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四人囃子が『一触即発』で示した欧米に劣らない高品質な日本のロック

OKMusic1月25日(水)18時0分
画像:『一触即発』(’74)/四人囃子 (OKMusic)
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『一触即発』(’74)/四人囃子 (OKMusic)
1月25日に『四人囃子アンソロジー 〜錯〜 』が発売された。現在、絶版となっているBOXセット『From the Vaults』『From the Vaults 2』から厳選した楽曲をリマスタリングされている他、代表曲「一触触発」「おまつり(やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった)」の“alternate version”を初収録。また、未発表のライヴ映像も豊富に収められており、ファン垂涎のアイテムと言える。本コラムでは、その四人囃子のデビュー作『一触即発』を取り上げ、時代背景とともに解説してみようと思う。

国産ロックがアングラだった70年代前半

本コラムは“これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!”なるタイトルであるので、ここで紹介するアルバムはどれもこれも聴き逃してほしくはない作品ばかりであるが、「これを聴かないのはほとんど犯罪的」とすら言いたくなる、マスト中のマスト、究極の名盤と言うべきものもある。今回紹介する四人囃子の『一触即発』は間違いなく、そのひとつだろう。人によっては邦楽オールタイムベストに選ぶ人もいるだろうし、邦楽ロックのマスターピースと呼んでも過言ではない。未体験の読者は今からでも遅くないので、すぐさま音源入手に動いたほうがいい。拙文を読むよりもずっと有益だ。

『一触即発』の発売は1974年。まず、この年の音楽シーンがどうだったかを振り返ろう。井上陽水のアルバム『氷の世界』が大ヒットしたのが1974年で、この年の年間アルバムチャートには『氷の世界』の他、『陽水ライヴ もどり道』『断絶』『陽水II センチメンタル』もランクインし、井上陽水がブームとなっていた年である。ただ、シングルを加えた総合売り上げは、1位:殿さまキングス、2位:フィンガー5、3位:西城秀樹、4位:山口百恵、5位:五木ひろしと、世の中はまだまだ演歌、歌謡曲全盛の時代。ジャックスもはっぴいえんどもサディスティック・ミカ・バンドもキャロルもすでに世に出ており、しかもジャックスとはっぴいえんどはすでに解散していたので、国産ロックは萌芽していたと言えるが、メインストリームには程遠かった。テレビでロックが紹介されることは皆無に近く、ヤングたちの情報入手先は専らラジオの深夜放送だったらしいが、それにしても、紹介されるロックの多くは海外のものが多かったという。と言うのも、当時のナウな国産音楽はフォークソングが主流であり、GSブームが収束していたので、ヤングの間では「エレキは時代遅れ」という風潮もあったとか。少なくとも1970年代前半までの国産ロックはアングラだったのである。

一方、欧米のシーンはと言うとThe Beatlesはとっくに解散しており、各メンバーのソロワークが活発になっていた頃で、The Velvet UndergroundやCreamも解散していたし、ジャニス・ジョプリンもジム・モリソン(The Doors)はもはやこの世にいなかった。だが、同時にKing Crimsonの『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)、Pink Floydの『原子心母』 (1970年)、T.Rexの『電気の武者』(1971年)、Led Zeppelinの4th『レッド・ツェッペリン IV』アルバム(1971年)、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』(1972年)と歴史的名盤が次々と生まれ、多様性を帯び始めた時期でもあった。ブルースロック、フォークロック、フュージョン、さらにはグラムロック、ヘヴィメタル、そしてプログレッシブロック(以下、プログレ)といったサブジャンルが派生したのもこの頃で、この60年代後半〜70年代前半を“ロックの黄金期”と呼ぶ人も多い。

