中で過ごした期間中は正直ついていけていない部分もありましたが、いまは『あれを経験したんだから大丈夫!』と思えるようになりました」。

苦難も試練も糧にして、成長してきた有村さん。「作品の空気や世界観にブレがないかなど、自分が演じる役柄以外のところをより考えるようになりました」と変化を語る。だが同時に、「そういった部分を見られる余白はできたかなとは思いますが、まだすべてに気を配れているかというと、全然そんなことはないです」とストイックな姿勢も崩さない。

それは、「自分一人ではない」という意識が働いているが故だろう。「どの現場に行っても、セットをじっと観察しています。その役が生きている説得力がより強まるものが、衣装や美術だと思うんです。役を演じるヒントがたくさん隠されていて、面白いですし、いつも助けられていますね」との言葉からも、俳優部としての矜持がにじむ。常に貪欲に、かつ真摯に——。下学上達を地で行く部分が、有村さんの強みだろう。

そんな彼女の“お守り”になっているのが、書籍「日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ-」だ。「自分の人生の基盤になっていますね。茶道の話ではありますが、人間としての在り方やお芝居の向き合い方など、自分にもつながる部分がたくさんあって大好きですし、すごく大事にしています」。


次の時代を作るべく、諦めずに戦い続ける

新型コロナウイルスが世界を襲った2020年を総括し、「きっと、皆さんが色々なことに“気づいた”1年だったと思います。そんななか、人と人のつながりや、ぬくもりといった見えないところに改めて価値を感じる方が増えたのではないでしょうか」と語る有村さん。いま、この時代にラブストーリーが持つ可能性についても、持論を教えてくれた。

「家族も友だちも、性別も関係なく、全てに対して愛は生まれるから、我々はラブストーリーを生きていると考えています。様々なカルチャーに救われたり、好きなものに救われたりする人もいらっしゃるけど、人を救えるのは人が1番じゃないでしょうか」。

そして、目線はさらに向こうへ——。本作で同い年の菅田さんと共演したことで、さらなる責任感が芽生えたそうだ。

「菅田くんは、自分たちが次の時代を作っていかなきゃいけないと意識がすごく高い方で、自分の思いを行動に表わすこともできる。その姿が、後に続く20代前半の役者に『自分もこういう風に、実体として残していきたい』という影響を与えていると思います。菅田くんが先陣を切って体現してくれることによって、私たちも勇気をもらえるし、尊敬しますね。私も、次の世代の子たちのためにもそうだし、先輩たちが作ってきたものを壊さないでちゃんと結果として残していかなきゃいけないなと思います。

私たちの年齢は、忙しくさせていただいていた時期から、少し落ち着いてじっくり仕事と向き合う時間に差し掛かっていると感じています。考える時間が増えたときに、どういう方向でやっていこうか、きっとみんな同じところで悩むかと思うのですが、悩む時期は悩む時期で、楽しまなきゃいけないし、戦い続けなきゃいけない。私の中では、『諦めない想い』があります。

いまやっていることにいつか実りが来るかもしれないし、どうなるか分からないけど、とにかくやり続けるしかないと思っています。あとはちゃんと自分のセンスを信じて選択することですね」。

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