都会を離れて田舎へ移住…本当にいいもの?新作映画『嗤う蟲』で ”村八分” 事件の恐怖を目の当たりに

2025年1月25日(土)15時45分 Pouch[ポーチ]

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。


今回ピックアップするのは深川麻衣さん主演、若葉竜也さん共演のスリラー映画『嗤う蟲』(2025年1月24日公開)。スローライフに憧れる若い夫婦が田舎暮らしで体験した恐怖を描いた作品で、日本各地で現実に起こったさまざまな “村八分” 事件をもとにしています。

試写で観ましたがジワる怖さなんですよ〜。では物語から。

【物語】
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣さん)は夫の輝道(若葉竜也さん)と都会を離れ、麻宮村に移住します。自治会長の田久保(田口トモロヲさん)をはじめ、住民はみんなふたりを大歓迎してくれました。

しかし、その歓迎が次第に過剰なおせっかいへと発展し、煩わしさを感じ始める杏奈。いっぽう、輝道は田久保の仕事を手伝うことになり、逆らえなくなっていくのです、……。

【若者のいない村で異常な大歓迎!】
都会の喧騒を離れて自然が豊かな地方での田舎暮らしに憧れる若い夫婦。彼らが麻宮村に向かうシーンから描かれます。これからの暮らしに想いを寄せて、「もうすぐ夢が叶うね」という感じで笑顔で語り合うふたり。

ふたりが暮らす一軒家は古いけれど味わい深く、高い建物がないので、空も大きく感じます。

でもそんな幸せ気分は長く続きませんでした。夫婦を迎える麻宮村には若者がいないせいか、村人は異常な喜び方で「やっと若者が来た!」という感じ。杏奈たちも過剰な大歓迎ぶりにちょっと引いていたような……。

村の中心人物は自治会長の田久保さん。彼は麻宮村を仕切る存在で、村人たちは彼を信奉しています。一見、人当たりよくやさしい田久保でしたが、無言の圧がすごいんですよ。

【ヒロイン目線で描かれる村の恐怖】
杏奈はリモートでイラストの仕事、輝道は自給自足で生活を支えるはずが、田久保に頼まれた夜の仕事を手伝うようになり、様子がおかしくなっていきます。加えて、夫婦に子どもが生まれると村の人々が赤ちゃんを我が子のようにチヤホヤ。

杏奈は子どもを奪われるんじゃないかと気が気がないし、観ているこちらもヒヤヒヤですよ。

杏奈のストレスは溜まり、夫に助けを求めたくても、田久保に従う夫は頼りにならず……。でも彼は田久保の仕事を手伝ったことをきっかけに “村の掟” を知ってしまい、村から出られなくなってしまうのです!

【麻宮村に支配される杏奈と輝道】
村人の親切を断ったり、田久保に従わなかったりすると、すぐ村人たちに無視されて、商店で物を売ってもらえなくなるなどの嫌がらせが始まります。ご近所との距離が近く、助け合う気持ちが強いのは地方でよく聞く話。

ですが、この村の場合は親切心というより、若夫婦の存在が村の存続に直結しており、村人たちが「この夫婦は絶対に離さない!」という強い意志で夫婦を取り囲んでいくのが怖いのです。

【田口トモロヲさんの怪演が光る】
俳優たちはみんな素晴らしく、とりわけ田久保を演じる田口トモロヲさんは、カリスマ感と共に闇を感じさせて “田久保が出てくると何かが起こる” という空気を作っていくんですよ。一見、ニコニコ親しみやすいんですけど、笑顔の裏に狂気が……。これは田口さんにしか演じられない役だと思いました。

麻宮村に移住した夫婦が経験する恐怖を描いた本作。しかし、見方を変えれば村の人々はルールの中で幸せに暮らしているわけで、過疎化しなければ、こういう村にならなかったのかもしれない……と考えたりして。

ただのこけおどしのスリラーではないし、観終わったあと、いろいろ考えさせられる深い余韻のある作品です。

執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:Ⓒ2024映画「嗤う蟲」製作委員会

『嗤う蟲』
2025年1月24日(金)より全国ロードショー
監督:城定秀夫 脚本:内藤瑛亮 城定秀夫
出演:深川麻衣 若葉竜也 松浦祐也 片岡礼子 中山功太 / 杉田かおる 田口トモロヲ
音楽:ゲイリー芦屋
2024年/日本/カラー/シネスコ/DCP5.1ch/99分/PG-12
製作幹事:ポニーキャニオン
配給:ショウゲート
製作プロダクション:ダブ

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