美麗、豊潤、濃厚な傑作アルバム

そんな時代であったことを認識していただいた上で『一触即発』を聴けば、この作品がどれだけ画期的な作品であったかが分かってもらえるのではないかと思う。オリジナル盤は全5曲で約35分。今ならミニアルバムでも──いや、シングル盤でもおかしくないほどの曲数、収録時間だが、この美麗さ、豊潤さ、濃厚さは大変なものだ。まず、パッと聴き、音がいい。馬鹿みたいな言い方だが、そうなのだから仕方がない。古典SF映画的なM1「[hΛmǽbeΘ]」(ハマベス)はともかく、M2「空と雲」から、その澄んだ音像にうっとりと聴き入ってしまう。何と言っても、坂下秀実(Key)のエレピやオルガン、シンセ、さらには森園勝敏(Vo&Gu)単音弾きのギターが耳を惹くが、コーラスを含めて歌も実にいい。森園の声は圧しが強く、それだけでも個性的だが、ディレイの塩梅も絶妙で、不思議な奥行きを感じさせる。岡井大二(Dr)のドラムスもいい。スネアやリムショットはシャープだし、シンバルやハイハットに至っては薄い金属を木製の棒で叩いて音を出しているのが眼前に見えてくるかのような音像だ。この辺はM3「おまつり (やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった)」も同様だし、M4「一触即発」は他に比べてラウドさが前面に出ている印象だが、各パートの粒立った音は健在である。また、楽器ではないが、M5「ピンポン玉の嘆き」で使われている(正確に言えば、M4「一触即発」のラスト近くから使われている)、文字通りの“ピンポン玉の嘆き”は最注目であろう。これはぜひヘッドホン、イヤホンで聴いていただきたい。左から右へと音が移動している様子がはっきりと分かる。このステレオ感は当時としてはかなり新しかったということだが、今でも十分に楽しい聴き応えである。

そんな音像が重なり合うバンドアンサンブルがまたすごい。各音がクリアーだからこそ、その掛け合いが細部まで確認できるようで、何と言うか、グルーブが実に艶めかしいのである。この辺は随所で確認できるが、M2「空と雲」やM3「おまつり」の間奏が特にいい。出色なのはタイトルチューンM4「一触即発」。これはもうこのバンドの極みであろう。12分超。ロックバンドとしての堂々たる演奏が詰まっている。特にラウドかつフリーキーなアプローチを見せる後半、その楽曲全体をグイグイと引っ張るリズム隊に鳴きのギターが重なる様子は、まさに圧巻である。明らかにハードロック〜プログレの影響下にあるサウンドではあるものの、歌の日本的な叙情性も相まってか、妙な難解さはなく、嫌味な感じがないのもいい。まぁ、作詞担当の末松康生が書く歌詞はシュールな印象もあり、決して分かりやすい…というものではないが、英語を使わず、平素な日本語の語感が親しみやすさを加味しているとも思う。少なくともスノッブな感じはしない。

天才たちによる邦楽ロックの矜持

さて、話を戻そう。この大傑作『一触即発』が、まだまだ国産ロックがアングラであった70年代前半に出てきたことは先に述べた。これも十二分に驚くべきことだが、さらにすごいのは岡井、坂下は1953年生まれ、森園勝敏は1954年生まれなのである(註:中村真一(Ba)だけ正確な生年月日が分からなかったが、他のメンバーと同年代であったことは間違いない)。そう、四人囃子のデビュー時、彼らはおおよそ20歳。リハサール〜レコーディングは高校を卒業してそれほど経ってなかった頃ということになるから、驚きを通り越して愕然である。何でも《「18歳でPink Floydの大曲「Echoes」を完璧に演奏できるバンド」として、名の知れた存在だったという》(《》ウィキペディアより引用)。前述の通り、情報入手すら厳しかった時代に欧米のバンドと変わらないフィーリングとテクニックを持っていたというのは、間違いなく天才だったと言っていいと思う。“他に比類なき”という形容は本来、四人囃子のようなバンドに使うのだろう。

その後の四人囃子は、茂木由多加(Key)が参加後、中村が脱退。佐久間正英が後任のベーシストとして加入し、5人体制となり、1975年にシングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」を発売する(この「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」とB面の「ブエンディア」は、『一触即発』のCD化の際にボーナストラックとして収録された)。その翌年、茂木が脱退した後、2ndアルバム『ゴールデン・ピクニックス』(1976年)を発表するも、その直後に森園が脱退。1977年に佐藤ミツル(Vo&Gu)が加わって、音源を制作するも1979年に事実上の活動停止と、その活動はなかなか波乱万丈ではあった。その後、80年代、90年代、さらには21世紀に入ってからも散発的に再結成し、2002年には『フジロックフェスティバル』への出演も果たしたが、2011年に中村真一が、2014年には佐久間正英が逝去。オリジナルメンバーで表舞台に出ることは叶わぬこととなったが、70年代に四人囃子がシーンに与えた衝撃は、その後の日本のロックに大きな影響を及ぼしたことは疑う余地がないし、天才たちが遺したものは今も決して色褪せることはない。最後になるが、特に四人囃子というバンド名は本当に素晴らしいネーミングだと思う。和魂洋才。日本人も欧米と同じクオリティーのロックを発信できるという邦楽バンドの矜持だったのであろう。
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